クエストタウン・ゲーム

読天文之

第1話始まりのハガキ

四月も中頃にさしかかったころの放課後、ぼくは廊下でぼんやりとした時間を過ごしていた。

「・・・たいくつだな」

ぼくは小さな声でつぶやいた、このころになると大抵の人たちは、一人か二人は友だちを作って楽しく遊んでいるころだ。

だけどぼくには友だちは一人もいない、ぼくは若葉友歩わかばゆうほという名前の通り友という文字がついているけど、実際は引っ込み思案で友だち作りは超がつくほど苦手なのだ。

最近は一人でも楽しく過ごすことができることがあるけど、学校ではみんなといないと楽しく過ごすことはできない。ぼくにとって学校は、いささか窮屈なところだ。

こうして気ままな時間はあっという間に過ぎていき、チャイムがなる一分前の音楽が流れ出した。

「やばいな、そろそろもどらないと。」

ぼくは小走りで教室へともどった、放課後が始まってから今までのが、ぼくの放課後の過ごし方だ。

「おーい、若葉!次は音楽だろ、一緒に行こうぜ!」

ぼくが机から教科書を出すのを見計らったように声をかけてきたのは、ぼくから二つ前の席の田中繁和たなかはんわくんだ。

田中くんは明るくて、頭のネジが一本抜けている感じの性格だ。いい意味でひょうきんなキャラクターが、みんなの場を明るくする。

「うん、わかったよ。」

「音楽の授業、ちょっとたいくつなんだよね〜。合唱の歌ってさ、なんかイヤなんだよ。みんな一緒にっていうのがさ、みんなそれぞれちがうから、それでいいじゃないか。」

田中くんは、みんなが同じではならないという考え方がイヤな性格だけど、ぼくはみんながまとまって何かをするのが好きな性格だ。

そしてぼくと田中は音楽室へ向かい、先生と一緒に合唱をした。先生の練習はきびしくて、ぼくと田中くんは何度もダメ出しをされてやり直しさせられた。

「あーあ、やっぱり音楽の授業はやだな〜。もうサボりたいぜ」

教室につくまで、田中くんは音楽の先生への悪態をついていた。

そして帰りの時間も一人だ、ぼくは一人だけの人生を歩んでいる。ぼくには父さんと母さんしか気持ちを話せる人がいない、だから友だちがいる人がうらやましい。

よく物語の中で「みんなと一緒に冒険をして、魔物を倒したり宝物を手に入れたりする」という系統のストーリーがある、ぼくはそういう系統のストーリーが大好きだ。だっていつもぼくのまわりに頼れる人たちがいて、それがどれほどに心強いかはよくわかっているからだ。

「ぼくは・・・、この先もずっと一人なのかな・・・」

ぼくは漠然とそう考えることが多くなった。

そして家に帰り玄関を開けると、母の澄子すみこがぼくに声をかけた。

「ちょっと待って、友歩あてにハガキが来てたわよ。」

『ぼくに?』

澄子はぼくにハガキを手渡した、ハガキは往復ハガキになっていて、裏面には「ゲームクリアには豪華な特典がつきます!『レインボー・クエスト!』にご参加しますか?」という文言が書かれていた。そして裏面の左端に注意事項が書かれていた。

[(はい)に記入し投函した日の翌日からゲームスタートとなります。]

