第2話宝の洞穴

布団から目を覚ましたぼくは、目覚まし時計を見た。するとあることに気づいた。

「五時四十分になってる・・・?」

次にスマホの時計も確認した、やはり五時四十分になっている・・・。

「えっ・・・、どうなっているの?」

ぼくは部屋を出て恐る恐る一階へと降りた、すると澄子がキッチンで朝ごはんを作っていた。

「母さん、おはよう。」

「おはよう、友歩。顔を洗って着替えなさい。」

母さんからは、いつもの朝に言う言葉が出てきた。

ぼくは洗面所で顔を洗いながら考えた、あれはなんだったのだろうか・・・?

「夢なのかな?それとも現実?」

夢か現実か、どっちなのかわからずにぼくは着替えて朝食を食べた。

「田中くんにも聞いてみようかな・・・」

そんなことを考えながらぼくはトーストにかぶりついた。

そして登校の途中、こちらに向かってくる田中くんに声をかけられた。

「おーい、友歩!」

「田中くん、どうしたの?」

「聞いてくれ、実は催眠の魔術師を倒した後に急に意識を失って、気づいたらおれの家の布団の上にいたんだよ。しかもなんか、おれの父さんも母さんもいつも通りでさ・・、なんかさっきまでのことが、ウソみたいになかったことになっているんだよ。」

「実はぼくも同じことを経験したんだ。」

「友歩、お前もか。やっぱり、レインボー・クエストは不思議なゲームだな。」

「うん、そういえばあの石盤はどこへ行ったんだろう?」

「え?友歩が持っているんじゃないのか?」

「ううん、ぼくは持ってないよ。」

『心配しなくてもいいです、あなたたちの獲得したアイテムは、こちらで預かっています。』

するとあのゲームを案内する声が聞こえてきた。

「ねぇ、あのゲームは何だったの?現実にあったことなの?」

ぼくは謎の声に質問した、すると謎の声はこう答えた。

『現実にあったことですよ、ただゲーム終了時に開始前の時間に戻るだけです。後次のゲーム開始は、二日後ですのでお忘れなく。』

そして謎の声はやんだ。

「なあ、あの声の持ち主って何者なんだ?」

「ぼくにもわからないよ、でも二日後が楽しみだよな。」

「ああ、次はどんなクエストが待っているんだろうな。」

そしてぼくたちは学校に向かった。








放課後の時間、ぼくが一人で過ごしていると一人の少女が声をかけてきた。

「ねぇ、レインボー・クエストってゲーム知ってる?」

「うわぁ・・・!えっ、レインボー・クエストのこと知っているの?」

「うん、あたしは矢田目奈津子やためなつこ。最近、レインボー・クエストという謎のゲームイベントが話題になっているんだけど、どうやらこの町でもつい最近起きたのよ。何か知っていることはない?」

どうやらレインボー・クエストについて知りたいようだ、そこでぼくは田中くんと一緒に催眠の魔術師を倒した時の話をした。

「おお〜、すごいですね〜!それで、実際にゲームをやってみて感想はどうなの?」

「すごく楽しいよ、二日後にまたゲームをするみたいなんだ。」

「そうなんだ、私も参加したかったな〜」

「君のところにはハガキは来なかったの?」

「そうなのよ、東京・福島・群馬のとある町みたいな局所的な範囲内で行われる、本格的なRPG!それがレインボー・クエスト!今、SNSでとても話題になっているわよ。」

矢田目はハイテンションで言った。

「そうなんだ、でもなんでこんなゲームが急に行われることになったんだろう・・・?」

「そうなんだよね、SNSでもこのゲームの主催者である『R』ついて論争が起こっているみたいよ。」

確かにあのハガキにも、差出人は『R』とだけしか書かれていなかった。ハガキには切手と消印がないことから、自宅の郵便受けに直接入れたと思われる。しかしどうやってぼくたちの住所を突き止めたのか・・・?

