白座千代/私は不知火…マゴ君の番犬。しかし守られ続けている情けない犬である。

『御館代行・白座千代様が御到着されました!』


 姿が隠す垂れ幕…床机椅子に座る、白装束を付けたダッチワ○フ…孫一が『お前等が崇拝しているのはダッチワイフ程度の人間、だから解散しろ』とのメッセージ、勿論言ってない。

 

 そのダッチワ○フの横まで行くと、私は後ろを振り返る…私はあくまで代行…だが、御館様の意志を伝える唯一無二の存在。

 幾多の才能や権力者が私の…ひいては孫一の指示を待つ。

 この時、いつも激しい重圧がのしかかる。


 私の眼前には、屈強な漢達、世界屈指の天才、妖艶な美姫が並び揃う。

 その者達は一つの目的を持つ集団、その名は…


       【不知火】


 その傘下にあるのは裏世界の名家達

『医療と物量、金の定満』

『定満が下に、根切・土橋・永久・八幡』


『歴史と血脈・そして誇りの西園寺』

『西園寺が下に・藤原・阿修羅・伊集院・塞翁』


『法と外道・そして闇と武の有栖川』

『有栖川が下に、来栖川・吉川・喜多川・獅子川』


 私と対面し先頭に立つは不知火の脳と言っても過言ではない序列・弐

『萬の識と億の策・統率統治の獅子川 美音』

『医術と資金の天秤・生命自在の定満 京香』

『軍と武の国、天と死を崇拝する来栖川 棺』


 その後ろに並ぶは不知火の心臓・序列の参とその傘下

『ジャガーノート・永井率いる近衛鬼神衆』

『アマテラス率いる異能集団・敬天と死天』

『火薬庫・定満一代率いる元・定満の修羅』

『謎のマンゴ仮面率いる獅子川電脳戦部隊』

『流通流行の女王・鬼島…


 長いからやめろ?ちょっと!マゴ君!全部書かせてよ!獅子川の資料コピペで良いとか言わないでよ!頑張ったのに!これから同級生が出て良いとこなのに!…


 とにかく、私は不知火のトップに立つ孫一の代行をしている。

 私の前には私に出来ぬ事をやすやすとこなす、超人達が並び立つ。

 丹田に力を入れてなければ身体は震え、孫一…マゴ君の事を思わなければ心が折れる。

 ま、マゴ君…私に力を…勇気を…

 

「不知火の同士よ!御館様の為、貴方達の命を!魂をかける覚悟はあるかっ!?」


 来栖川棺、定満京香、そしてアマテラスの背後から西園寺麗羅が宣言する。


『我等の魂と誇り、白座孫一と共にあり!』


 御三家は不知火と白座孫一に命と魂をかける、と。


 そして獅子川や永井は中空を見ている…近衛衆と呼ばれる孫一に近しい者らは御館様と言わず頭を下げない。

 この者たちは孫一と直接関わっている者だから許されている…いや、実際は誰も頭を下げるなと孫一は言っている。


 この組織は、そして私の役割は傀儡。

 ただし、傀儡と言えど私の後ろには孫一がいる…つまり絶対通すことは出来ないと言える私の立場と役職。

 御館代行なんて聞こえは良いけど…実際は番犬。

 いや、番犬で良い…ただし絶対通さない千代犬だ!


 

