助けて!


親友キャラって、時には主人公を裏切るのだよ、諸君。


            by 時亜 迅

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はぁ、はぁ、ひゅー、はぁ、はぁ


何時間、走っただろうか。体力も、精神力ももう限界だった。

目の前で人を刺されて、そんな殺人機もとい犯人は自分の幼馴染みで、その幼馴染みと捕まったら死ぬ鬼ごっこをし続けて、正気を保ったままでいられるだろうか?


頭の中は多すぎる情報を処理、かつ同時進行で逃げ道を考えようとして何もできていなかった。ごちゃごちゃだ。


とにかく、逃げ続けた。道を進み、時には曲がって、時には戻って、自分の知っている道を見つけようとした。

記憶の中の地図を頼りに、僕はとにかく足を動かし続けた。


だが、非力な僕は体力も少なく、短距離走でクラスの上位のタイムを誇る足も、使い物にならなくなっていた。


呼吸が乱れておかしくなっている。

恐怖と不安が僕をそうさせる。


さらに、放課後から数時間たったこの時間帯は外に出ている人がとたんに少なくなる。

それが僕のこの二つの感情をさらに煽った。


助けてと声を上げても、誰も返事はしてくれないだろう。

僕の住む町は万引きや窃盗、殺人等の犯罪が起きたことがない。


また、小さな子供たちがふざけて叫んでいるせいで誰も助けてという言葉をまともに受け取ろうとはしなかった。


誰か窓から外を見てくれれば、僕が学生で必死の形相で助けて、と叫んでいることに気付いて答えてくれるかもしれない。


だが、そんな都合よく窓から外を見る人なんていなかった。


助けてくれ!


心の中でどれぐらい叫んだだろうか?


息がまともにできなくなって視界がぼやけ始める。酸素不足による症状であることは明らかだった。


それも無理やり無視して、僕はようやく目的地に着いた。


時間で言えば約2、3時間といったところか。普段なら数十分でつくであろうその場所にここまで時間がかかったのは初めてだ。


僕はインターホンを連打する。


ピンポンピンポンピンポーン


早く、早く出てきてくれよ!


不安で気が気ではない僕はすぐ出てこないことに苛立ちを覚えた。

キョーコちゃんが来る前に、頼む!


