ごめん

「ごめん。一緒に君の家には行けない。」


「え?」


「どう考えても、今の君は普通じゃない。だって、人を刺してるんだよ?」


「............................」


「謝っても許されないかもしれないけど、警察署に行こう。今ならまだ間に合う。捕まるのは、覆せないけど、一緒に。」


僕は手を差し出した。彼女の人生が、人を刺してしまったことで終わってほしくない。感情の高ぶりで刺してしまったとなれば、絶対許されないけど。


それでも、彼女がまた正気に、


「何で?」


「え?」


「何で、一緒に来てくれないの?私、凄く楽しみにしてたのに。」


「で、でも君は人を、」


「何で?ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ?」


僕は、絶句した。彼女の提案を拒否したとたん、壊れたように、何でという言葉を連呼し始めたからだ。


その表情からは、怒りと、底知れない黒い感情が見てとれた。


本当に、彼女を壊してしまったのは誰なんだ?何が彼女をそこまでさせた?


僕は、今の彼女の状態を、原因を、理解することが出来なかった。重い愛だけでは、こんなことにはならない。


「私は、こんなにも愛してるのに、あんなにも、アピールしてきたのに、どうして気づいてくれないの?どうして私の誘いを断るの?あの頃の拓人は私のことを好きでいてくれた。結婚しようっていってくれた。私をいつも励ましていつも誉めてくれていつも隣にいてくれていつも笑っていてくれて、そんな拓人がとても大好きだったのにだから私はあの頃から拓人に対して良い女であろうとしたいつも隣にいてもいいように努力した周りからの印象も良くして生徒会にも立候補して皆から望まれる存在になったのにどうして拓人は他の女に告白しちゃうの?そうか、あのクソ女のせいか。あのクソ女が私の拓人を変えちゃったんだあのクソ女のせいで拓人は何も分からなくなっちゃったんだきっとそうよきっとそうにちがいないあぁ忌々しい私の拓人に手を出して私の拓人を汚して私の拓人を壊して昔の頃の拓人を変えてしまった。でも、でも大丈夫よ。フフフ♡そうよ、汚されたならもとに戻せばイイのよ昔のように私を見て一緒にいてくれた拓人に。洗脳から解放しなくちゃ。私の愛を知ってもらわなくちゃ。時間がもったいない。早く洗脳を解いて本当の拓人に戻して結婚しなくちゃ。そうすれば拓人は幸せになれる。喜んでくれる。あぁ、想像しただけでも凄い。拓人が私に愛を囁いてくれる。本能のままに私を弄んでぐちゃぐちゃにしてくれる♡でも、そんな拓人も好き♡どんな拓人でも私は受け入れてあげられる。ダカラ、タクト?」


「ひっ!?」


彼女がこちらの方を向いた。その顔はとても整っていて、誰もが見とれてしまうような笑顔だった。


でも、目が笑っていなかった。いろんな感情が渦巻いているように見えたが、何よりも感じたのは、僕に対する異常な好意、愛情だった。それも、どす黒い感情で。


恐怖を感じた。僕は一歩、一歩後ずさる。


そして、僕はその場から逃げ出した。

後ろを向いたときに何か彼女は言葉を発した。


もちろん聞こえなかった。そんな暇はなかった。それなのに、僕の耳からその言葉が離れなかった。













「ニガサナイヨ?タ、ク、ト♡ウフフッ♡」











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