④
日が落ち、月が支配する頃。グランが勝手に寝袋で寝ている隙に俺は外階段から街に出る。夜は酒場が繁盛する時間帯。だが、俺の目的はそこではなく、貧困激しい街には合わない佇む洋風の建物【魔釜屋】に足を運ぶ。
「やぁ、いらっしゃい。待っていたよ、ブラッディ。昔話を聞かせておくれ。ほら、入れ替わった話だ。クフフッ怒ってるかい?」
血色の悪い肌色、特徴ある耳、ローブに身を包み、ケラケラと人を小馬鹿にするこの男が魔釜屋の主“ジャルス”。
目の前のテーブルの上には錬金術に必要な道具やモンスターの素材が転がっており、時より鼻に付く不思議な匂いに俺は顔をしかめる。
「一発殴らせろ」
向き合うや俺は拳をジャルスに突き出すも「おおっと、やめてくれよ」と軽々と本で受け止められ、思わず舌打ち。
「不機嫌だね。もしかして、街で出会ったとか? そっかそっか。自分の身体が入れ替わったのはボクのせいってキミ言うのか。スキルを得られたのは運。ボクのせいじゃないよ」
ヘラヘラと話すジャルスを俺は静かに睨む。
「じゃあ、なんだい? スキルを解くスキルなんてこの世には存在しない。助けくれと言われても残念。ボクには出来ない。悪いね」
話題を振る前にペラペラと話が止まらない。煩さに「その口縫うぞ」と脅すと肩を竦め「こわい、こわい」と嗤う。
「単刀直入に言う。スキルが欲しい」
俺はテーブルに城塞で殺した昆虫モンスターの頭や足、胴体――バラバラだが一式揃え並べ置く。ジャルスはそれを手に取るも納得いかない顔。
「んーこれだけ? 価値のないスキルしか身に付かないよ。強力なのが欲しいならドラゴンでも倒してくるんだね。とは言え、今の君には無理だろうけど。なんなら、転職するかい? 前の君はガーディアン。今の君は職のない冒険者。昔と今は違うんだ。考え直すといい」
聞きたいことを全て言われ、言わせておけば来たのは説教。
「は?」
「キミはもうキミじゃないんだ。前みたいに仲間もいない、力もない。キミはただの捨て駒。でも、キミには彼にはないものがある。戦闘経験と知識。負債者にしてはある戦闘能力。だから、毎日コツコツ返済してるんだろ? キミの身体を奪った奴なんて……」
「やめろ、聞きたくもない!!」
「ん、そうかい。じゃあ、良く考えるんだね」
俺は溜め息を付くとジャルスがさりげなく言う。
「スキルってそんなに大事かい? 人間は強欲だね。そんなものなくても倒せるのに」
「倒せる?」
「あぁ、だってキミ。あの城塞防衛で生き残ったんでしょ? 何でだと思う?」
ニヤッとジャルスが笑みを浮かべる。
「それは前にも経験したから。それに、俺は――」
「ドラゴンキラー。そう言うことだよ」
黙る俺にジャルスは続けて。
「その身体と前の身体。歳は十ほど離れてる。だが、中身は変わらない。お分かり?」
彼の言葉を復唱し何か見つかりそうになった俺は「帰る」と素材を置いたまま背を向ける。だが、「ちょっと待った」とジャルスに引き止められ、振り向くとフラスコに入った緑色のスキル薬。
「スキルを得ても変に頼らなければ得てもいいんじゃないかな、と言うわけでサービス。さっきの素材から抽出した薬だ。味の保証は出来ない。まぁ、死ななければいいこと」
「お前は俺を殺す気か!!」
「いいやぁ? 面白そうだからサービスしてるんだよ。ほら、三本あげるから」
「そんなに要らねーよ!!」
「虫は栄養あるよ。はい、帰れー」
ニコニコとジャルスは笑うと薬を俺に押し付け「仲間、もしかしたら気づくんじゃない?」と甘い声で耳に囁かれる。
「んあ?」
うまく聞き取れず返事を返すと「くれぐれもあの男には気を付けなよ。ブラッディ」とジャルスは俺に手を振りニヤリと笑う。その薄気味悪さに俺は外に出た。
ジャルスの店前で試しに一つ飲んでみる。酷く苦い青臭い味に吐き気を込み上げつつもゴクリゴクリと飲み干す。
「ぷはっうぇ……」
気持ち悪さに悶絶していると身体の底から力が沸き上がる感覚。いいスキルが来たか、と思ったが“単に攻撃力が上がった”だけだった。
“攻撃力上昇大”
“強化”ではない。
「おいおい、単に能力が増えただけじゃねーか。まぁ、そうだろうと思ってたけど凹むなぁ」
スキル薬は残り二つ。それはテントで飲もうと腰に付けていたマジックバックに突っ込むが――。
「今の俺のステータスどうなってんだろ」
ふと疑問に思い、マジックバックからクシャクシャの紙を取り出す。その紙には俺のステータスが書かれており、片手にスキル薬をもう一つ飲み干す。すると、スキル欄にうっすら浮かぶ文字。続けて、もう一つ。この薬はどの薬も不味く、虫の残骸が入っていたのかクチャリクチャリとした食感もあった。
【スキル】
・攻撃力大……攻撃力アップ。
・広域化……アイテム・魔法の全体化。
・ロール……戦術・職業切り替えスキル。
「ん? ロールって糞激レアじゃねぇ?」
運が味方をしたのか。
あのエルフの悪戯か。
今まで見たことも聞いたこともないスキルが身体に宿った。
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