彩愛さんの家

ポカーンと口を開けたけたまま固まっていると、


「そんなに驚くことだった?」


と言われた。


「そ、そりゃあ驚くよ!だって、彩愛さんまで巻き込まれるかもしれないんだよ!?」


ここにいるのがばれてはいけないのに、僕は声を張り上げていた。

巻き込みたくない、失いたくないという思いが強いからだろう。


「そうかもしれないけど、て言うか気付いてる?拓人今すごくやつれてるよ?わ、私と抱き合った後から疲れが露骨に見え始めてるんだよ?」


え?と思い自分の顔を両手で触る。

鏡がないから全く分からない。

僕は気付かない内に疲労がたまっていたのだということを知った。


「拓人が私の心配をしてくれるのはいいけど、拓人の命が危険な時まで他人のことを考えなくてもいいんだよ?確かに私も危険にさらされるかもしれない。でも、それがなんだっていうの?私は君を見捨てたくはない。東君だってそうしたっていうんでしょ?なら、私もそうする。だって、君のクラスメートだもん。」


「............ 」


何も言い返せなかった。

僕にとってその言葉は嬉しいものだった。

僕といると危険だから近づいてこないで何て言われるのが普通だと思っていたから、その優しい言葉を聞くことしかできなかった。


「だから、一緒に行こ?」


「............う、うん!」


「えへへ」


そして彩愛さんは僕の手を取り駆け出した。

いきなりのことなのでドキドキしてしまう。

彼女の後ろを走っているので、女性特有の甘い臭いがした。


女性の手ってこんなに柔らかいんだ。


僕はそれよりも手の感覚に集中してしまっていたので、臭いに関して、全く気にすることはなかった。



──ひひっ、こんな都合のいいイベント逃すわけないでしょ?鈴音ちゃんには悪いけど、やっぱ私、諦めきれないから、ね?いいよね?ひひひ♡──



もちろんこの言葉にも、気付くことはなかった。



「ついたよ!」


「おお、やっぱりおっきいね。彩愛さんの家。」


「まぁ、こんなにお金があるのは両親が四六時中働いてくれるからだけどね。だから家に両親がいるときがほとんどないの。」


「あ、ご、ごめんなさい!」


「いいよいいよ。こういうのにはもう慣れちゃったし。」


触れてはいけないことに触れてしまった。

あぁ、僕のバカ!

そんな僕を許してくれる彩愛さん。

優しい上に美人なので、鈴音さんが好きなのに見惚れてしまう。

なのに、何故こんなにも胸騒ぎがするのだろうか?


まさかすぐ近くにキョーコちゃんが居るのか?

いや、そうじゃないと思いたい。

嫌な予感ばかりが頭をよぎる。

この鬼ごっこでそうとう気が滅入っているのかもしれない。


多分、そうなんだろう。

じゃなきゃ、










彩愛さんの家が、恐ろしい巣のように見えるのは、おかしいから。

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