22

 グランとディルに紹介しようと宿屋に戻ると背後から「ブラッティ」と呼ばれ振り向く。すると、「会いたかった」とグランが物凄い勢いで俺に飛びつき、耐えられなかった俺は尻餅をつく。


「んだよ、グラン。いってぇな!!」


 離れろよ、と背中を叩くと「聞いてくれよ。ケロちゃん倒したことが評価されたのか、少しだけ上級のモンスター討伐任されるようになってさ」と嬉しそうに話すグランの横からディルが話に割り込む。


「個人ではなくガーディアン、グランくん、私の三人限定ですが……」


 ディルは楽しそうではなく「面倒くさいですね」とため息をつく。


 嬉しがらない理由は簡単。

【評価されたことにより注目を浴びる】から。


 俺とディルは元【ドラゴンキラー】だから注目を浴びたり、妬まれたり、恨まれたりと人間関係や行動でガラリと立場が変わる。その辛さや大変さを知っているせいか「だな」と自然にディルの言葉に頷く。

 別の意味で報酬が上がるのならウマい話だと思うが、厄介なのは【上級モンスター討伐依頼】よりも【冒険者見習いのバック・パック】。上級に触れるとなれば弱者は強者に媚を売り、ごまをする。それが俺とディルが嫌なのだ。


「えぇ……二人共ノリ悪ぃぃぃ」


 俺から離れ、拗ねるグラン。 


「まぁ、そのうち分かる」


 と、バッサリ切るように返す俺にディルは鼻で笑う。


「で、ガーディアン。そちらのお方は?」


 ディルは俺が連れてきた男が気になるのかマジマジと見ては近づき何かソコソコと囁く。なんだ、知り合いか。と思ったが良からぬことを言ったのだろう。杖を奪われ、思いっきり殴り飛ばされ転がる姿に笑った。


「何してんだよ……ディル。紹介する前に嫌われてるし」


「な……なんでもないです……」


 顔を真っ赤にした男に「ごめんな。少しデリカシーないだろ、コイツ。昔(体が入れ替わる前)、露出高い服の女や強気な女によく殴られててな。裏返すとクズなんだよ。スケベだし」とディルをディスりつつ代わりに俺が謝ると「ガーディアン、ですよ」のディルの声に固まる。 


「ん? 一回頼む」


 顔をディルに向けるとディルは苦笑しながら言う。 


「だから、彼……ではなく彼女。かわゆーい女の子なんですって。あの……なんて言ったらいいんでしょうか。えっと……私のことを覚えてますかね? 数回アナタとは会っているんですが」


 服を叩きながらディルは立ち上がり俺の真横へ。「悪魔に魂でも売ったんですか? 」の言葉に俺はヴェノムに目を向けると今にも泣きそうな顔をしていた。



           *



 ディルとヴェノムいわく前に会ったときは弱々な女の子だったらしい。小柄で怖がりながらもお金のためにバックパック。気遣い良く、準備やアイテム管理や整備と気が利くことからバックパックとして優秀で女性ドラゴンキラーに可愛がって貰っていたらしい。 

 だが、彼女が派遣でついて行ったところ新種の【猛毒属性のドラゴン】と遭遇。ドラゴンキラー、バックパック含め皆、毒に溶かされ死亡――。

 彼女も死ぬ手前で意識が朦朧としているとき、あのダークエルフの声を聞いたらしい。


「キミ、毒貰ったくせに耐性あるのかな? 溶けるスピードが他の人と比べて遅い。興味深いね……ちょっと助けてあげようか?」


 その後、目覚めると元の性と反対の姿。しまいには触れるだけで溶かしてしまう猛毒体質。【猛毒属性のドラゴン】の力を得てしまい今に至る。目が覚めたときよりはコントロール出来るらしいが感情が高ぶると溶かしてしまう癖は治らないとか。


「あの、よく……わか……」


 ヴェノムが一緒に説明してくれたディルを少し信用したのか弱々しく小さな声でいう。


「あぁ、はい。大体女性のことは覚えるのが得意でして。嫌らしい意味ではありませんよ。アナタは特に可愛がられてましたから……覚えやすかったんです」


 アハハッと笑うディルに俺はその言葉が元々狙ってたのか、仲良くしたかったのか妙な感覚に口を瞑るも【女の子】という言葉に声を出さないだけで本心は驚いていた。

 逆にグランは静かに話を聞いてきたが我慢出来ずに「ウェぇぇ!? お前、女の子なの!!」と失礼きまわりない言葉にディルは「まぁ、こちらも訳ありですし、優しい方々ですからよろしくお願いしますね」と言いつつグランを杖で殴り、俺は「持続回復と持続毒で支援も攻撃も出来るならグランはいらねーな」と言葉の矢を射す。


「なんか……二人ともオレの扱い酷くない?」

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