Stage2-33 秘密の福音
時の流れは早いものでラムダーブ王国での一件から、すでに二週間が経とうとしていた。
疲れた体を癒やしたかったが、時間は待ってくれない。
特に大きく揺れたのが世界情勢。
フローネ・ミルフォンティが凶悪犯として指名手配されたのだ。
アンバルド国王はロンディズム王国の威信に賭けて、迅速に奴を捕らえて、死刑にすることを宣言した。
フローネは俺が考えている以上の極悪。いや、吐き気を催す邪悪とは奴のような人物を指すのだろうな。
なんでも父上は以前からフローネにきな臭さを感じていたらしい。
奴が学院魔術対抗戦に取りかかっている隙を見計らって発見したのが【肉体強化エキス】や【魔力増強エキス】を調合する工場と非合法的な人体実験を行っていた部屋。
その後、俺の手紙を受け取った父上は同行していたカレン父と救出に向かってくれたとのこと。
ラムダーブにいたことについては父上の家族溺愛っぷり。常識ではない返信速度を考えれば思いつく可能性だ。
本当にこれには感謝しかない。
カレン父の行いがこれでチャラになるとは思わないが、お礼はちゃんと言いに行こう。それとこれとは別だ。
おかげで俺は何も失わずに毎日を過ごせている。
……いや、失ったか。自由を。
「はぁ……どうして俺が生徒会長に」
フローネの所業が広まってからレイナにも嫌疑がかかったが、彼女の境遇も考慮して無罪となった。
レイナそもそも被害者で、生きるためにしなければならなかった点が情状酌量された形だ。
そんな彼女だが今はヴェレット家の庇護下にある。
これはレイナを他に取られないようにするための俺が考えた措置だ。
当たり前だろう。あんなに苦労したのに横からかっさらわれてたまるか。
彼女も『今はそれでいいでしょう』と納得していたし、いい塩梅に落ち着いたと思う。
話は戻るが、レイナは生徒会を辞めるつもりだった。
しかし、生徒たちから多くの嘆願書が届き、学院側との話し合いの結果、一つ下げた副会長に。新たな会長席には前副会長の俺が就任という流れに落ち着いた。
フローネのためとやっていた努力も無駄にならず、こうして彼女にかえってきたわけだ。
だが、今はそんな終わったことはもういい。
大きな問題が一つ。
「……なんで、こんな羽目に……」
テーブルに置かれた書類のタイトルをチラリと見る。
『アンバルド国王陛下より褒賞と称号の授与について』
なんでそんなことになるんだよぉぉぉぉ!!
別に今回の一件で俺はたいしたことをしていない。
せいぜいレイナを手に入れるために頑張ったくらいだ。
それなのにどうして国王様からご褒美がもらえることになる。
「これじゃあ、俺の人生設計がめちゃくちゃじゃないか……!」
悪役として、好き放題する俺の計画が……あぁ、ダメだ。今から考えていても仕方ない。
せっかくの昼休憩なんだし、睡眠でもしよう。
今日はそれぞれの業務が外回りで、生徒会室には誰もいない。
少しくらいならバレないだろう。
俺はテーブルに置かれた本を手に取ると、アイマスク代わりに顔にかぶせて現実逃避の世界へと飛び立った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「レイナ・
業務を終えて戻ってくると、オウガ君が会長席に身を預けて眠っていた。
普段、彼のこういった気の張っていない姿を見る機会が少ないので、なんだか得した気分だ。同時にこの生徒会室では安心して眠れるのだという事実が嬉しくなる。
それだけ私たちに心を許してくれている証拠だから。
「……どんな寝顔しているのでしょうか。気になりますね」
彼が本をかぶせて、顔を隠しているせいで逆に気になってしまった。
寝顔もやはりイケメンなのか、それとも面白い顔になっているのか。
例え、どちらでも私からの気持ちに変わりはない。彼にはこれ以上にないほどの感謝をしているから。
「オウガく~ん、起きてますかぁ……?」
「…………」
「これは熟睡ですね。では、失礼してっと」
起こさないように、そっと、そ~っと本をずらす。
「ふふっ、かわいらしい寝顔。少し子供っぽくなるんですね、オウガ君は」
鋭い目が閉じられているからか、いつもよりも年相応の顔つきに見える。
こうして見ていると、彼は年下なんだなぁと思う。
そんな年下に命を賭けて、救われた私はなんと情けない先輩なのだろう。
……優しいオウガ君はきっと望まないんでしょうけど、私はあなたのためならなんでもしてあげたい。
私にレイナ・ヴェレットという新しい人生を与えてくれたあなたには。
「……こういうことだって、私はしてもいいんですよ」
彼の顔とずらした本の間に、顔を近づけていく。
他の誰もいない二人きりの空間に、小さな秘密の福音が鳴った。
◇本日【悪役御曹司の勘違い聖者生活】2巻発売です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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