Stage-Sub マシロ→オウガ←カレン

「「私(ボク)もオウガ(くん)を朝起こしに行きたい!!」」


 その声は生徒会室で業務の山を崩している最中に起きた。


 突如、立ち上がったマシロに全員の視線が集まる。


 俺も立った反動でバルンと揺れたおっぱいに注目した。


「……それはどういうことだ、二人とも」


 と言いつつもなんとなく原因に目星がついている俺はチラリと隣の副会長を見やる。


 ここ数日、毎朝ベッドに潜り込んでいるレイナ。


 生徒会に入ってから三人の仲は良くなっており、おそらく会話中にでもポロッと漏らしてしまったのだろう。


 しかし、レイナは首を傾げるばかり。


 ……おや? 本当に心当たりがない……?


「最近、レイナさんからオウガくんと同じ匂いがするんだよね……、なんでだろう?」


「早朝に一緒にいるところを目撃した証言もたくさんあるんだ……どうしてだろうね?」


 なるほど。自分たちで突き止めたわけか。


 確かにレイナを抱き枕のようにして寝ているので俺の香りも移るだろうし、早朝トレーニングにも付き合うようになったので目にした他の生徒もいるだろう。


 ハッハッハ、さすがは俺が惚れ込んだ二人だ――とはならない。


 え? そんなところからバレる? うちの女の子たち、ヤバすぎない?


 ラムダーブ島でのレイナの特定方法と一緒だったこともあり、まるで問い詰められた罪人のような気分だ。


 どうしよう。別に悪いことしたわけじゃないのに、次の一言が俺の命運を分ける気がする。


 マシロとカレンの観察能力に震える内心を取り繕いつつ返答を考えていると、俺よりも先に口を開いた人物がいた。


「なにやら勘違いされているみたいですね。私とオウガ君の間にやましいことは一切ありませんよ」


「レイナ……」


 彼女はここは私に任せてくださいとばかりにパチンとウインクする。


 なんて頼りになるんだ……ん? あれ?


 これ、なんだか言い訳を浮気相手にすべて任せるクズ男みたいなポジションになってない……?


 ……まぁ、大丈夫か! 別に俺とレイナの間に家族以外の関係はないんだし、レイナもその辺りはわかっているだろう!


「私は毎朝、オウガ君に抱かれています」


「「オウガ(くん)?」」


 グルリと獰猛な視線がこちらに向けられた。


 ちょっと待って、レイナさん! 話が違う!


 ゴホンと咳払いを一つ入れて、俺は冷静に言葉を選んで慎重に答えた。


「待て、二人とも。今のはレイナの言葉が足りない。……一緒に眠っているのは認めよう。だが、それはレイナのために必要なことで決して淫らな行為は行っていない」


「「…………」」


「信じられないならアリスが証人だ。アリス、俺がレイナとまぐわっていたことがあったか?」


「いいえ。そのような音がしたことはありません」


「……ということだから。これで納得したか?」


 ……してないみたいだな。


 しかし、これは感情の問題だから時間が経てば二人の溜飲も下がるだろう。


 さて、ひとまずはこれで一件落着――


「では、こうしましょう。お二人もオウガ君と一緒のベッドで眠るというのは?」


「「そうします!!」」


 ――しなかった。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……どうしてこうなった。


「えへへ……なんだか緊張するね」


 右耳からマシロの照れ恥ずかしそうな声が聞こえて。


「オウガとお泊まりなんて小さい頃もなかったな……ふふっ、すごくドキドキするよ」


 左耳からカレンの甘い囁きが届く。


 いつもは広々としたベッドも三人が一緒に眠ればスペースに空きがない。


「……ああ。俺もこんな気分は初めてだよ」


 体と体が密着する人肌の暖かさを感じながら、俺は決して顔を動かさずに天を仰いでいた。


 あとでレイナに聞いたら『お二人にも私と同じ気持ちを味わってほしくて』なんて言っていたが……もうちょっと俺の気持ちも心配してほしかったな。


 両隣から良い匂いがして、寝るどころじゃない。


 どうする……? くそ、とにかく二人のパジャマ姿を視界に入れるわけにはいかない。


 だって、二人ともパジャマパーティーをしたときよりも派手になっているから。


 健康的な背中が透けて見えるレース状の薄い生地。


 密着すれば肌と肌を分け隔てるものはないのではないかと思うほどに薄い。


 それでいて少し激しく動けばすぐに脱げてしまうことが容易に想像できるほど緩い。


 わざわざ部屋には制服で来た時点で怪しむべきだった。


 隣接したアリスの部屋で着替え、油断していた俺の理性をゴリゴリに削りに来るとは……!


 俺は悪役貴族を目指していて、家の爵位も公爵。


 きっとここで本能に負けても何ら問題はない。だが、俺の脳が危険信号をカンカンと鳴らしているのだ。


 二人に今晩手を出せば後々面倒なことになると……!!


 こういう直感は大切だ。しかるべきタイミングがあって、今はそのときではない。


 ならば、俺のすべきことは一つ。


「では、オウガ様。お二方。消灯いたします。ゆっくりとお休みくださいませ」


 二人の期待するようなまなざしを無視して、一刻も早く眠りにつくことだ……!





 ――その十数秒後、オウガは一瞬で爆睡した。





◇Next Oga's HINT「オウガは寝相が悪い」 

 次回、マシロとカレン視点。

 ちなみにオウガが一瞬で寝たのは彼は毎日決まった時間に寝ているため、習慣的に体が覚えているので昼寝さえしていなければスイッチをオフにするように寝ることが出来ます。


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