⑥
仲間のことが気になりつつもドラゴンは数時間後に討伐された。酒場では祭りのようにバカ騒ぎ。音は外に漏れ、静かな街を騒がす。それにと無い、バックパッカーになろうと冒険者が集うも相手にはされず「クソ」と吐き出す者も多かった。
そんな歓迎ムードとは違い。俺はグランと宿谷に戻るとマリアが心配な表情で俺を見る。
「大丈夫? 怪我してない? お客さんから死傷者が出たって聞いたから」
「ヤバいと思ってすぐ退いた。そしたら、ドラゴンキラーが来て殺ってくれたよ」
俺の言葉にマリアは胸に手を当て安堵の表情。ドラゴン出現で今日の収入は無し。仕方なく手持ちの金で過ごそうかと思ったが、マリアが「知り合いからお野菜貰ったの。カレー作ったんだけど食べる?」と天使のような笑顔で言う。
「カレーってなんだ?」
酒場で酒ばかり飲んでいた俺には知らない料理。
「ジャガイモやにんじん、玉ねぎにお肉を痛めてスパイスで煮込んだものよ。あら、食べたこと無いの?」
「あぁ……そんな贅沢な食事したこと無いもんで」
マリアのクスクスと笑う姿に俺も釣られるとグランが「ヒューヒュー」とわざとらしく言う。
「グラン」
「なんだよ、なんだよ。別にイイーじゃん。マリアさんの手料理食べたいなー」
腹へった、と言いたげにお腹を擦るグランにマリアは「食いしん坊さんね」と嬉しそうに笑った。
カウンターの裏。自宅となっている一室でマリアの手作りカレーを食べていると珍しくマリアと客の言い争う声が聞こえた。何事だ、と俺が顔を出すと相手は見たくも会いたくもない奴。ガーディアンとその仲間だった。
「ドラゴンを倒したんだ宿泊代を無しにしてくれ」
「ダメです。此処は負債者が少しでも落ち着いて過ごせるように格安にしているんです。サービスはできません。嫌なら他を当たってください」
鎧を見に纏ったガーディアンに恐れ知らずかハッキリと物申すマリア。流石の俺もこんな安いところでは一日を過ごさない。もう少し豪華で施設のいい場所を求めるが、なんとなくガーディアンが此処に来る理由は分かる気がした。
「おいおい、お姉さん。俺らがドラゴンキラーなのは知ってるよな?」
狙いは止まることじゃない。負債者にとってナイチンゲールのように優しく美しい彼女だ。
「存じ上げております」
「なら、話が早いはず」
白ける場。時計がカチッカチッと時を刻む音だけが室内に響く。
「ですか、私は――」
一歩も退かないガーディアンに嫌な予感がした俺は周囲を見渡し壁に立て掛けられていた双剣を手に取る。
「そこまでだ!!」
今の俺では歯が立たないことを知りながらも――俺は彼女を守るために足を踏み出し、庇うように前に立った。
「女遊びなら他所でやれ、このクソ」
「ブラッティ!!」
マリアは俺を止めようと呼ぶが無視。「下がれ」と圧をかけるように双剣を向ける。そんな俺の登場に手を叩き笑うガーディアン。
「誰かと思えば雑魚か」
「ハッ雑魚で悪かったな」
ガーディアンはわざと兜を外し、俺に顔を見せては「気分は?」と俺とガーディアンにしか分からない言葉を言う。俺の目の前には“本当の俺”。不器用な挑発に俺はわざと真逆な事を言う。
「気分? ハハッ最高だよ」
それにピクッと眉を動かし、不機嫌そうに眉間にシワを寄せては「ガハハッ」とガーディアンは笑った。
「馬鹿馬鹿しい。俺の体で最高だと。スキルゼロのでき損ないの体が?」
その言葉にマリアは何かを察したのだろう。「ブラッティ、辞めて!!」と呼ぶや今にも斬りかかりそうな俺の腕に抱き付く。
「いつかお前を殺す。待ってろ、糞野郎」
「俺を殺したらお前の体は――クッハハッいいのか?」
「あぁ、そんな汚れた体要らねーよ。っか、俺はそこまで女癖悪くねーし。暴れるのは酒場だけで他者に迷惑なんてかけたことがない。イキッてんじゃねぇよ。酒場の専属なら酒場系列の宿屋でも行け。それと彼女に手を出すな。次手を出したら――殺す」
俺の殺気と毒舌がガーディアンを黙らせる。無言で宿屋を出るやマリアは泣きながら俺の背後に静かに抱き付き、「おいおい、なんだよ、さっきの」とグランが顔を出す。
「っか、お前……なんで酒場の事知ってるんだ?」
グランの言葉に流石に隠せなくなった俺は「実は」と全てを話した。
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