「ねぇ、また何かわかったら教えてよ。新しい情報待っているから!」

そう言うと矢田目はルンルンと去っていった、そしてぼくも教室へと向かっていった。







そして二日後がやってきた。

目覚めの背伸びをしたぼくは、ベッドから出て顔を洗いに向かった。

「お母さん、おはよう」

一階に降りてお母さんに声をかけたが、返事がない。

「お母さん・・・?」

一階の全体をさがしてみたが、お母さんどころかお父さんもいなくなっていた。

「えっ!?一体、どうなっているの?」

『クエスト開始の時間だよ!今回のクエストは「宝の洞穴を探せ」だよ。クエストの参加条件は戦友同盟三人以上、五組まで申請を募集しているので早めに応募してね!』

謎の声からゲームの案内が来た。

「仕方ない、ゲームをしよう・・・」

そう言うとぼくは田中くんのところへ向かおうとしたのだが、田中くんはすでに家の前で待っていた。

「若葉、ゲームが始まったな。」

「うん、でも今回は戦友同盟が三人以上じゃないとダメだって・・・」

「ああ、だから急いで他の参加者をさがして同盟を組もう!」

そしてぼくと田中くんは、戦友同盟を組んでくれる仲間を探しに向かった。

しかし仲間はなかなか見つからない・・・。

「早くみつからないと、クエストができないよ!」

「困ったなぁ・・・」

ぼくと田中くんが途方にくれながら歩いていると、だれかが声をかけてきた。

「おーい、お前たちどうしたんだ?」

声をかけてきたのは、前回のクエストで宝箱を開けようとしていた集団の内の二人の男だった。しかもその一人はぼくたちと顔見知りだ。

「実は戦友同盟を組んでくれる仲間をさがしていたんです。」

「おお、実はおれたちも戦友同盟の相手をさがしていたところなんだ。おれたちで組まないか?」

男の一人がフレンドリーに声をかけた。

「いいの?ありがとう!?」

「おう、こちらこそな。おれは速水太郎はやみたろう、でこいつは加藤春也かとうはるやだ。」

「初めまして・・・、春也です」

「ぼくは若葉といいます。」

「おれは田中というんだ、よろしくな!」

速水さんはフレンドリーで明るい人、加藤さんは速水さんと違って人見知りで口数がすくなさそうな人。ぼくと同じで気が合いそうだ。

そしてぼくたち四人は戦友同盟を結んで、宝箱を求めて走り出した。

「宝箱はどこだ!」

「早く見つけないと・・・、どこにあるんだ?」

すると壁のところに謎の矢印が見えた。

「なんだ、この矢印?」

「これって、もしかして宝箱の場所を示しているんじゃないか?」

「よし、じゃあ矢印の通りに進んでみよう!」

ぼくたちは矢印にしたがって走り出した、すると宝箱を発見した。

「やった、宝箱だ!」

「ふーっ、間に合った・・・」

ぼくたちは息も絶え絶えになりながら、宝箱の近くにあるカギを使って、宝箱を開けた。

『おめでとう、ございます!最後の組がそろいました。それでは宝箱の中にあるアイテムを持ってください。』

宝箱の中には方位磁石と手に入れるものが書かれたリストの紙があった。

『手に入れるもの・エメラルドの青龍像せいりゅうぞう

「宝の洞穴でこれを手に入れろということか、ワクワクしてきたよ!」

ぼくたちが盛り上がっていると、突然ぼくたちは公民館前にワープさせられた。

「うわぁ!ここは・・・公民館?」

「おい、見ろよ。おれたち意外にも参加チームがいるみたいだぜ。」

ぼくたちの他には、三人のチームが二組、五人のチームが一組、そして二十人のチームが一組あった。

「あのチーム、よく二十人も人を集めたよね。」

「うん、あのチームにはとても勝てそうにないよ。」

ぼくと加藤さんが言うと、謎の声が聞こえた。

『参加する五チームが出そろいました、それではこれより宝の洞穴クエストを始めます。ルールはここから三百メートル先にある宝の洞穴へ向かい、リストの宝を各自見つけて宝の洞穴を脱出し、ここへ戻ってきます。リストにある宝を取ってくる、スタートから宝を見つけて戻ってくるまでの時間、洞穴の中にある金貨を拾ってきた枚数が、チームごとの合計スコアとなります。スコアが一番高いチームの優勝です。なお、洞穴には様々なギミックが待ち構えています、また宝へと通じる扉にはフェイクが仕込んであり、フェイクの扉を開けてしまった場合、そのチームの人は強制的に脱落となるので注意してください。それではゲーム、スタート!』