―――――――――――――――――――――――


 私がこの人生でやり遂げた事。

 天獣という才能のおかげで孫一の病を治せた事。

 不知火という組織を作り、孫一に道を作った事。

 子を生み、情けなくも、孫一から寵愛を受け続けている事。


 それだけ。後は敗北と屈辱、失敗だらけの人生。


 そしてその敗北と屈辱の尻拭いは彼がした。

 思えば…彼には許され与えられてばかり。


 獣の性質、故に晩成…幼少時、無垢な私を守り育んでくれた。

 何も分からず誰からも愛されず、獣の如く生きる私に愛と優しさと道を示してくれた。


 思春期の不貞、不遜、無知…全てを許してくれた。

 無知故に不貞を働き、本来は孫一に捧げる身体を裏切りとも言える行為で汚した私を…許した。


 女ゆえの欲望、その全てに応えてくれた。

 汚れた私を自らの血で純潔に浄化し、唯一人の千代となった。墜ちた私を付き合ってからは対等に扱い、更には全幅の信頼を置き時として佑けてくれた。


 私は今なお幼少の時から今もなお、困ると決まって『マゴ君』と繰り返し助けを求める。


 大人になっても、未だに恨み言の様に思う。

 マゴ君が他の人を選ぶのは発狂しそうだけど、何より学生時代に発狂したのは『私がマゴ君以外を選ぶ人生』を勧める行為だった。

 本当に嫌だった、何度も本当にやめてと言ってるのにやめなかった…意地悪…だと思った。

 でも、彼は本気で思っていた…自分には何も無いし、何も出来ないと。

 何も与えられていない、だから…私を幸せに出来ないって本気で思っているんだ。

 そして自覚が無い…自分がいかに世界を動かし、最悪を回避し、私や味方、敵をも救った事。


 アキラ君に言っていた…

「異世界で『俺、なんかやっちゃいました?』みたいなチート人生を歩みたいから何とかしろ」

 と、無茶苦茶な注文をしていた。

 マゴ君、知らないかも知れないけどね…私の見えるこの世界で…いや、マゴ君を愛している人から見える世界では、貴方は何度も『俺、なんかやっちゃいました?』をして、何度も救ってくれたんだよ?

 そんな主人公に愛された私は世界一の幸せ者だという事。いつか、わかって欲しいな…



 私は元から運動神経は良かった。中学に入る頃、意識が覚醒したような感覚と共に何でもやれば出来るようになった。

 勉強もやれば出来た。習い事もやれば出来た。

 後から知る、兄や姉と違って私のは『天獣』という素質らしい…現代風に言うとチート、要はズルだ。

 日本でも数多いる【異能】という特異な才能、日本には4人しかいない異能の頂点の力…その名は誰が付けたか『権能』という特権。


 そのうちの一つ、私の権能であり『天獣』とは別の呼び名『耐性と反抗の獣』


 身内や味方からは千代犬と呼ばれたが、敵からはその薬物や毒物、洗脳、更には打撃や斬撃等物理的な武力への耐性から『レジスト・ビースト』と言われた。

 だけど気付いてしまった…他の権能と違い、ただ私が死ににくいだけ…他人の為に何か出来るわけじゃない、だから身体を鍛え武術を学んだ。


 私が他人の為にする事は、最終的にはマゴ君に返ってくる事を知ったが、沢山の支持を積まなければならないのに…あるのは死なない力。

 私は孫一の為に何ができるだろう?

 門番だ…私が吠え続ければ相手は怯み孫一は守られる…私が耐え続ければ体制を立て直し、孫一は逃げる事も出来る。


 私と彼はどうなるのか分からないが関わりを持っているだけで幸せだった…が、犬と言われる所以か?高校在学中に妊娠し、子供が生まれた。

 出産はこれ以上ないほど順調で、生まれてくる子供も頑丈で健康だった。


 ちなみに孫一はその特殊な体質により、子供が出来づらく、更に産まれる子供は短命の可能性が高いらしい。私を引き離し続けたのもそれが原因かも知れない…医師の京香によると、


『予測する限り、千代の卵子側から精子を取り込んだ、どういうことだよ…本体の精神同様、卵子も頭おかしいな…』

 私の卵子が孫一の精子を選び、喰うように取り込むらしい…姉は犬印どころか千代印(笑)とか言うが、卵子まで悪口言われた…笑い事ではないぞ。


 しかし正直、独占欲が満たされた…周り全てに愛され崇拝される男、そして世界で1番愛する人が自分とその子供の為に生きると言った。

 意地汚い私は、歓びで発狂しそうになった。

 不思議と2人共、お互いの特徴を滅茶苦茶に混ざって引き継いだ。

 定満の事…家の事もあるから忙しかったけど…子供と夫と仲の良い姑、そして友人達…私は本当に幸せ時間を享受した。悔いのない程に。


 それから7年…長いようで短かった。

 私の大好きな孫一のお母さん、子供の時から唯一尊敬していた女性。

 亡くなる少し前、孫一のお母さんから言われた…自信がないことを見抜かれていた。


『私はこれから孫六の所に行くけどね…だからこそ今度は千代ちゃんの華が開く時よ?貴女のお母さんは一代…名前の通り、一代で定満を蘇らせた。』


『でも義母さん…私は何も…子供の時から…何にも出来ない…です…いつも義母さんは…子供の時は義母さんだけが良くしてくれるたのに…何も出来なくて…うぐ…ごみぇんなしゃい…グス…』


『んーん、それは違うわ…もう十分…息子の嫁に良くしてもらったわ…千代ちゃんの千代は千年…いや、永遠という意味なのよ?分かる?それは私や孫六、アキラ…薄命で短命の白座の宿命を変えた…近い内に断絶すると言われた孫六の血を…貴女が身体の頑丈なマシロとチカを産み呪いを終わらせた。孫一は全ての生き物に死に水を与える化物と言われているけど…その長生きする力は…千代ちゃんの気持ちや願いで叶ったの…それを叶えたのは千代ちゃんの永遠に諦めないの心…叶うまで諦めない心…それはどんな願いも叶えるという…誰よりも最高で最強で素敵な力よ(笑)』