澄子はあごに手を当てて心配そうに言った。

「なんかのイベントかしら・・・、うさんくさそうだからそこのゴミ箱にでも捨てといてね。」

澄子はそう言うと、洗濯物を取りにベランダへ向かった。

ぼくは自分の部屋に荷物を置いて、改めてハガキを見た。嘘っぱちと思いながらも、一体どんなクエストがぼくたちを待っているのか興味がわいてきた。

「レインボー・クエストか、ちょっと参加してみたいな・・・。」

ぼくは一枚のハガキに好奇心をそそられた、一体どんな出来事がぼくを待っているのか楽しみだ。このハガキが、冒険への切符のように見えた。

そしてぼくはハガキの「はい」のところに記入して、ハガキを家から近い郵便ポストに投函した。

この次の日には、ゲームが始まるという。

「さあ、帰ろう。」

郵便ポストにハガキを投函したぼくは、真っ直ぐ家へと帰っていった。








そして翌日目が覚めたぼくは、自分のスマートフォンに一通の通知が入っていることに気づいた。

気になって通知を見ると、それは『レインボー・クエスト』の参加決定の通知だった。

若葉友歩様わかばゆうほさま、本日は レインボー・クエストにご参加していただきありがとうございます。このゲームは参加者全員が、戦士せんしとなってさまざまなクエストをクリアし、虹の石盤を完成させることを目標に進行するゲームです。

それでは最初のクエストは「催眠の魔術師を倒せ」です。それでは参加者の皆さま、ぜひがんばってください。」

・・・どうやらあのハガキは本物だったようだ。そしてぼくのすぐそばには、首かけがついたネームプレートが入っていた。

「なんだ、これ?」

そしてぼくがネームプレートを持つと、突然ネームプレートから音声が聴こえた。

「これは『戦士の名刺』といって、参加者全員に与えられます。そして『戦士の名刺』にむかって、「○○○○(参加者の名前)、戦闘開始!」と言うと、あなたは戦士になることができます。一度持つと、参加者から肌身離れることはありません。」

なるほど、特撮アニメの変身ベルトのようなものか。

そういうと戦士の名刺は、すぅと消えていた。

「これでゲームの参加者になったということか。」

ぼくはおどろきながらも、一階へと降りていった。

「お母さん、おはよう」

いつも通りのあいさつ、しかし母さんからの返事がない。

「朝ごはんをつくっているのかな・・・」

そう思ってテーブルのところへ行くと、なんとお母さんが床で倒れているのを見つけた。

「お母さん!?大事!?」

ぼくはお母さんの顔を見た、スースーと静かな息をしている。

寝ていると察したぼくは、お母さんを揺り動かして起こそうとした。しかしお母さんは起きない。

「お父さん、お父さん!?お母さんが起きないよ!」

ぼくはお父さんを呼んでみたが、返事がない。

まさかと思い、父さんが寝ている部屋へ行くと、父さんは部屋の入り口で倒れていた。

声をかけてみたが、父さんも深く眠っていて全く起きない。

「父さんまで・・・、一体どうなっているんだ・・・?」

ぼくはどうしたらいいかわからず、勢いでテレビをつけた。

「愛知県岩倉市の○○区で、突如として大勢の人々が眠り出すという事件が発生しました。眠り出した人々の数は、通報された数を入れて三百人を越えており、警察と消防で眠っている人たちを保護していく方針です。」

なんてことだ・・・、ぼくたちの住んでいる町でこの事件が起きているのだ!

「なんで、こんな・・・あっ!?」

ぼくはハッと気づいた、もしかしてこれはゲームのクエストではないのか・・・?

「そういえば、催眠の魔術師を倒せというクエストだったな・・・」

ということは、催眠の魔術師がどこかにいるにちがいない。そう確信したぼくは、家を飛び出して催眠の魔術師をさがし始めた。

しかし、催眠の魔術師への手がかりが見つからない。一体、どこにひそんでいるんだろう?

