世界を救えるのは〇〇

ヒロシマン

序曲

 主人公は、道路清掃員。


 日ごとに増えていく、吐き捨てられたガムに手を焼いていた。


 取り除いても取り除いても、いっこうに減らない。


 そこで、監視カメラを設置すると、そこには、巨大なゴキブリにガムを吐きつけて退治している少年の姿が映っていた。


 巨大なゴキブリは、ガムを吐きつけられると身動きがとれず、煙を吹き出しながら溶けていき、ガムだけが残った。


 道路清掃員は不思議に思った。


 普通、ゴキブリは家の中にいる。それがなぜ、外にいて巨大化しているのか?


 とにかく道路清掃員は、監視カメラに映った少年に会ってみることにした。


 監視カメラの側で隠れて見ていると、酔っ払いが千鳥足で歩いて来た。その後ろに、少年が後をつけている。


 しばらくして、酔っ払いが苦しみだし、その体を突き破るように、巨大なゴキブリが出てきた。


 身構える少年に、襲いかかる巨大ゴキブリ。


 身軽にかわし、ガムを吐きつける少年。


 ガムが巨大ゴキブリをかすめると、その体から煙が出て、少し溶けた。


 慌てて逃げる巨大ゴキブリ。


 後を追おうとする少年を道路清掃員が捉まえた。


 「き、君。今のはなんだ?」


 「見りゃわかるだろ。ゴキブリさ」


 「どうしてあんなことが?」


 「大人のせいだろ。なにもかも、大人のせいさ」


 「このことを誰かに知らせなきゃ」


 「誰が信じる? そいつがゴキブリだったらどうする?」


 「そ、そうだな。君ひとりで闘っているのか?」


 「他にもいるよ。皆、子供さ。大人は信じれないから・・・。あんたは、ゴキブリじゃないみたいだけど、いつゴキブリになるか分からない」


 「そ、そんな。と、とにかく、なんとかしなければ」


 「まあ、期待はしないけど、やってみればいいさ。じゃあな」


 少年は、走って去って行った。


 巨大ゴキブリは、人間の身近にいて自然に、人間の体に寄生するようになったのか?


 それとも、誰かが遺伝子操作などで人間をゴキブリ化しているのか?


 どれだけの人間がゴキブリになる体になっているのか?


 すでに世界を支配しているのではないだろうか?


 謎は深まるばかり。


 道路清掃員は、自分がゴキブリになるかもしれないという不安を抱えながら、少年たちのゴキブリ退治をガムの除去で応援すると決めた。


 こんな大問題が起きているのに、報道機関は何も報じない。騒ぎが起きる様子もない。


 すでに大半の人間がゴキブリ化しているとしか思えない。しかし、区別する方法はない。唯一、少年たちが地道に見つけ出し、処理するしかない。


 道路清掃員は、ガムが多く吐き捨てられている場所にゴキブリ化した人間が多くいると考え、警戒するしかなかった。そして、ゴキブリはガムに弱いことが分かったので、ガムを手に入れ、子供たちに渡すことにした。


 しばらくたったある日。


 道路清掃員は、日課になった、子供たちにガムを配って帰る途中、数人の異様な集団に追い回され、囲まれてしまった。


 足元には、靄(もや)のようなものが広がってゆく。


 異常な集団の体が裂け、巨大なゴキブリが出てくる瞬間、ものすごい冷気が吹き抜けていった。そして、巨大なゴキブリを凍結させた。


 靄がさらに深くなったその先に、白い影があった。


 道路清掃員が目を凝らして見ると、そこには全身が真っ白のトナカイがいた。


 近づこうとすると、靄が流れて消えていき、白いトナカイも去って行った。


 「私は何かに守られているのか?」


 道路清掃員は、今までにも増して子供たちにガムを配り、闘いを陰で支えた。


 日がたつにつれて、道路清掃員はある結論に達した。


「私は人間ではない」


 おそらく、子供を除いて、すべての人間がゴキブリ化している。それなのに自分はゴキブリ化していないのは人間ではない証拠だ。そして、白いトナカイに守られているということは、サンタクロースを支えるエルフかもしれないということだ。


 いつまで続くか分からないこの闘い。


 勝つのか負けるのか?


 あるいは、別の解決方法があるのか?


 とにかく、道路清掃員は子供たちを助け、この世界を正常化させる決意をした。

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