②
「よう、新人。今日は何匹殺したんだ?」
積み重なったモンスターの死体に腰かけていると仕事仲間で別グループのグランが大剣を背負いやってくる。
「んー三十体かな」
「おいおい、マジかよ。配属されてまだ間もないのに。普通なら冒険者見習いはバック・パック。回復瓶投げたり、魔法瓶投げたり、
グランが呆れたように言う。俺は穂が折れた槍を見つめ、適当に投げ捨てては「その先輩方が俺より先にくたばるのはどうかと思うが」とモンスターに食われ、千切られた亡骸を指差す。
「マジかよ、マジかよ。殺られてんじゃん」
恐怖に満ちた顔をするグランに俺は言う。
「珍しく昆虫系のモンスターが多かった。運悪く女王でも居たんだろうな。フェロモンを出しながら増援を呼んでこっちの数よりも何倍ものモンスター。そりゃ死人は出るだろうよ」
俺は悪態をつくように死体に蹴りを放ち「俺よりも良い装備持ってるくせに」と鉄鎧に身を包んだ槍使い、剣士の亡骸、無謀にも手を出すことさえ許されず餌となった数人のバック・パックに目をやる。
「あぁー昇格しないかな?」
なんてふざけて言うとグランは俺に歩みよりコソコソと言う。
「いくら借金あってもよ。死人から盗むのはタダじゃねぇーの?」
その言葉に俺はニヤリと笑みを浮かべ指を鳴らす。軽く死体に手を合わせ「安らかに眠れ」と言いつつ鎧や洋服、アイテムを奪い取った。
*
「はいよ、ブラッディ」
城塞の中にある大きな街。そこにある唯一のギルド。金貸しギルドの受け付け爺。少し意地悪で頭の良いおっさんに「終わった」と一言言うと札が数枚カウンターへ。
「ふぇ、これっぽっち? 頭おかしいんじゃない?」
予想していた報酬額とは違い、少なさに俺の目が点になる。
「今回はちと強襲かけられたそうだが命と引き換えの仕事ではあるが倒した数で変わるとは言ってはない。それに――」
金貸しギルドの受け付け爺は俺が背負っていた鎧や剣など入ったマントを見て笑う。
「それでも足りんなら物々交換。もしくは、金と交換すると良い。鉄は高く売れるからな。その前に少しは借金を返してくれると助かるんだが」
「ぐぬぬぬ。やりたくて借金したんじゃねーし。っか、悪いのは――」
俺は薄汚れたカウンターに置かれた万札を叩き付けるように握る。吐き出したくなる言葉をゴクンと飲み込み「糞じじぃ」と小声で言う。
「帰んな。坊や、明日も宜しく頼むよ」
「るせぇ」
金をズボンに突っ込み、外に出ると「ななっいくら稼げた?」とグランが俺に飛び付く。俺はポケットから札を取り出し数える。ざっと三万。
「強襲受けても報酬は変わらないんだと腐った街だな、此処」
「えっ、でもオレっちより多いじゃん。ボーナスついてんじゃないの? ほら、いつも一万五千とかだし」
「そうか? 命かけてんだ。せめて五万は欲しい」
「強欲なー。仕方ないじゃん。俺ら“負債者”だしぃ。そんなこといったってさ。どうせ一部は返却行きだし」
「あーやめろ。聞きたくもない」
「ほらほら、借金返しに行こうぜ。ブラッディ」
「はぁ? 飯食ってからだろ、それ」
奪い取った装備を自分のためにではなく、買い取り屋に全て引き渡す。鉄の鎧、鉄の剣、一式揃っていた方が高いがそれほど価値があるものではなかった。流通が多く、冒険者が身に付けていることから五千ほど。買い取り主の気分もあるのだろう。今回は意地悪をされた気分だった。
「あんがと」
俺は不機嫌に返す。
「なんだその納得のない顔。そんなに金が欲しければドラゴンでも倒すんだな。まっ坊やには無理だろうよ」
「あっ、言ったな!! 殺ってやるからみてろよ!!」
苛立ちを感じた俺は噛み付く。見かねた買い取り屋は呆れ顔でシッシッと手を払う。
「はいはい、取り引きは終わりだ、帰んな」
「チッまた来る」
「ハハッ死ぬんじゃねーぞ」
「るっせぇ」
この街は貧困差が激しい。スラム街があれば素晴らしいほど豪華で綺麗なところもある。今居るのは借金まみれ、負債者が集う汚くて居心地悪い“ボトム街”。貧しい者は城塞付近、豊かな者は街の奥。特に決まりはないがこの街は負債者が捨て駒のように駆り出されていた。
とは言え、此処に来る者は冒険者が大半。貴族やら王族やらはいないが冒険者の中での上下間系はかなり激しい。そのため、ボトム街を歩いているといかにも強そうで頑丈な防具を身につけた冒険者がいると見習いや負債者がバック・パックをしようと群がる。支援をすれば報酬を少し貰えるからだ。だが基本は断れ、相手にはされない。
俺もそうだった。
今、思い返せば人間として最低。
カス以下かもいれない。
買い取り屋から貰った金と城塞でのモンスター討伐報酬の合計を建物の壁に凭れ数えていると「今回のドラゴン手強かったが――」聞き覚えある声がした。
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