「グラン」


 金貸しギルドで待ち合わせしていたグランと合流。いつものように爺に城塞警備の仕事を受けると一言添え、俺らは城塞に向かう。


「そうだ。スキルどうだった?」


 朝御飯の冷めきった硬いパンを食べながらグランが楽しそうに話す。


「あん? あぁ、まぁまぁだな」


「んー。待て待て、俺の勘が言ってる。スゲーの当たったろ?」


 俺の顔に出ているのか思わずうつ向き小声で「激レアだが使い道が分からない」と言うと「なんだよ、なんだよ。宝のもち腐れかぁ!?」と大きな声で言うグラン。「黙れ」と俺はグランの腹にパンチを打ち込み黙らせると門を抜け、レンガや土壁で出来た城塞の前に立つ。

 いつもは城塞の上から様子を見て監視するが今回は徒歩で探索しながらモンスターを撃退する。グループに分かれることが多いがグランをパートナーに今回は緩い警備。


「おい、しっかりやれよ。負債者」


 門番に鋭い言葉を吐かれ「うるせぇよーだ。お前らが守らないから守ってんだよぉー」とグランの行きすぎた言葉に俺は「ヘイトを稼ぐな。ほら、行くぞ」とグランの腕を引っ張る。


「だってアイツら!!」


「ほっとけ!!」


 文句言い足りない、と怒り満ちたグランの顔に俺は「仕方ないだろ。立場や地位が違うんだ」と現実ある言葉を掛けると落ち着いたか。グランは「ごめん」と素直に謝るや迫るモンスターの殺気に俺は足を止めた。


「何か来る」


「へ?」


 目を閉じ、耳を澄ます。

 聞こえるのは空――。

 大きな翼の音と唸るような声。


 その声は城塞では聴かない珍しいモノで――認められたと者しか討伐できない【ドラゴン】の気配だった。


「グラン、武器構えろ」


 俺の言葉にグランは背負っていた大剣を引き抜き、武器無しの俺は落ちていた石を拾い構える。


「ブラッディ、お前武器――」


「ねぇーよ。俺は固定武器無いんだよ。お前みたいに少し頑丈な良い装備も無いし、借金返済のために此方は普通の服着てやってんだ。V字の七分丈にズボンだぞ。笑いたきゃ笑え」


「イヤイヤイヤイヤ、それで昨日沢山のモンスター倒したお前がすごい」


「ハハッそりゃどーも」


 雲を掻き分け舞い降りてきたのは大型の青いドラゴン。水属性特化のドラゴンだが縄張り争いが多い大陸。四大陸が重なりあう場所に街があるためか、基本弱いモンスターが多いが稀に強いモンスターも来る。ドラゴンなんて稀でもない絶滅危惧種並み。人様のいるところには普通降りてこない。


「ヤバいな。流石に俺らだけじゃ無理だ」


「でもさ、でもさ。もし、倒したは報酬がっぽりって奴だよな?」


「アホ、死にたいのか」


 元ドラゴンキラーの俺だから分かる。ドラゴンは簡単には倒せないということ。鱗は硬く、攻撃は強力で部位破壊し弱体化しながら戦うのが基本。

 今、頼れるのはグランの大剣だけで俺は何も出来ない。部位破壊できるほどの強力な武器も魔法も耐え抜く防具も無かった。


「くそっ」


 監視塔からドラゴンが出現を知らせる警告音が鳴る。それを気に門が開き、複数の足音が近づく。振り向くと立派な防具と武器。それは認められた者しか入れない酒場専属のドラゴンキラー達の姿だった。


「雑魚は引っ込んでろ」


 見覚えのあるガーディアンが遠くから言う。その言葉に「グラン、退くぞ」と街に向け駆け出す。すれ違いざまガーディアンに「ざまぁ」と言われ悔しかったが、それよりも少し気にかかることが一つあった。

 気のせいか。仲間の一人が俺同様のことになってるんじゃないかと無意識に思う。見た目は同じだが何処か雰囲気が違い――「バーサーカーベルナプリーストミーティ」と呼ぶと一人は反応したがもう一人は反応しなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る