『おい、どうした?』


「頼む!早く、早く開けてくれ!」


『はぁ?何言って、』


「助けて!」


『............とりあえず、入ってこい。』


僕はその声を聞いて少し安心した。

孤独ではないんだと、そう思えた。


ガチャリ


扉が開いた。


「ほら、入ってこい。」


そう言って、朴の親友、東宗次郎は、扉の開いたところから僕を手招きしてくれた。


中に入るとリビングに行こう、と言って宗次郎は先に進んでいった。


宗次郎の家は木造の二階建ての一軒家だ。

中も和が感じられる落ち着いた空間で、畳の部屋が二ヵ所存在している。


僕は廊下をまっすぐ進んでリビングに入ると、机の上にお茶があるのを見つけた。


宗次郎に目を向けると、彼は頷いてくれた。

僕のために用意してくれたそれを僕はグイッと飲み干す。


数時間ぶりのお茶はとても美味しかった。

すると、疲労のせいかその場にへたりこんだ。


「んで、落ち着いたらでいいんだが、何があったか教えてくれ。お前が肩で息しながら必死に家に入れろって言ってるのを見るに、ただ事じゃねぇんだろ?」


優しい声で、宗次郎は僕に聞いた。

すると、恐怖や不安から解放されたような気がして、感じる間もなかった感情が一気に溢れだして、その瞬間、一筋の熱い何かが僕の目からこぼれた。


そして、それを境に僕は泣いてしまった。


「お、おいおい、勘弁してくれよ。」


彼はそう言いながらも僕の背中を優しくさすってくれた。


僕はこの時、宗次郎とこの家に、今まで感じたことのないくらいの安心感を覚えた。


そしてなによりも、宗次郎が慰めてくれることが、とても嬉しかった。



「マジか..........響子のヤロウが、お前の彼女さんを刺したってか。そのうえ、お前のことをずっと追っかけ回して来てたのか。そんで、俺の家に着いた、と。」


「うん、そうなんだ。」


僕は泣き止んで落ち着いたあと、宗次郎に今までのことを話した。


最初は冗談だろと思っていた宗次郎も、僕の必死さと説明の具体的さに真実だと思ったのだろう、真剣に聞いてくれた。


「よく、頑張ったな。」


「っ!?」


宗次郎の優しい言葉に、また僕の目頭が熱くなった。


「おいおい、泣くなよ..........男だろ?」


「うん。」


そう言われても、これはどうしようもないじゃないか。不安で仕方なかったのだから。


男だろ?と言われ、そうだぞ!と反抗心を抱いたものの、僕はせいぜい泣き出しそうなのを我慢することしかできなかった。


お陰で声はブルブル震えていた。


「ムキになんなよ。........それで、話を変えるんだが、お前の話から考えると、ここに長居するのはあんま良くないかもしれねぇな。」


「え?」


僕はその言葉に絶望した。この、安心できる場所から離れたくない。あの不安を、恐怖を、もう感じたくない。


「お前にとって少々酷な話かもしれない。だが、ここが安全な場所であり続けるのは無理なんだよ。情報からして完全にお前の行動を読んでる。ここに長居すれば何か罠を仕掛けてくるかもしれない。生きていたいんだったら、ここに長居するのは、それこそ一番の悪手なんだ。」


「............」


言っていることは分かる。キョーコちゃんは僕の行動を先読みしてあの場所に来たんだ。

だから、何かされる前に移動した方がいい。


僕は、覚悟を決めた。自分がいきるためでもあったが、一番の理由は、宗次郎を、自分の親友を、巻き込みたくなかったからだ。


「..........分かったよ。僕、行くよ。」


「あぁ、それでいい。それでこそ、俺の親友だ!」


宗次郎はそう言うと、拳を出してきた。

僕はそれに答えるように拳を出し、互いに軽くぶつけた。


親友の証、である。


ピンポーン


音が鳴った。


「っ!?」


「..........いいか?俺がインターホンに出たらすぐリビングの窓を開けて逃げろ。そこに鍵が刺さったままの俺の自転車がある。それを使って隣町まで行け。」


「う、うん!」


宗次郎はそう言って立ち上がった。

そして、僕に向かって一言、呟いた。

インターホンの元に進んでいく。

............ 緊張が走る。


ピッ

「............どちら様でしょうか?」

ダンッ


宗次郎がインターホンに出たと同時に、僕は窓に向かって走り出した。


窓を開け、持っていた靴を踵を踏んだまま履き、自転車まで急いだ。


自転車の元にたどり着くと、カゴにかけてあったヘルメットをかぶり、自転車にまたがりペダルに足をかけ、僕は最高スピードで自転車を走らせた。



[響子は何らかの手段でお前の位置を逐一把握している。自分の物に気を付けろ。]



宗次郎の言ったあの言葉。何らかのヒントだろう。


宗次郎への感謝を胸に、僕はペダルをこいだ。


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「どうだった?拓人は?」


「震えていたぞ、アイツ。お前、自分が何やったか分かってんのか?」


「うん!あのクソ女から解放してあげたの!」


「...........それが、アイツのためになると?」


「絶対になるもん!大丈夫だよ!」


「..........やっぱり、お前は“狂”子だよ。」


「うん?そうだよ!私ずっと響子だよ?どうしたの?」


「...........いや、こっちの話だよ。」


「そう?ならいいけど。」


そいつはそう言って、俺の家から出た。


拓人。俺の親友。俺がお前に出来るのはここまでた。










どうか、無事に逃げきってくれ。













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