⑪
グランと合流し宿屋へ。
「ブラッティ、大丈夫?」とマリアが駆け寄り包帯だらけの右腕を優しく擦る。続けてグランに目を向け、優しく抱き締め「心配したのよ」と客から聞いたのだろう。いつもの明るい笑顔ではなく顔色が悪かった。
「大丈夫ですよ、レディー。私が手当てしましたので。腕の傷は深いですが安静にしていれば完治します。回復を施しておりますので私がしっかり治しますよ」
ハハハッと珍しくディルが割り込むと「どなた?」の言葉に彼はマリアの手を掴む。
「ディルです、レディー」
これは一目惚れか。亡き仲間のバーサーカーやプリーストの色気ある強い女達とは違いか弱い女性が好みだったのか妙な空気。体格は亡き二人の方がエロボディーで露出激しいが――。
「おい、ディル」
「お美しいですね……お名前は」
俺は「マリアだ」と離れないディルの脇を肘で突く。「グハッ」とその場に膝をつくディルにグランは腕を組み頷く。
「うんうん、マリアさん綺麗だもんなぁ。分かる、分かるぞぉぉ。一目惚れするの」
「共感してんじゃねーよ、そこ」
マリアにメロメロの二人に俺は呆れる。
「ウフフ、面白い人ね。ブラッティの知り合い?」
「あぁ、助けてもらってな。意気投合して一緒に住もうかってなって連れてきた」
「あら、賑やかになるわね。御飯足りるかしら?」
ディルの大柄で高身長な見た目に心配するマリア。だが、「ご心配なくレディー。私はこう見えて少食なので」の一言にクスクスと笑う。
「おい、ディル」
「なんですか、ブラッティ。私が彼女と話すと何やらイライラしているようですが」
普段ならこんなにイラつくことはないがディルとマリアが楽しく話していることに少しだけ腹が立つ。いや、人間に興味を持たないディルがマリアに心引かれている事に苛立っているのだろう。奪われそうで違う。何処か楽しそうな空間が羨ましかった。
「ブラッティ、ブラッティてば」
「あ?」
マリアに呼ばれ、変な声で返す。
「なにその声、寝ぼけてるの?」
「ん、いや……っか、ディル。マリアに対して“レディー”は辞めろ」
「何故です?」
「スゲー殴りたくなる」
俺の警告にディルは察したのだろう。俺とマリアを見ては「ほうほう、そう言うことでしたか。お付き合いされてるとは」
「はぁ!?」
とんだ発言に俺は身体中が熱くなり、マリアを見ると――真っ赤に染まった顔を隠そうと手のひらで顔を覆っていた。
「ディール!!」
「おや、まさか地雷踏みましたか? いやはや、それは大変失礼しました」
「お前なぁ!!」
恥ずかしさから我慢の限界となった俺拳を握り大きく振りかぶる。その瞬間――「ちょい待ち」とグランが割り込み、ディルの腕を掴み「先、行っとるわ!!」と外へ。
閑散とした空間に気まずく顔を合わせる俺とマリア。「だ、大丈夫か?」と声かけると「うん」と小さく頷く。
静寂――。
そして、時を刻む秒針。
「あっ!! 私ったら仕事中なのに……」
「て、手伝おうか」
慌てる彼女を落ち着こうと手首を掴むと彼女の体も熱く「えっ、あ、その……」とテンパる姿に俺の胸が跳ねる。両想いなのか、片想いなのか分からないが、今までに経験したことないほど胸が熱かった。
「ブラッティ、あのね……」
「ん?」
――大好きだよ――
と、何故か期待していた自分が居たが……。「今日、お友達来ると思わなくて御飯がバターとパンなの。ごめんね」の誤魔化す言葉に俺は「ハハッ」と笑った。
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