⑯
「はぁ……はぁ……」
ディルを庇いながらの攻防。それは過酷なものだった。踏み出せばディルが無防備になる。逆に踏み出さなければ追い詰められ、攻めに転じようとするも軽々と避けられてしまう。現状は最悪そのもの。
「グラン……平気か」
素早さ重視にしていた俺はディルを切り裂こうとする爪や噛み砕こうとする牙から守ろうと、双剣よりも自分の身を犠牲にしていた。腕は切り裂かれ、噛み付かれボロボロの中。グランは腕を庇い動けない俺の分まで動く。
駆け出し、大剣を少し乱暴に振るいバックステップで距離を取っては遠距離技をかます。だが、斬った感覚に違和感があるのだろう。時より腕を見つめ、握り返す仕草を俺は見逃さなかった。
「軽いか?」
「あぁ、重くない」
グランの言葉に俺は“普通のモンスターじゃない”と察し、「ディル、ディル」と倒れ込むディルを揺さぶり起こす。
「なんですか」
「動けるか?」
「えぇ、少しだけなら。すみません」
「あんな大魔法ぶっぱなすからって――そんなことは今はどうでもいい。少し試したい。光属性の魔法唱えられるか?」
「すみません。フラッシュなら」
「それでいい」
ディルは座ったまま詠唱を始め「フラッシュ」と口開くと目を閉じたくなるほどの目映い光に「うわっ」とグランは大剣で光を変え切るよう構える。俺は血だらけの腕で目に影を作り、周囲を伺うと真っ黒な獸が何体も消滅するのが見え、光に苦しむようにケルベロスともう二体別のモンスターの姿があった。
【ドッペルゲンガー】
人のような影の姿をしたモンスター
【シャドー】
獸の姿をした影のモンスター
「やっぱり闇に引かれて来たか」
夜の城塞や遠征で要注意モンスターとなっている夜限定の種族。暗闇を好み、光がないと勝てないと噂の厄介モンスター。
「マジかよ、なんか軽いと思ったらドッペルゲンガーとシャドーも居たんか。あーマジか、マジか。おちつけー俺」
敵の正体に慌てながらも深呼吸するグラン。ディルは杖を支えに立ち上がると詠唱を始める。
「無理するな」
「無理しますよ。だって、タマついてますから――ヒール」
と、俺の言葉を無視してディルは魔法全体化の効果で俺とグランの傷を癒す。
「まだまだ行きますよ。この命尽きるまで唱えまくりますからね。
度胸だけは誰よりもあるディル。苦しそうに時より噎せながらも「ほらほら、どうしたんですか?」と煽りる。
「なんだ、意外と元気じゃねーかよ!!」
傷が癒え、俺は光りに怯え動けなくなったドッペルゲンガーとシャドーに攻め込む。俺の襲撃に気付き、足元の小さな影を変形させ鋭利に尖った影を放つも光により弱体化。双剣を振ると“それ”は簡単に砕けた。
「怖くねーよ。暗闇なんか」
人のようで違う意味不明な声を放つドッペルゲンガーを双剣で斬り付け消滅。続けてシャドーに刃を向けると恐怖からか暗闇へと自ら逃げていった。
「ふぅ……」
一難去り安堵の溜め息をつくも「うわっ」と突き飛ばされたグランが背中から俺の上へ。
「イテテテ」
クッションにされ、動けない俺は頬杖をつく。
「おい」
「どわぁーゴメンゴメン!!」
グランは慌てて立ち上がり、俺に手を差し出すが――「うおっ」と大剣を盾のように構えケルベロスの突進を受け止める。
鈍い音と大きく後ろに下がるグランの姿に「クソッ」と毒を吐き、俺は駆け出す。
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