重すぎた愛
幼なじみのキョーコちゃんは、じっと僕のことを見つめていた。その目はとっても嬉しそうに笑っていたが、瞳は光を灯しておらず、真っ黒で濁りきっていた。
「キョーコ..........ちゃん?」
「だからぁ、そうだって♡しつこい男は嫌われちゃうぞ?でも、拓人ならイイヨ♡」
僕にそう言ってくる彼女は、もう僕の知っている彼女ではないことが、なんとなくだけど分かった。
まず、僕の記憶の中のキョーコちゃんは、引っ込み思案で、見知った人の前だけ明るく、元気な子だ。
周りからも、元気な子として当時可愛がられてたのを覚えている。
そして、とっても臆病だった。
お化け屋敷なんかに行こうって言ったら泣いて拒否し続けてたぐらいだ。
でも、目の前の彼女は、今の幼なじみは、どうだろうか。
さっきまでの笑顔が、張り付いた表情のように思えてきた。
それもそうだろう。
彼女は今、なにも気にせず笑って話し掛けてきているが、顔や服にはベッタリと真っ赤な血が付いている。
並みの人じゃ、それを見ただけで恐怖で足がすくんでしまうだろう。
僕も例外ではなかったが、その血を見たことで、鈴音さんが刺された瞬間のことがフラッシュバックし、恐怖よりも、気持ち悪さが勝ってしまった。
うぉぇぇぇぇぇ............
耐えきれず、自分の口から吐瀉物が流れ出てきた。
口の中が酸っぱい。
吐くときの嫌な辛さで涙目になってしまう。
それでも、吐くのを止めることは出来なかった。
「大丈夫?拓人。」
彼女が僕の方に近づいてくる。
鈴音さんを刺した、犯人が。
「ち、近づいてこないで!」
「っ!?」
僕は、それを止めた。
近づかれたら殺される、そう思ったからだ。
誰だってそうだろう。
目の前で人を刺した人間をそうやすやすと近づけようとは思わない。
「な、何で、拒否、するの?」
だが、その行動は、かえって裏目に出てしまった。
彼女のどす黒い感情のトリガーを引いてしまった。
彼女は、後退りすると、突然“狂いだした”。
「何で、ナンデ私のことを拒むの?今までこんなこと、なかったのに!あぁ、そういうことね。あのクソ女!私の拓人に何か吹き込んだわね!そうよ、きっとそう。そうじゃないと、おかしいもの。拓人は私のことを拒まない。優しく受け入れてくれる。今までだってそうだったもの!............あぁ、こんなことなら確実に殺しておくべきだった。拓人が悲しむのは嫌だったから、致命傷になるようなところを避けて刺してたけど、今となっては失敗だわ。でも、大丈夫。もう私には、いえ、“私たち”には関係ないもの。ねぇ?拓人♡」
僕のことを光の灯らない瞳で見つめながら、彼女は言った。
一体、何があったんだ?
何があんなに優しかった僕の幼なじみをここまで変えてしまったんだ?
............分からない。分からないけど、ひとつだけ言える。
「ねぇ、拓人。一緒に私の家に来てくれない?私の家で久しぶりにお話しましょう?拓人にキキタイコト、たくさんあるの。たくさん話したあと、ご飯を食べましょう?もちろん私の手作りよ♡拓人の好きな唐揚げ、つくってあげる。」
彼女は、僕にそんなことを提案してくれた。
だが、それがただの誘いでないことを、直感的に僕は気付いた。
その予感は的中していて、
「あとあと!一緒にお泊まりするの♡おんなじベッドで、添い寝するの♡夢だったんだよ♡君と一緒に寝るの♡あれから会えなくなって、寂しかったんだから。ね?拓人♡イイと思わない?」
「............お泊まりは、今日だけ........?」
「え?何言ってるの?ずっとだよ。ずっと。もうお外には出られなくなっちゃうから、お外にバイバイしてね?でも大丈夫!私が一生オセワスルカラ♡何でも言ってね♡欲しいものなら買ってあげるし、エッチなことも...........君が望むなら、シテあげる♡だって、私は拓人を愛してるんだもの♡だから、一緒に行こ?」
...........今、はっきりと分かった。
彼女は僕のことが好きなんだ。
そして、その愛は、重い。........重すぎる。
はっきり言って、普通じゃない。
重すぎた愛
それが彼女を狂わせてしまった。
その愛を受け止めようとすれば、僕はただじゃ済まないだろう。
それでも、僕は鈴音さんが好きだった。
だから、僕ははっきりと言わなくちゃいけない。
そして僕は、勇気を振り絞って、口を開いた。
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