家を飛び出して走り回っていると、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、友歩!」

「田中くん、どうしたの!?」

ぼくは田中くんのところにむかった。そして田中くんは、息もつかせぬ様子で喋り出した。

「実はおれん家の母ちゃんが眠ったまま起きなくなってしまったんだ、母ちゃんだけじゃない、父ちゃんも妹も起きなくなってしまったんだよ!」

「田中くん家もか・・・、ぼくの家でも同じことが起きているんだよ。」

するとここで戦士の名刺が現れた、しかも田中くんにも戦士の名刺が現れたのだ。

『戦友同盟を結びますか?結ぶ場合は、互いに相手の戦士の名刺の裏に名前を記入してください。』

これはつまりチームを組むかどうか聞いていることだ。

「田中くん・・・、ぼくとチームを組む?」

モジモジしながら聞くと、田中くんはやれやれとした感じで言った。

「当たり前だろ、おれたち同じクラスだからよ。」

そしてぼくと田中くんは、互いの戦士の名刺の裏面に名前を書いた。これで戦友同盟が結ばれた。

「というか、田中くんもレインボー・クエストに参加していたんだ。」

「ああ、若葉も参加していたんだな。それでまずは、催眠の魔術師を見つけないと。」

「でも、どこにいるか手がかりが・・・」

するとぼくたちの目の前に矢印が現れた。

「何これ?」

「もしかして、この先に催眠の魔術師がいるということか?」

「とにかく、行ってみよう。」

ぼくと田中くんは矢印の後を追いかけた、すると公園に到着し、人だかりができているところにやってきた。

「あそこに何かあるのかな・・・?」

ぼくは人だかりがあるところに来ると、みんなが宝箱を開けようとしていた。

「どうしたんですか?」

「ん?もしかして、レインボー・クエストの参加者か?」

「はい、そうです。」

「実はこの宝箱を開けないと、催眠の魔術師のクエストに挑戦できないんだ。それでカギを見つけて開けようとしているんだけど、開かなくてね・・・」

「そのカギってどれですか?」

「これだけど、本当に開かないぜ。」

ぼくは男性からカギを受けとると、宝箱のカギ穴に差し込んだ。すると宝箱は簡単に開いてしまった。

「あれ?開いたよ?」

「そんなバカな!おれたちが何度やっても開かなかったのに・・・」

『君たち、戦友同盟は結んだの?』

すると謎の声が聞こえてきた。

「なんだ?戦友同盟って?」

「互いの戦士の名刺の裏面に名前を書くと結ばれる同盟だよ」

『解説ありがとう、宝箱を開けるにはカギと二人以上の戦友同盟が必要なんだ。』

「そうだったのかよ・・・しておけばよかったぜ。」

宝箱を開けようとしていた男たちは、ガクッとうなだれた。

『さて、宝箱を開けることができた二人には、クエストの参加資格が与えられます。今回のクエストは、催眠の魔術師を倒すこと。そのクエストに必要な「朝焼けの杖」を二人に授けよう。』