スタートの合図で、全てのチームが宝の洞穴を目指して走り出した。

そして宝の洞穴へとたどり着いたぼくたちは直ぐに入ろうとしたが、加藤さんに止められてしまった。

「まって、洞穴の中にはギミックがあると聞いただろ?だから慎重に行かないと。」

「そうだったね、気をつけないと。」

そしてぼくたちは洞穴の中をゆっくりと進んでいった、すると途中で誰かの叫び声が聞こえた。

「うわっ、なんだこの声は?」

「だれかがギミックにかかったんだ、気をつけないとああなるぞ・・・」

「どんなギミックがあるんだよ・・・」

ぼくたちは慎重になりながら、とにかく進んでいった。

すると目の前に扉が現れた、ぼくたちが先に行こうとすると、あの三人組のチームが全員扉に向かって駆け出した。

「あっ、先を超された!」

すると三人組が突然、ドスンと音を立てて消えた。

「なんだ!?」

「あっ、落とし穴だよ!かからなくてよかった・・・」

三人組は落とし穴に落ちて動けなくなっていた、その間に速水さんが扉を開けた。

「さあ、宝はあるのか・・・?」

と思っていたが、扉の先にあったのは誰かの部屋らしきところだった。壁にはテレビでよく見るアイドルのポスターが貼ってあった。

「ねぇ、ここどこ?」

ぼくが三人に聞くと、速水さんが驚きで固まっていた。

「速水さん?どうしたの?」

「ここ、おれの部屋だ」

「ええ!?そうなの?」

『はい、この扉はフェイクでした。よって、速水太郎さんは脱落となります。』

「うわーっ、やってまった・・・」

速水さんはショックで頭を抱えた。

『速水さんをスタート地点に戻しますので、残った三人でがんばってね。』

「そんな、大丈夫かな・・・?」

「加藤、そんな不安でどうするんだ?お前が二人とがんばらないと、ゲームをクリアできないぞ!やればできるから、がんばれ!」

そしてぼくたち三人は、速水さんを部屋に置いて扉を開けて戻ってきた。






部屋からでたぼくたちは、宝へとつながる扉をさがして歩き回っていた。

「一体、どこなんだ・・・?本当の扉は?」

「扉の数がやけに多い、間違いなくほとんどがフェイクだよ。」

「宝へ通じる扉がどこにあるか、せめてわかるヒントが無いかな・・・」

せっかく扉を見つけても、それが本物かフェイクかがわからない。

歩き続けていたとき、目の前に火のついた燭台を見つけた。その近くの立て札には、『導きの燭台』と書いてあった。

「なになに、宝を記したものを燭台の火にかかげろ?」

立て札に書いてある文章を呼んで、ぼくと田中くんは首をかしげた。

「これ、どういうことだろう?」

「多分だけど・・・、リストの紙をろうそくの火にかかげろってことじゃないか?」

加藤さんが言った、ぼくは加藤さんの言うとおりにしてみた。

するとリストの下の方に文章が浮かび出てきた。

「なにこれ!?」

「あぶり出しだよ、火にかかげると文章が出るようになっていたんだ。」

あぶり出された文章はこうだ。

『東が記されし門に、青龍の宝ありけり』

「これはどういう意味だ?」

「えっと、東という文字が記された門を探せということじゃないか?」

「なるほど!そういうことか!」

ぼくと田中くんは、宝への道筋が拓けてとてもうれしかった。

そしてぼくたちは東の門をさがして走り回った、そしてついにその門を見つけた。

「これだ!」

「はたして、宝はあるのか・・・?」

ぼくたちに緊張が走った。

そしてぼくは息を飲みながら、ゆっくりと門を開けた。すると部屋の真ん中の台に緑色の青龍の像があった。

「やった・・・、ついに見つけたぞ!」

「やった、やった!」

「よかった・・・」

ぼくたちはハイタッチしながらよろこぶと、青龍の像を持って洞穴の出口へと向かった。