 

 何もない私にこの人は…運が良かったとしか言えない私にここまで言ってくれる…この人には永遠に届かないと思った…だけどこの人の言う永遠に諦めるのをやめない心を持とうと思った…そしたらいつか…届くと思うから。


 義母さんが亡くなった。世界が変わる…定満の手伝いをしていたから知っている…義母さんによって堰き止められていたものが…大きな濁流となって定満に…私達家族に押し寄せる。


 来栖川棺という天賢にして傑物が、天戦という最強の権能持ちと、軍隊を率いてこの国の覇権を取りに動き出した。


 破壊らしき者がいると聞いた、その噂を聞きつけ阿修羅家が動き出した。


 佐伯も間もなく出所するらしい。


 そして…もっと巨大な…何か嫌な予感がする…


 私は死なない…生きて…この生き残りの闘いに勝つのだ。

 マゴ君…孫一!マシロ!チカ!家族と共に!

 

―――――――――――――――――――――――


 孫一が昔、言っていた。この事を予見していたかのように。私の世界が変わったある高校時代の記憶。


「我は不知火、白座千代を妻に迎える者也」


 組織の名前は決めていた…『不知火』…学生時代の彼の命名だ。

 そしてその不知火が…私が定満家に入っても意味がない…それぞれのスペシャリストがいるから。


 資金力は姉の京香がとても太いパイプがある、何故なら姉は医療関係の中でトップに近い権力者だからだ。有名大学病院のトップ…そこまで行くのに一代の権力を使いまくっていたがしょうが無いと思った。


 そして武力…いや、軍事力か…これは私の母、一代が長年のSPや傭兵生活の影響で強者を集めた結果か、闘争の世界に身を置き続ける阿修羅の血の影響か、定満には『修羅』という、一代をリーダーとした武装集団がいる。この修羅が定満を今の地位まで戻したと言っても過言ではない。


 そして定満の家を継ぐであろう長男の辰…兄は裏社会や闇の世界、政治と暴力団組織の世界、特に暴力団組織との折衝が上手い。


 正直、この3人だけでも時間をかければ西園寺も有栖川も吸収出来たのではないかと言われる程の勢いだった。


 私は母の一代が率いる『修羅』の手伝いをしている事は多かったが、それでも興味のなかった自分の家や、家族が…私達を守るためにここまでしてくれているなんて知らなかった。


 その定満の家族ですら今の現状がどう転ぶか分からないらしい。

 そして入ってくる情報は凶報ばかり。

 いくら繋がりやコネや伝手があっても、裏切られたらどうにも出来ない、見限られたら自分を守っていた刃が自らに向けられる。


 ならば不知火は…絶対裏切らない定満を支える裏の組織となる。

 そして中核は絶対裏切らない人間が必要になる。

 それはすでに決まっていた…声はかけてある。

 

 まず私の通っていた高校、犬山学園の当時の先輩や後輩は、この件について協力的だった。

 ベンチャー企業の社長や元から定満程ではないが名家出身の者が多く、それぞれが定満の千代姫に声をかけられるなんて光栄だと言って出資してくれた。

 不知火のスポンサーが増え、資金については飛躍的に上昇した。

 同級生は不知火という組織名の話をすると『あー、あのおかしい人の…』と口を紡ぐのが気になるが…まぁ良い。


 中核には…犬山学園時代の私を含め四天王と言われていた親友達。


 世界の音楽業界で活躍し、孫一の義理の姉である白座レオ。


 美容からアパレルまで幅広い成功を収めた鬼島ミオ。


 そして…変態動画配信者時代から、レオまではいかずとも人気清純派アイドルに化け、その後は起業家として鬼島ミオを超える成功を収めた獅子川ミオン。

 特にミオンは…他の二人や学園時代の級友達はスポンサーとしての協力してもらってるが、組織同士の潰し合いとなると逆に存在を消さねばならない。

 不知火は非公式な組織とはいえ、そこまでは巻き添えにしたくない。


 皆、野蛮な組織同士の潰し合いには慣れていないのだ…しかしミオンは、私や辰兄、孫一の友人の永井と同じで裏社会で潰し合いをした経験のある女だ。


 そして、彼女には既に手を借りている。出所した佐伯…私の過ちである事は理解しているが、佐伯が私を脅迫する計画をミオンは察知し、人を雇い海外送りにした。


 そんな先手必勝の彼女の戦略は唯一つだった。


「我々には大規模な軍事力も長い伝統も無い…だからこそ金で懐柔し、個の力で撹乱し定満で潰す!」


 そう、我々はまず、義母さんの妹…そして孫一の叔母が名代である西園寺の懐柔から始めた…

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