夜の城塞は日があるときよりも危険度が増す。視界が悪く暗いことから“死の城塞”と呼ばれ、死亡率が高いことで有名で負債者からは不人気の仕事。だが、危険だからこそ稼ぎはいい。

 カラン、カラン……と暗闇を照らす腰に付けていたランタンが歩く度に揺れ、武器や防具、服に当たる。門番に「昨日は三人殺された、死体は不明。聞こえたのは断末魔だけだ気を付けろよ」と言われ胸糞悪い中、暗闇を歩く。


「城塞前で良くない? 少し離れすぎてる気がする。っかさ、いい忘れたけどオレ暗闇ダメなんだよね」


 グランの言葉に「はぁ?」と呆れる俺。


「だってさ、だってさ。剣振っても当たらねーし。暗すぎて見えないから。暗闇嫌い」とグランがブーブー文句を言っていると「これで宜しいですか?」とガサゴソと何かを取り出したディルが「フラッシュ」と周囲を照らす。

 ディルの手には魔石が填められた杖が握られており、その魔石が光に照らした宝石のように美しく白い光を放っていた。


「援護ならお任せあれ」


 とディルはニコッお満面の笑み。


「うぉぉぉっすげぇー。ディル、カッケエエ」


 感動のあまり拍手するグラン。


「左様ですか? しかし、支援魔法とやらを扱いのは初心者なものでして簡単なものしか使えません。多少は攻撃なども強いのはありますが、いやはやどうなることやら唱えたことないんですよ」


 ディルの不安そうな言葉に俺は「唱えてみろ」と敵の気配を感じつつ双剣を引き抜きまっ暗闇を指す。


「そこ、一体」


「どれどれ……」


 ディルの足元に真っ赤な魔方陣が浮かぶ。ブツブツと小声で呟き「ファイヤーランス」と唱えると槍の穂のような形の炎が飛び出す。暗闇を一瞬照らし「ギャンッ」と獣らしき声。「グルルルッ」と唸る声と暗闇に光る殺気交わる黄色の目に「おや、弱すぎましたか? いいでしょう」と楽しげにティルが魔法を唱え始めるも――先に動いたのは獸【三つ首の番犬 ケルベロス】だった。


「おいおいおいおい!! こんなの聞いてねーぞ。魔界の番犬じゃねーか」


 腰引けるグラン。


「おやまぁ、喰い殺しに来たんですか? 悪い子ですねぇ。痛め付けてあげないと。何がいいですか。刺殺ですか? それとも、斬殺?」


 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、魔法に集中するディル。


「バカ、遊びじゃないんだ。集中しろ!!」


 ドラゴンよりは強くないが大型でソコソコ強く報酬がいいモンスターの一種。三つあるうちの一つの首の眉間には傷。多分、ディルの魔法だろう。痛そうに首を振り、痛みを誤魔化そうとしていた。


「ディル!!」


 唱え終えないディルに突っ込むケルベロス。俺は駆け出し双剣を振るうと利口なのか。力強く地を蹴り、宙を舞う。


「チッ頭いいな、こいつ。グラン!!」


 俺は必死に背を追うも追い付けず、グランに無茶ながらも指示を出す。


「はいはい、任せんしゃい。このグラン様が豪快にぶった斬ってやるよ!!」


 大剣を両手で握り「ふぅ……」と構えては下から上へと勢い良く凪払う。


「新技【魔法撃】なんてな」


 ケルベロスの右頭部を一発で斬るや微弱に魔力を帯びた斬撃が真っ赤な血を纏いながら暗闇へと消える。


 剣専用の攻撃技【魔法撃】

 └微弱な魔力を込めた斬撃を放つ技。武器や取得者の能力により属性や強さ(貫通・切断・破壊)が変わる。


「ナイス、グラン!!」


「へへッどんなもんよ」


 褒めると調子に乗ったのか、戦闘中なのに武器を下ろすグラン。俺は「武器下ろすな!!」とケルベロスが大きく前足を振り上げる動作に割り込み、刀身が重なり合うよう防御体勢を取る。振り下ろされた前足は大剣よりも遥かに重く、ズリシと何十もの重りが積み重なり落ちてきたといってもいい。腕に伝わる振動と威力に体勢を維持することで精一杯だった。


「お待たせいたしました。お休みのお時間です」


 その時――俺の真横から杖の先端。


「無数の光で貫かれなさい。ライト・ジャベリン」


 ケルベロスと足元と頭上に大きな魔方陣。そこから雨のように降り注ぐ光の槍。いきなりの上級魔法に俺はディルに視線を向けると息を乱しながら「どうですか? 痛かったでしょう?」と座り込む姿に駆け寄る。


「ディル!!」


 倒れそうになり抱き抱えると魔力を消耗しすぎたのだろう。フラッシュの光も弱まる。闇と静寂に包まれた瞬間、聞こえるのはモンスターの声で――「グラン」。


「おう、防衛戦だな」


 ディルを守るように俺とグランは背を合わせ、殺気と気配を頼りに剣を振った。

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