⑦
俺が“俺でない”こと。
俺は元々ドラゴンキラーだったこと。
負債者と握手した途端に体が入れ替わり、どん底へ。魔法みたいな話に耳を貸してくれないと思ったが、グランとマリアは真剣に聞いてくれた。
「つまりブラッティは……ドラゴンキラーってこと?」
「あぁ、体が入れ替わらなければ」
「マジかよ、スゲェ!!」
真剣なマリアとは反対。興奮し席を立つグラン。
「マジかよ、マジかよ、マジかよ!! お前、英雄じゃん!!」
「昔はな。今はそうでもない」
食べかけの冷めたカレーを食べながら俺は「もしかしたら、仲間も同じ目に遭っているかもしれない。わざと言い散らかしたが反応がなかった」とにんじんを口にしては手を止める。
「仲間……仲間いるの? ブラッティ、どんな人?」
マリアは心配そうに俺の手を握るも「体が入れ替わってる以上、外見が違えば探しようがない」と口を動かす。
「でもさでもさ、ワンチャンあるんじゃね? 負債者が集まるなら彼処しかないっしょ」
「それは……運が良ければの話だろ。俺じゃないと知って奴を問い詰めて別に仲間がいたとしたらそうは済まない。それに、俺は何人も蹴落として此処まで来た。恨まれて当然なのさ」
“蹴落としてきた”負債者から逃れるため、何人もの命を犠牲に囮に使い、エサにしてきた。残酷で最悪な人間だと二人に告げると「ブラッティは優しいよ。そんな人じゃないわ」とマリアが微笑む。
「だって、もしそうだとしたら助けてくれるはずがないと思うもの」
優し過ぎる言葉に俺は嗤う。
「強制的に戻されたからだろ」
だが――。
「そんなことない!! だって私――貴方のこと“好き”だから。モンスターに襲われたときすごくカッコ良くて、それで優しくて……ブラッティみたいな人そうそう居ないよ」
その言葉に俺はスプーンをテーブルに置き、頭を抱える。聞きたくなかった言葉。いや、本当は嬉しいがタイミングが悪い。
「それを言ったら命はない。アイツらの事だ。俺をどん底に落として見物するのが目的だとしたら俺関係の奴らが殺されるか、モンスターのエサにされるか、見世物にされるか。つまり……その、マ、マリアさんも危なくなる」
本当は呼び捨てしたいが恥ずかしくて呼べず“さん”付け。あまりの不器用さにグランがクスクス笑うもマリアは真剣な表情をしつつも一瞬緩む。
「大丈夫。ブラッティが居れば怖くないよ」
その言葉に俺は言葉を失い、目が点になる。
「その双剣ね。亡き兄の双剣なの。数年前に遠征したまま戻ってこなくて遺骨もなく手元に届いたのがその剣で。話を聞いたら仲間を庇ってモンスターに食べられたって。形見でもあるんだけど、さっきの庇ってくれたときブラッティがね。兄に見えて嬉しかった。だから、その双剣良かったら使って。組み合わせると双刃刀にもなるみたいで。あと、これなんだけど」
マリアは立ち上がると棚から紫色のスキル薬をブラッティに渡す。
「これ、私が作ったの……。実は此処をやる前は魔釜屋でお手伝いしたことがあって。兄にプレゼントしようとしたもので腐らないように魔法施してあるから大丈夫だとは思うんだけど。良かったら……その」
照れ臭そうで不安そうなマリアの顔に俺はスキル薬を手に取り、コルクを抜いては一気に飲み干す。味は特にない。単に色水を飲んだような感覚。
「どう、かな?」
「不味くはない」
さりげなくステータスの紙を取り出しスキルを見ると【魔法:武器召喚】の文字。これも見たことない。激レアのスキルだった。
「マリアさん、お兄さんって何使い?」
「えっと、魔法双剣士だよ。双剣に魔法を施して戦う。アタッカーだったかな。少しシーフやアサシンとかもやってたみたいで素早さには自信あるってよく話してたよ」
楽しそうにクスッと笑う笑みは何処か悲しそうで……ポロッと涙を流す彼女に俺は胸が苦しくなった。
食べ終え、食器を洗うマリアの寂しげな背を俺は見つめる。グランは「なぁなぁ、ブラッティ」とスキルが気になるのか話しかけて来た。
「なんだ?」
「少しスキル見せてほしいなぁ」
「ダメだ」
「えぇーなんで?」
「実戦向けを此処でやるのはどうもな」
俺はチラッと周囲を見渡す。それに「ははーん」とグランは頷くや指を鳴らし「さてはカッコつけだな」と指を指す。
「違う。此処でやったら荒らしそうだからやらない、そういうことだ」
「えぇ!! みーたい。みぃたぁいー」
ごね拗ねるグランに「子供か!!」と俺が突っ込むと聞こえていたのだろう。クスクスとマリアが笑う声が耳に入る。
「私も見てみたいな」と、不意打ちな言葉に俺は言葉を失う。双剣を手に取るや構え、ダッシュ斬りからのバックステップ。束と束を合わせ双刃刀へ切り替え振り回し――コンボが切れた時、双剣は光の粒となり代わりに出てきたのは大剣。
“双剣士”から“大剣使い”へ。
これが【ロール】。
“双剣”から“大剣”への切り替え。
それが【武器召喚】らしい。
「すげぇ!! 今のかっこいい」
「これが俺の力? ガーディアンとは違い戦略が鍵になりそうだが気に入った」
グランよりも少し立派で頑丈そうな大剣。ズッシリと重く両手持ちで軽々とは動けないがガードするにはいい強度。少し羨ましがられたのか。グランはムッと顔を膨らませる。
「拗ねんな」
「拗ねてないし。っかズルい、ブラッティだけズールーイー!! オレも強くなりたぁぁぁい」
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