孤高のマリアはイビツに笑う ①
「んっ、ん?」
寝返りをうとうとして何かに阻まれる感触がしたため、意識が浮上する。
うっすらと目を開け、ぼやけた視界が徐々にはっきりとしていくと、見慣れない天井を見ていた。
暖かな薄い肌色の天井。その中央には丸い今時の照明が設置されており、何処でも見られる天井であることが分かる。
あれ、僕は一体何をして?
意識が覚醒していく内に、僕は徐々に先程まで何をしていたかを思い出していく。
そう言えば、僕は彩愛さんの家に来て、それで...........
チャリチャリ
「ん?」
考えている内に手首.......そして足首に違和感を抱いた。それに、今のチャリって音って?
僕は手首に目を向ける。すると、
「ん!?」
僕の手首には枷が付けられていた。
たまにゲームセンターで見かけるオモチャの手錠なんかじゃない。
よくラノベの挿し絵やアニメなんかで見た囚人等に付けるような本格的なものだ。
それが僕の手首と柵の様なものを繋いでいた。
「んっ!ん!」
何か身の危険を感じた僕は力強く腕を動かすが、びくともしない。ただチャリチャリと、鎖が擦れる音が聞こえるだけ。
「ん、ん?」
であればと、足の方を見ようとするも、身体が起こせないように固定されてるためか、全く起き上がれない。
でも、分かる。僕の足も同じように枷で繋がれてるんだ。
ど、どうしよう?
そもそも、どうして僕は知らない場所に繋がれてるんだ?
そして、彩愛さんは何処に..........?
「ん...........んん?」
そんなこんなで起きてから数分が経った頃、僕はようやく自分の口がガムテープで閉じられてることに気づく。
「ん!んんー!ん、ん!」
く、口が開かない。鼻で呼吸が出来てるからいいけど、どうして?
トン、トン、トン、トン
すると、何処からか何かが近づいてくる音が聞こえた。
この音の感じは階段から降りてきているのだろうか?
そして、その音は止まり、代わりにドアが開かれる音が鳴った。
「あ、拓人、起きたんだぁ♡」
「
「(か、可愛いぃぃぃぃぃ♡)............ どうしたの?」
にっこりと、いつものように朗らかな笑顔で彩愛さんが来た。
かろうじて彼女の顔は見えるが、そこから下は全くと言っていいほど見えない。
カシャン、と何かを置くような音。
今、彩愛さんは何を?
「どーぉ?痛くない?」
「
「ふひっ、今何て言ったって、思ったでしょぉ?」
「っ!?」
殆んど、当たっている。
口元を覆うガムテープでまともに口を開けれないはずなのに、どうして当てれたんだ?
それよりも、痛くないって..........!?
「だいじょぉぶ♡怖くない、怖くない、安心してぇ?落ち着いてぇ♡」
吐息が耳に当たるほど近い距離で甘い声を出しながら僕の頭を優しく撫でる彩愛さん。
ただ撫でられてるだけなのに、その手が動くたびに心地よさと気持ちよさを感じる。
「ん、ん..........」
「目、とろんとして可愛いねぇぇ♡ふひっ、可愛いねぇぇぇぇ♡」
ずっと感じる心地よさ等を我慢して、彼女の顔を見た。
優しい笑顔を浮かべる彼女はまるで歴史に出てきた聖母のようで、でも全く違う。
その目にあるはずの光が無く、笑っているようで、笑っていなし、その瞳孔は開き切っているが、時折捕食者のように鋭く細くなっている。
一見綺麗だ、美しいと感じてしまうその笑顔も、今見てみれば、捕食者そのもので、凶器的なものしか感じられない。
「ん、んん!?」
「ん?どーしたのぉ?」
彼女が心配したように僕を上から覗き見て、更に僕の頭を撫でようとしたが、咄嗟に避けてしまった。
それが、いけなかった。
彼女の茶色みがかった瞳が濁り、やがて黒く染まる。
「どぉ、してぇ?何で避けるのぉ?気持ちよかったよねぇ?撫でられたがってたよねぇ?何がいけなかったの?何が怖かったの?ねぇぇえ、教えて?私、怒ったりしないよ?ただちょっと気になっただけで、怒ってないよ?だから言ってみて?悪いところは直すから、ね?だからまた撫でさせて?ずっと甘やかさせて?お願いじゃないとまたオカシクなっちゃうから、ね?」
ひ、ひぃぃぃぃ!?
だ、誰?
彩愛さんは、こんな人じゃない。
もっと明るくて、優しくて、少しお姉さんのような部分があったけどらここまで可笑しくはなかった。
一体何がどうしてこうなったんだ?
............ こ、怖いよ。
ねぇ、彩愛さん、どうしちゃったの!?
「ふ、ふふふ、ふひっ、答えてくれないんだぁ。そっかぁ。教えてくれないんだねぇ?そっかそっかぁ♡なぁらぁ、」
ゆっくりと、瞳孔の広がったその目を僕に向けながら、彩愛さんの顔が近づいてくる。そして鼻と鼻がぶつかる直前で僕の顔の横へと顔が逸れていった。
...........キス、されるのかと思った。
.........どうして僕はこんな状況でもドキドキしてるんだ!?
「
その時、彩愛さんから想像も出来ない程低い声でそう、囁かれた。
強大な虎は獲物を見失った。
兎は一時の安堵を得た。
だが、もう遅い。
兎の首には、既に細く、長い牙が深々と突き刺さっている。
兎が例えそれに気付こうが、もう遅い。
狡猾な蛇の牙からは、致死量を越えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます