⑬
スキル薬一つはそんなに負担ではないが、飲み物として飲めば飲むほど腹に溜まるのは変わらない。
二、三、四……とハイペースで飲むグランとディル。だが、手が止まったのは五本を過ぎてから少しずつだがペースが落ちる。
「もうダウンか?」
「いや、そうじゃなくて」
難しい顔をするグランに俺が話しかけると「アレですよ。味が同じだからですよね?」とグラン同様手を止め一休みするディルの姿。俺も飲み飽き、手を止め、飲みたいのに飲めないグランの苦しい顔を見て笑う。
「これさ、浴びたらスキル得ないのかな?」
「それでも得られるぞ」
「へ?」
「酒に酔い潰れてふっかけたことがある。そしたら普通に得られた」
「え、それって飲まなくても良くない!?」
「基本は飲む。多分口にでも入ったんだろ。でも、変にやって無駄にしたくないならしっかり飲んだ方がいい。レア物もあるんだろ。ジャルスの話だと」
早飲みのはずが気付けばのんびり。確かに短時間でこんな量を飲むのは辛いのか俺含めてディルも知ってる。だが、酒のアルコール分や炭酸がない部分からすると飲みやすさかスキル薬の方が断然飲みやすい。
「そうだ。マリアから夕食もらったんだ。御飯のお供に飲むのも良いかもな」
丁寧に布に包まれたパンを三つ取り出し、付属のナイフで均等にバターを三等分。それを取りやすいように真ん中に置くと「マリアさーん」と嘘泣きするグラン。続けてディル。
「あぁ、なんて美しきお方。我々のバカみたいな行動を察したような……」
「バカで悪かったな、アサシン」
「いえ、貴方をバカにしたおつもりは――あります」
「殺すぞ、おい」
ディルの冗談に俺は少しだけバターを奪う。
「おや、殺さないのですか?」
「殺すならモンスターに食われて死ね」
「あれまぁ、怖い方だ」
「影でコソコソ覗いて後ろから斬る誰かよりはマシだろ」
「それ、喧嘩売ってます?」
ディルの言葉に俺はコルクを抜き、一本二本とスキル薬を飲み干して行く。
「私をバカにしましたね。カチンと来ました」
負けじとついてくるディルに俺は一度に二本飲む無茶な飲み方をすると真似してくる。俺とディルの喧嘩腰の飲み合いに「えっ、ちょ……マッテマッテ!!」と慌てて飲み始めるグラン。
「体が変わってなくちゃお前なんて怖くないのによ!!」
「それは私のガタイが――」
「違うわ!! 回復のお前とタイマンしたって面白くねーってことだよ」
「ん? 矛盾してますね。おやおや、私が回復だからとネチネチ回復されるのがお嫌いなのですね。大丈夫ですよ。私がいる限り死なせませんから。フハハハハッ」
「いつからドSになった!! あの女プリーストよりこえーわ」
次第に盛り上がり、気付けば二十近く飲み干した途端。腹は膨れ、飲みたくても飲めない感覚に俺達は悶絶。味変でパンを食べるがスキル薬のも相性は最悪で――吐きそうなレベルで不味かった。
「吐きそう……」
背を向け、丸くなるグラン。
「それは……ヤバいですね」
俯くディル。
「あーやべぇわ」
空の雲を見つめる俺。
静寂に包まれしばらくして――汚い声と音。我慢できなくなった俺らは各自バケツを持ち吐いた。だが、運の良いことに気持ち悪くなった口を濯ぐのにスキル薬が役に立ち、少し飲んでは濯ぎを繰り返す。
一部は無駄になったが無事に飲みきり「いっせーの」とグランの声に合わせステータスの紙を見ると低スキルから高スキルまで幅広く得ていた。
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