「これが朝焼けの杖・・・きれいだな。」

朝焼けの杖は、先にまるで朝日のように輝いている石がついていた。

『この杖を持って、「目覚めの時間だ!」と唱えると、催眠の魔術師による魔法が解かれて、催眠の魔術師は倒される。催眠の魔術師はこの建物の一番上にいる。』

そしてぼくと田中くんの前に、その建物の写真が現れた。その写真を見て、ぼくたちはおどろいた。

「ここ、ぼくたちの学校だよ!」

「ああ、だとしたら先生たちも眠っているかもしれない!助けに行こう!」

そしてぼくと田中くんは、朝焼けの杖を持って学校へと走り出した。






学校に到着すると、ぼくと田中くんは開きっぱなしになっている校門から校舎の中へと入っていった。時刻はもう午前九時を過ぎているのに、学校の中はあまりにも静かだった。

「なんか気味悪いな・・・」

「うん、静かな学校ってどこか怖いよね。」

そしてぼくと田中くんは職員室へやってきた。ぼくがノックしながら言った。

「すいません、伊藤先生いとうせんせいいませんか?」

ぼくは担任の先生を呼んでみたが、返事がない。

「失礼します」

ぼくは扉を開けてみると、先生たちが机にふせて動かなくなっていた。

「やっぱり眠っている。」

「催眠の魔術師を倒さないと、ダメなようだ。」

ぼくと田中くんは職員室の扉を閉めて、屋上へ向かった。そして屋上につくと、焦げ茶色のフードを被った暗い印象の人がいた。

ぼくは直ぐに朝焼けの杖をかかげて呪文を唱えた。

「目覚めの時間だ!」

すると杖から光の球体が放たれた、そして催眠の魔術師はそれをさっとかわした。

「あぁ〜、よけられた。」

今度は催眠の魔術師が攻撃した、ぼくは攻撃をギリギリかわしたが、床には穴が開いてしまった。

「ひぇ〜、こいつ強いぞ・・・」

「一体、どうしたらいいんだ?」

『落ち着いて、君たちはナイト・ウィザード・アーチャーの内のどれか一つに変身することができるよ。よく考えて選んでね』

なるほど、ぼくたちは変身して戦うということか。

「よし、ぼくはウィザードだ!」

「おれはアーチャーを選ぶぜ!」

『では戦士の名刺に向かって、モードチェンジといいながら、なりたいものを言うんだ』

「モードチェンジ・ウィザード!」

「モードチェンジ・アーチャー!」

そしてぼくと田中くんの姿が変わった。

ぼくは青いぼうしをかぶり、黄色のマントを羽織った魔法使い。田中くんは緑と茶色を合わせた迷彩服で、弓と矢を装備していた。

「よーし、それじゃあ行くよ!」

「ああ、行くぜ!」

そしてぼくたちと催眠の魔術師との戦いが始まった。

「目覚めの時間だ!」

ぼくは朝焼けの杖を持ちながら呪文をとなえると、杖から放たれた光の玉が初めて催眠の魔術師に当たった。

さらに田中くんの矢も五回連続でヒットした。

「やった、当たったぞ!」

「しかも、かなり効いている。このまま、一気に攻めていくぜ!」

しかし催眠の魔術師は甘くなかった、催眠の魔術師は懐からヒモのついた石を取り出すと、ぼくと田中の前でそれをユラユラとゆらした。

「なんだあれ?催眠じゅ・・・」

すると田中くんがあっという間に眠ってしまった。ぼくもとても強い睡魔に襲われた。

「ぐっ・・・、眠い・・・」

このままぼくが寝てしまったら、もう催眠の魔術師を止めることはできない。

ぼくは睡魔をこらえながら、杖をかかげて呪文をとなえた。

「目覚めの時間だ!」

光の玉が催眠の魔術師の石に向かってきた。

すると催眠の魔術師はとっさに、石を懐にしまった。攻撃は当たってダメージを受けたが催眠の魔術師はすぐに立ち上がった。

「う、うう・・・」

田中くんは睡魔から解放され、起き上がった。

「田中くん、大事件?」

「ああ、助かったぜ。」

「攻撃は当たったけど、強いな・・・」

「なあ、若葉。あの石に何か倒すポイントがあるんじゃないか?催眠の魔術師はあの石を、攻撃を受けてでも守っていたし。」

「うん・・・そうだ!」

ぼくは田中くんに小さな声で作戦を伝えた。

「いい考えだぜ、それで行こう。」

そしてぼくは催眠の魔術師に向かって呪文をとなえた。

「ファイアー・ロール!」

炎が筒になって、催眠の魔術師向かってころがってくる。催眠の魔術師が筒をよけると、また懐からあの石を取り出した。

「今だ、田中くん!」

「そりゃっ!」

田中くんが放った矢が催眠の魔術師のうでにささった、催眠の魔術師は持っていた石を落とした。

「目覚めの時間だ!!」

そしてぼくは、石に向かって呪文をとなえた。そして光の玉が石を破壊した。

「うぉぉぉぉーーーーっ・・・」

すると催眠の魔術師は叫び声をあげながら、体が砂みたいになって舞い上がっていき、ついに姿を消してしまった。

「これって・・・」

「おれたち、催眠の魔術師を倒したのか?」

『おめでとうございます!クエスト成功です!今回は若葉さんと田中さんのチームでのクリアとなりました!二人には報酬として青の石盤を差し上げます。』

そしてぼくたちの目の前に、切り分けたピザのような形をした青い石が現れた。

「これが青の石盤・・・」

『これはレインボー・クエストにおける最も重要なアイテムです。ぜひ大切にしてください!それでは今回のゲームはここまで、みなさんお疲れさまでした。』

そしてぼくの目の前が急に暗くなり、ぼくが気づくと再び布団の上にいたのだった・・。














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