⑩
傷の癒えたグランは「悪魔」と叫びながらディルを指差しスキル薬を貰いに店へ。金貸しギルドの裏で俺はディルと話す。
「名前変えたんだな。タグペンダントから盗み見た。イケてる」
「そうですか? ありがとうございます」
ディルは照れ臭そうにお辞儀をすると「ガーディアン、貴方の名前は?」と聞かれ「ブラッティ、ダサいだろ」と笑いながら言う。
「前の体では職業名で呼んでましたから。名前で呼ぶのは、なんと久しいことやら」
「だな」
「お似合いですよ」
「どうだか」
しばし静寂――。
そして、本題へ。
「で、あの怖い女らがどうした」
「死にました」
「は?」
「とある魔術師が無理矢理、体を入れ替えようとして魂の移行を失敗。バーサーカーとプリーストは亡くなりました。残ったのは私だけ」
「唐突だな」
「貴方が刺激したから苛立ったんでしょうか。可能性はないにしろ、私達に恨みがあったのは確か。蹴り落とすこのご時世……仕方ないことなのでしょうが入れ替えと来ましたか。嫌なスキルですね」
ディルはダガーを取り出しジャグリングを始める。
「にしても、最低な輩ですね。その顔に見覚えは?」
と、ディルは俺の顔を指す。
「覚えてない」
「私もこの男の顔には見覚えがありません」
「負債者はごまんといるんだ。覚えてられねーよ」
「同感です。気付いてないところで恨まれてたんでしょう。這い上がる者は犠牲や他者を敵に回しますからね」
「そうだな。だが、楽に地位を手に入れたアイツらと比べると俺らの方が苦労は知ってる」
「そう来ますか。以前の貴方なら脳筋でバカみたいに酒飲むことしか考えなかった。でも、それも悪くはありませんね」
俺はディルと顔を合わせニヤッと笑う。
「にしても、現段階では這い上がるのは難しい。モンスターを倒しまくり、無理してでも中級、上級と強さを上げていきましょう。なんなら、遠征でもいきます?」
「遠征は無し。支援しか出来ない。確実にモンスターに手を出せるのは城塞」
「ですよね、私もそう思います」
「とりあえずさっき倒したモンスターの素材でスキル薬生産と借金返済。っか、ディル。家あるのか? 無いなら来ていいぞ」
「私は城塞の監視塔を家にしてますので、ご心配なくと言いたいですが地位が下でバカにされるのには懲り懲りでして。ご一緒させていただきます」
俺はディルに手を差し出すと「よろしくお願いしますね」と強く握手を交わす。すると、タイミング良くグランが大通りから大きく手を振る。
「おーい、ブラッティ薬飲みまくろうぜ」
「あぁ」
と、俺は手を振り返すとディルがフッと鼻で笑う。
「変わりましたね、ガーディアン」
「ん、そうか?」
「金と報酬と酒しか頭にない貴方が此処まで優しい方だとは」
クスクスとツボる様に笑うディル。確かに本来の俺であれば酒場に向かって酒を飲み、仲間の口や文句を聞く。地位が下の存在には一つも目を向けない冷たい人間だった。それを経験してるからだろう。体が入れ替わったとき感じた上と下の大きな差。それを少しだけ俺を変えたんだろうと。
「なんだよ、気が狂うなぁ」
「クハハッそれは失礼しました。で、ガーディアン。これからどうするんですか?」
ディルの言葉に俺は微笑で返す。
「決まってんだろ。這い上がる。あのバカを見返してやるんだよ。こんな下な奴でも這い上がれるんだって所を堂々と見せてやるのさ」
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