彩愛さんが何かおかしい
やたら甘い匂いのする部屋で待つこと10分ほど、扉の外から足音が聞こえた。
いつもなら気にしないが、やはりあんなことがあると敏感になってしまう。
コン、コン、コン
「入るよぉ?」
「ど、どうぞ。」
扉が開けられる。
「お待たせ。ハーブティーでも飲んで、落ち着こ?」
微笑みながら彩愛さんは机の上にお茶のはいったティーカップを置いた。
...........でも何故かその目に光がない。
気のせいか。
カップは、白を基調としたシンプルな柄だけど、それがいっそう高級感を高める。
中のハーブティーはきれいな茶色だった。
ん?
何か白いねばっとした何かが見えた気がするんだけど、気のせいかな?
「それじゃぁ、頂きます。」
「ふひ.......ん”ん”、ンフフ、召し上がれ♡」
そして一口ぐいっと。
ん?
「このハーブティーって、結構甘いんですね。」
「............ ンフフフフフ♡そうなんだぁ?」
「え?そうなんだ?」
「あ、は、初めて買ったハーブだから、味は分かんなくて。」
「そうだったんですね。あと、このちょっとしたとろみ?も結構好きです。」
「............へぇ♡」
何か、彩愛さんが、僕がハーブティーを飲む度に妖艶に笑っている。
その笑顔にグッときてしまうのは仕方ないのではないだろうか?
でも、何だか怖い。
外側は今までの彩愛さんのはずなのに、中が違うと言うか、どろどろとした真っ黒い何かが渦巻いている、と言うか。
おっと、いけない。
「彩愛さん、ありがとうございます。お陰で落ち着くことができました。」
「そう?なら、良かった。」
「でも、長居はできません。もしここにキョーコちゃんが来たら、彩愛さんまで傷ついてしまうかもしれない。」
「........................。」
「だから、今からここを.........っ!?」
あれ?何か体に力が、あ。
気付けば僕は倒れていた。
体が麻痺している訳じゃない。
眠いんだ。
今まで一ミリも眠くなかったのに、いきなり眠くなったんだ。
あぁ、意識が遠退いていく。
「ダメだよぉ、そんなことしちゃ♡」
彩愛さんの言葉が聞こえる。
でも、いつもの声じゃない。
甘ったるく、心地よく、そして、どこか恐ろしい何かを感じさせる声だ。
「酷いこと、あったねぇ?つらいこと、あったねぇ?...........いま、苦しいねぇ?でも、でも大丈夫。私が寄り添ってあげる。私が、鈴音ちゃんの代わりに、愛してあげる。だって、それが拓人と私の未来なんだから。」
その言葉を聞いて、僕の意識は途絶えた。
「他の子なんて要らない。私と拓人だけいれば、何も要らない。他の子を好きになんかなっちゃダメ、話しかけられちゃダメ、答えちゃダメ、私を受け入れないとダメ、私の愛に溺れないとダメ、私を愛さなきゃダメ。でも、君は優しすぎるから、どんな子にも手をさしのべちゃう。惚れさせちゃう。だから、まずは私を、私だけを愛せるようになるために、君を教育します♡まずは私の部屋で監禁してぇ、私の作った料理を、私の手で、拓人が望むなら口で食べさせてぇ、真っ暗になるまでイチャイチャして、とろとろになった君を優しく抱いて、歯磨きを私にしてもらって、またぐちゅぐちゅにして、一緒に寝るの♡私も、私でも分かる。こんなの異常だって。でも、タクトガワルインダヨ?私は拓人のこと、好きだったのに、鈴音ちゃんを好きになるなんて。でも、良かったぁ♡キョーコちゃん?って言う人には感謝しかないよ。邪魔だった鈴音ちゃんを殺してくれてさ?そのお陰で、私は彼の心の弱いところに潜り込むことができた。もう、彼は私のモノ♡私がギュッてしたとき、安心しきった顔をしてた。もう、拓人は私がいなきゃ安心できないんだよ♡だけど、まだ足りない。だから、これからゆっくり............じっくり時間をかけて、拓人の心を私の色に染めて、私の、私だけの拓人にするから、覚悟してね?」
私は、可愛い顔で眠る彼の唇に、自分の唇を押し当てた。
その唇のあじは、とても甘美なものだった。
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