第四章【独立機械都市】

Prologue-4 アリス奪還後~

王暦アンバルド 25年♡月#日


 ついに本日、王都・ロンディズム領の王城にて公式に【聖者】の称号を頂戴してしまった……。


 いやだ~! いらない、いらない、いらない!!


 金銭を積んででも返還したい気持ちで胸が一杯だ。


【聖者】とは【聖なる心の持ち主】と国王様自らが堂々と宣言したことで、これからの俺の一挙一動に民衆の視線が注がれるだろう。


 しかも、俺は今回が初めての表舞台でのデビューとなる。様々な要素が相乗効果を生んで、今の注目度は王都一と言っても過言ではない。


 つまり、ちょっとでも悪いことをすればすぐに嗅ぎつけ! たちまち噂になり! 敵対勢力がわめいて! 国王様を騙した罰を受けて、俺の人生はおしまいになる!


 嫌だよ……どうして俺は好き放題生きたいだけなのに、こんな苦しみを負わなければいけないんだ……。


 もうひっそりとみんなと一緒に隠居したい……そんな気持ちが強くなった一日だった。




王暦アンバルド 25年♡月☆日


【聖者】として名を知られるようになってから、様々な手紙が届くようになった。


 その中でも多いのが二種類。


 一つは貴族からの婚約の申し出。特に中小貴族が今回の一件を受けて、つながりを持とうと必死みたいだ。


 これまで魔法適性がないからって見向きもしなかったくせに国王様に気に入られているとわかった瞬間、この手のひら返し。


 誰が受けるか、ばーか! 俺にはおまえらの娘より可愛くて仕方がないお嫁さん候補が四人もいるんだよ!


 もう一つは「応援しています」など平民たちからのお手紙だ。


 これは正直、嬉しい。だけど、そういう感情を持たれていると知れば知るほど悪いことができなくなっちゃう……!


 マシロたちと関わりが深くなり、アリスからもお嫁さん希望――すごく嬉しかった――の手紙を貰ったことでハーレム願望については小さくなっている。


 だからといって、将来働くかどうかは別の話。


 今だってフローネの一件とかで、こんなに頑張っているんだから終わった後は贅沢を極めて暮らしても許されると俺は思うんだ。


 搾り取ったお金で、俺は四人との幸せな結婚生活を送る……!


 あの日以来、風向きが変わったことを感じる日々だが、それらを超えて俺を悩ませる種が実は一つある。


 この日記を書いている最中にもズキズキと痛みを訴えてくる右腕だ。




王暦アンバルド 25年♡月★日


 前言撤回! 右腕の痛み最高かもしれん!


 右腕が不自由な生活をしているということでマシロたちがすっごく甘やかして、お世話してくれる!


 以前まではアリスがよく俺の隣についてくれていたが、今は二人体制で交代しながら……なんとメイド服状態でいてくれるのだ。


 それだけじゃない! 俺がお願いするまでもなく、夜には添い寝までしてくれる!


 あぁ~、最高だな~! いつまでもこんな幸せな毎日が続いて欲しいなぁ~!


 そう思って痛みが治らない――実際に痛みは引いていない――と呟いていると、父上が四大公爵家の当主にして、ロンディズム王国内の魔法使いにとって最高の地位に値する国家魔術師のラジウスさんを連れてきてくれた。


 この人に任せれば痛みも治るのだろう。楽しかったメイドパーティーも終わりかぁ。




 そんな気持ちで聞いていた俺に下された診断は、右腕の切断だった。

 



王暦アンバルド 25年♡月✤日


 人体には魔力回路と呼ばれる魔力を通すための器官が張り巡らされている。


 俺は前回の戦いでその魔力回路を酷使しすぎたために破損してしまっているらしい。


 魔力回路は魔力を流せば新たに作り出すことはできるが、一度壊れてしまったものは修復できない。膨大な魔力を持つ俺がもう一度魔力回路を作るにも身体が持たない。


 そういうわけで右腕を切断し、義手を付ける必要があるというのがラジウスさんの意見だった。


 それを聞いたアリスの落ち込みようが一番凄かった。それこそ俺よりも責任を感じていると思う。


 だけど、俺としては彼女たちを守れた勲章だ。右腕一本でアリスがお嫁さんになってくれるのだから安い買い物である。


 それに義手になれば人間の身体とは違い、これまで以上に強くなれる可能性がある。


 だから、アリス。自分の右腕も切ろうとしないでいいから!


 右腕切る暇があるなら、そのまま抱きしめておっぱいに顔を埋めさせてください!




王暦アンバルド 25年♡月*日


 なんとかアリスも説得し、俺たちはラジウスさんの助言もあって独立機械都市・エンカートンへ向かうことになった。


 エンカートンは《魔導具》の作成が盛んで、随一の技術力を保持していることで有名だ。


 特徴として独立機械都市の名の通り、どの国にも所属していない。貴族の権力が通用しない場所でもある。


 つまり、俺の義手も完成まで長い時間がかかるだろう。


 なので、これまで息詰まる時間を過ごしていたし、気分転換の小旅行も兼ねている。


 すでにマシロたちそれぞれをデートにも誘った。いや、誘おうとしたのだが……うむ、彼女たちの方が強かったということで……。


 デートを誘うことがあんなにも緊張するとは……いくら取り繕っても前世は童貞。


 ボロを出さなかっただけマシとしようか。


 そんな俺がこれからすることは、エンカートンでのデートプランの作成だ!


 みんなを楽しませられるような時間にするぞ~!




王暦アンバルド 25年♡月▼日


 エンカートンに着いたら、なんか家出少女を拾った。


 名前はユエリィ・ルルダーン。


 なんでも父に憧れ、機械技師として工房で《魔導具》作成をしたいが、肝心の父親の工房で雇ってもらえずにいたらしい。


 過去に作った作品を見るに腕は間違いない。


 ……クックック。これはいい拾いものをしたのでは?


 父親を見返す実績がほしい娘と、戦いに備えて高品質の義手を作ってもらいたい俺。


 利害が一致した結果、彼女が俺の義手を作ってくれることになった。




王暦アンバルド 25年♡月¥日


 義手に関してもひとまずのめどが立ったので、約束通り俺はデート×四をたっぷりと楽しんだ。


 どの一日も有意義な時間で、久々に心安まったように思える。


 なにより彼女たちも一緒に楽しんでくれたのが嬉しかった。


 そして、そんな思い出を作れたからこそ考えることもある。


 近い将来、俺は間違いなくこれまで以上の熾烈な戦いへ巻き込まれる。


 これは予感ではなく、確信だ。フローネの正体にも近づき、絶対に奴と相まみえる時がやってくる。


 そして、必ず勝ってみせる。みんなとの幸せな未来を掴み取るために。


 ……そのときにマシロ、カレン、レイナ、アリス……彼女たちに支えてもらえたならば俺はきっと最強になれるだろう。


 守りたいものがあると、人の心は強くなれる。


 そのことをこれまでの日々を通じて、俺は知った。


 だからこそ、戦いの前に伝えておきたいことがあった。

 

 



 俺はこの後――四人に結婚を申し込む。




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