グランの頭を無理やり退かし、俺はテントの外に出ると夜明けを迎えていた。建物の隙間から見える朝日に思わず「綺麗だな」と見とれる。


「前は食って寝てだったから朝日なんて見たことなかったな」


 ハハッと一人で眺めていると「ブラッティ」とマリアの声が聞こえた気がし、下を覗き込む。すると、果物や野菜を抱えたマリアの姿があり、俺は階段を降り彼女の元へ。


「ブラッティ、大丈夫?」


「あぁ、心配かけて悪かった」


「でも、腕……」と包帯だらけの俺の腕を見てマリアは悲しそうな顔をし「お茶しない?」と宿屋のドアを開ける。俺は痛む腕を隠くし庇うように中に入るとカウンターに宿泊している人の名前があり、チラリと覗き見る。あの男旧俺の名前のは無くホッとする俺がいた。


「マリア、そんな早朝に何処へ? 出掛けるなら俺が――」


「実は街の外に畑があってね。そこで収穫してて。ここじゃあ、上手く育たなくて自然の方がいいのかなって。森の近くに人気のない小さな湖があって――」の言葉に俺はあることに気づく。


「なるほどな。街に出掛けてたは嘘か。助けたあの時、畑で野菜を得てたのか?」


「うん、ごめんね。貧困激しいから少しでも自分で出きることをしなくちゃって。だから……」


 マリアは取れ立ての野菜をテーブルに置く。それはどれも綺麗で街に売られている野菜とは違った。傷一つなく色味がいい。


「これ、一人で作ったのか」


 痛む手を無理に動かし、唇を微かに歪ませながらニンジンやトウモロコシ、ナスにキュウリと照明に照らしながら見つめる。艶があり、色味がしっかりしているせいか大袈裟だが宝石みたいに綺麗だった。


「あと、小さいけどスイカとメロンとリンゴとイチゴと……」


 袋から出てくる野菜と果物。目新しいものに俺は感動し「たべ、れるのか?」と匂いを嗅ぐ。


「うん。イチゴ、甘くて美味しいよ」


 マリアは真っ赤で三角みたいな果物を手に取り、優しく水で洗うと俺に渡す。それを俺は一口噛ると口に広がる甘い味とフワッと広がる香りに目を丸くする。しかも、果汁が溢れ、飲み物を飲んでいるような感覚。


「う、ウマイ!!」


 こんなもの、一度も食べたことなかった。


「本当は季節が違う果物や野菜なんだけどね。農業向けのサポート魔法覚えてるから魔法をかけて苗自体を調整してるの。でも、魔法じゃできないものもあるからビニールハウス作ったり、手入れをしたり。お店の空き時間を見て言ってて。黙っててごめんなさい」


 マリアの話を耳にしながらイチゴを食べる手が止まらない。あまりの美味しさに六粒あったのを全て食べてしまった。


「あ、悪い」


「いいのよ。ブラッティにあげたくて」


「俺に?」


「少しでも元気になってほしいから。他にも食べる?」


「いいのか?」


「もちろん!! リンゴのウサギとかどうかな?」


 食べる、と言った瞬間。

 マリアに笑顔が戻る。


「なんだそれ?」


「ウフフッリンゴを皮ごと半分に切って――」


 マリアが楽しそうに果物ナイフを持ちながら俺の前でリンゴを切る。丸々一つを半分、八等分にすると途中まで皮を剥き、皮の半分辺りに二等辺三角形を描くように切り、耳を作る。それを塩水に入れ、色白く綺麗になると俺は手を伸ばし口へ。


 シャリッシャリッとした食感。

 甘くも酸味ある味。


「うまっこれ、なんだっけ?」


「リンゴだよ」


「リンゴ。いいな、気に入った」


 また、手が止まらず何個も食べていると「意外と食いしん坊なんだね」の言葉に恥ずかしくなる。俺は手を止め、「そんなことない。腹が減ってただけだし」と隠すも彼女は見抜いているのか。「沢山たべてね」と果物を剥き始めた。

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