後はスタート地点に戻ればクエストクリアと思っていた・・・、その時だった。

「おらぁ!」

突然ぼくは何者かに頭の後ろを強く殴られた、その衝撃で持っていた青龍の像を落としてしまった。

「へへへ、こいつは貰っていくぜ!」

そこにいたのは、ガラの悪い三人だった。三人の内の一人が、青龍の像を取り上げてしまった。

「おい、それを返せ!」

「ガキはすっこんでな!」

田中くんが取り返そうと男たちに立ち向かったが、あっさり蹴り倒されてしまった。

「大丈夫かい・・・!?」

加藤さんがぼくたち二人を気づかってくれた、三人は青龍の像を持ってそのまま去っていった。

「いてて、あいつらなんなんだよ・・・」

「あの二十人のチームの内の三人だ、おそらくあいつらのチームは人数の多さを武器に、他のチームへの妨害作戦を始めたんだよ。」

「そんなの汚いぞ!」

「どうしよう・・・、今回のクエストは失敗かな・・・?」

ぼくたちがうつむいていると、突然目の前に青龍の像が現れた。

「あれ!?青龍の像が戻ってきた!」

「何が起こったんだ!?」

『えー、重要なお知らせがあります。ただいま他のチームの妨害行為が発覚しましたので、妨害行為をしたチーム全員を強制的に脱落させます。なお、今回の一件を詳しく調査した後、ペナルティーを下す予定です。妨害行為で宝を奪われたみなさんには、宝を渡しますのでスタート地点を目指して進んでください。それではお知らせを終わります。』

「とにかく、早くスタート地点に戻ろう!」

加藤さんに言われて、ぼくたちはスタート地点へと走り出した。






ぼくたちは二番目にスタート地点へと到着した、それから二チームがスタート地点へと戻る。

そして今回のクエストの優勝者は、落とし穴に落ちた三人のチームだった。彼らには赤い石盤が授与された。

「今回は優勝できなかったね・・・」

「あれ?戦士の名刺の色が変わってるよ?」

『これは君たちの戦友同盟がレベルアップしたということだね、戦友同盟がレベルアップするとアイテムや権利を手に入れることができるよ。』

「じゃあ、今回のレベルアップでは何ができるの?」

「君たちの場合は、500コインと一人分の勧誘権を獲得したよ。」

「勧誘権ってなに?」

『このゲームに誘うことができる権利だよ、もちろん戦友同盟に加盟することもできる。』

「おお、おれたちの他にももう一人誘うことができるということか!」

これからさらに仲間が増える、そう思うとぼくはウキウキした気分がとまらなくなった。

『えーっ、ちなみに今回妨害行為をした二十人にはペナルティーとして、このゲームから強制退会してもらうことになりました。みなさんは決して妨害行為をしないように、よろしくお願いします。』

「もうこのゲームには参加できないということだね。」

「当然だっつーの、あんなやつらがいたらつまんなくなるよ。」

『それでは今日のクエストは終了です、みなさま大変お疲れ様でした。』






そしてぼくは再び現実の過去に引き戻された。

いつも通りに朝食を食べていると、テレビからこんなニュースが流れてきた。

『同じ大学の不良グループ二十人が、突然集団失踪する事件が起こりました。彼らは今朝にはすでにいなくなっており、昨夜から行動に出たと警察は予想しています。警察では事情聴取と捜査をして不良グループの行方を追っていますが、手がかりはまだつかめていません。』

そして失踪した二十人全員の顔写真を見て、ぼくは茶碗を持ったまま固まった。
























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