第一エリア、突破

僕は今、必死に自転車をこいでいた。


宗次郎が作ってくれたチャンスと僕に放ったあの一言。この二つを僕は無駄にしないためにも必死に足と頭を動かしていた。


...........キョーコちゃんに場所を逐一知らせる何かが、僕の身近なところにある、か。


自分の物に気を付けろ。この言葉が意味することを、僕はまだ理解できそうにない。


...........とにかく、今は隣町に行こう。そうすればある程度時間を稼げる....!?


今、何て思った?


“ある程度時間を稼げる。”!?


何故、そんなことを思ったのだろう。

隣町に行けば、さすがのキョーコちゃんでも追っては来ないだろう。


彼女が警察沙汰になるようなことを大勢の前でやるなんてことはないだろう。


なのに、何故ある程度時間を稼げる、と思ったのか。


不安が頭をよぎる。


本能はもうそうだと思ってしまっているのか?いや、僕は諦めない。そんなことはないって証明してやる!


“キョーコちゃんからは、絶対に逃げきれない”だなんて、そんなこと絶対、ない!



自転車にのって十数分、僕はようやく隣町に繋がる唯一の道に戻ってきた。


ここを通れば、僕の住んでいる町とは別の場所に行ける。

キョーコちゃんの索敵能力もそこまで万能ではないはず。

僕は逃げきってみせる。


そんな僕の頭にふとある人の顔が浮かぶ。


................鈴音さん。


あの人は、大丈夫なのだろうか?


救急車を呼んだから、時間がかかっていなければ一命を取りとめられるはず。

万が一何てことがあってほしくないという望みかもしれない。

でも、刺された怪我が治ってくれればいいな。



さぁ、行こう。

僕は自転車を猛スピードで走らせようとした。


スピードはぐんぐん上がっていく、はずだった。



パン!


「え?」


加速の途中、何かが弾けた音が鳴ったと同時に僕の自転車はバランスを保てず横転した。


「イッ!」


地面と足が擦れる。

幸い整地されたコンクリートだったため、そこまで痛くはなかったが、膝を見ると血が滲んでいた。


自分の傷を、血を見ているうちに、奇妙な脱力感を覚える。

血が流れていっているのと、それを見たことによる恐怖心からによるものだ。

僕はそんな怪我のことよりも、この横転した事実に疑問を持った。


何故あそこでパンクしたのだろう?


毎日清掃されているのでパンクに繋がるような大きな、それも尖った石なんてあるわけがないし、たとえあったとしても、パンクなんて起こらない。


ふと、タイヤに目を向けた。


黒いゴムチューブのタイヤ。

ただのタイヤのはずなのに、所々にキラキラした何かがあった。


!?


「な、なんでっ!?なんでぇ!」


僕は、それを信じられなかった。

信じれば、僕は認めてしまうことになるから。

認めたく、なかったから。


タイヤには、無数の画鋲が刺さっていた。


画鋲だ。子供のいたずらで道にばらまかれていた。

普通ならそう思って憤慨するだろう。


でも、そんなこと、あるわけなかった。

そう、思えなかった。

だって、こんなことをする人は、一人しかいないのだから。


僕が通った道を見る。


約一メートルほどの道路に画鋲が敷かれていた。

道の幅きっちりと。

隙間など見れなかった。


あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


僕の中の何かが壊れそうになった。

それほどの衝撃が僕を襲った。

僕が見たあの光景が、僕の認めたくない仮説を確かなものにしてしまったのだから。


「タークートー♡」


そして、その声が聞こえた。


振り返りたくなんて、なかった。

だけど、僕の頭は、体は、彼女の手で無理やり動かされた。


「捕まえたよぉ?ウフフフフフ♡」


僕は、幼馴染み悪魔に捕まってしまった。

もう、逃げ場なんてなかった。

目の前には幼馴染み悪魔の顔があるはずなのに、真っ暗に感じた。

何も、見えなかった。


「今から一緒お家に行こうねーぇ♡」


僕の人生は、ここで終わるんだ。


「って、言いたかったんだけど、ダメなんだよねぇ。」


...........え?い、今なんて、


「拓人が私に捕まらずに隣町の道を通っちゃったから、この住宅街から脱出できたってことで、捕まえられないんだぁ。あーあ、捕まえられると思ってたのに。」


ぼ、僕は捕まえられないのか?もしかして、まだ生きていられるのか?

そんな希望が、僕を正気にさせる。


「だから、次は絶対に捕まえないと、ね♡」


「え?次?」


「うん!そうだよ。次。次のエリアはこの隣町。頑張って逃げて脱出してね?私、本気をちょこっと出すから。あ、ゲームが始まるのは三十分後だよ。それまでは拓人が逃げれるようにここで止まってるから。」


僕の精神が壊れかけた。

また、また僕に恐怖の時間を過ごせと言っているのか?

い、嫌だ。もう、怖いのなんて嫌だ!


僕は蹲った。

あ、もう、死んじゃっても、いいかも。

その方が楽だし。



─ここで、諦めるのか?─


え?


─そんなの、お前らしくねぇぜ、親友。─


そ、宗次郎?どうして。


─俺は、お前が逃げきれるための時間を作った。お前が生き残れる可能性を少しでも上げるために。─


で、でも、僕、もう。


─諦めんな!─


!?


─シャキッとしろ!お前が死んだら、彼女さんはどうなる?─



─一人ぼっちになるぞ。それでもいいのか?─


............


─お前は、その痛みをよく知ってるだろ?分かってるだろ?─


うん


─なら、やるべきことは分かるだろ。─


生き、残る


─そうだ。分かってるなら話は早い。─


............


─俺は、やればできるやつだと、お前のことをそう思っている。だから、顔をあげろ。─


............


─これから楽しいことがいっぱいあるって言うのに、シケた顔してんな。─


僕、出来るかな......?


─あぁ、出来る。そう信じている。


でも、ダメかもしれないよ?


─そんときは、毎回墓参ってやるよ。生きて帰ったら、焼き肉、行こうぜ?─



............うん、頑張るよ。頑張るよ!僕。


僕を、宗次郎親友が救ってくれた。

僕を、信じてくれた。

僕はそれに応えたい。

鈴音さんにも会うために、僕は必死であがく。


「あ、そうだ。忘れてたよー!」


目の前の幼馴染みは、僕の方を振り返った。


僕は、今どんな顔をしているのだろう。

分からない。だけど、僕は、







「第一エリア、突破おめでとー♡」











絶対に、逃げきってみせる!









────────────────────


次エリア、新ヒロイン登場。

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