Stage2-30 呪い
私はラムダーブ王国という小さな島国に生まれた。
ここは他国からも離れており、土地も小さかったから、争いもなく平和に暮らしていた。
私の家族だってそうだった。
パパとママは紅茶の葉っぱを作る仕事をしていて、私と妹のメアリは時々手伝ったりする。
「パパ、ママ、聞いて! レイナね! 今日学校ですごく魔法の才能があるって褒められたんだよ~!」
「へぇ、そうなの。じゃあ、レイナは立派な魔法使いになれるわね」
「メアリも! メアリもお姉ちゃんみたいになる!」
「そっかそっか。きっと二人ともパパに似て優秀だから、もっと凄くなるぞ~!」
「それだけはないわね」
「そんなこと言わないでよ、ママ~!」
抱きつこうとするパパをママが顔を押さえて突き放す。
だけど、ママも本気で嫌がっていない。私とメアリの前でするのが恥ずかしいだけなのは秘密だって教えて貰った。
「あははっ! ん~、でもね、レイナは魔法使いになるつもりないの」
「え~、なんで? もったいない」
「だってね……レイナ、パパとママみたいな仲良しな家族を作りたいから!」
「……パパ」
「うん、ママ……レイナ~! 大好きだぞ~!」
「ママも抱きついちゃおっ!」
「メアリも、お姉ちゃんと仲良し~!」
その日にあったことを話しながら、みんなで食べるご飯は凄く美味しかった。
幸せだった。こんな毎日を積み重ねて、大きくなっていくんだと疑わなかった。
あの悪魔がやってくるまでは。
轟々と燃えさかる炎があちこちに立ちこめている。
泣き声があちこちから聞こえてくる。
あれ……? 私、何しているんだろう……?
「メア……ゴホッ! ゴホッ……!」
声を出そうとすると、喉が焼けるように熱くて、痛くて上手く出てこない。
水……水が欲しい……。
わけもわからぬまま本能に従って、井戸水を汲みに行こうと外に出る。
すると、一人の女の人がいた。
「……ったく、お前たちがさっさと寄越せば、島もこんなことにならずに済んだのに」
機嫌が悪そうにつばを吐き捨てるその人の足下には丸焦げになったパパとママの姿があった。
「パパ……? ママ……?」
近寄って、顔を触る。とてもざらざらとしていて、返事もしてくれない。
「ん……? ほう、お前だね。レイナっていうのは」
「だ、だれですか……?」
「そんなことはどうでもいい。ん~……まぁまぁだが、初めにしてはちょうど良いか。よし、決めた」
よくわからないことを言いながら女の人は私の髪の毛を掴んで、どこかへ連れて行こうとする。
「い、いたいっ! はなして!」
「あー、もうガキはやっぱりうるさくて敵わないね、静かにしなさい」
「パパァ! ママァ!」
いくら泣き叫んでも二人は助けてくれない。
もう死んでしまっているから。
遠くなっていく二人の姿。だけど、それは急に止まった。
「ダメ……おねえちゃ……連れて行かないで……」
メアリが女の人の脚を掴んでいたからだ。
「……やっぱり娘は親に似るんだねぇ」
「みんな……いっしょでなか、よし……がゆめだから……」
「そうかい。じゃあ、先にパパとママと一緒に待っておきな」
「あっ」
目の前が光って、目を開けばメアリがパパとママと一緒になっていた。
「あぁぁぁぁぁああああああ!!」
そこからの記憶は何も覚えていない。
目が覚めると、私の胸とお腹に変な機械が埋め込まれていた。
その日からフローネ先生が魂を移し返すための『器』としての人生が始まった。
最初に言われたことが一人称を「私」に変えること。殴られたくないので、従った。
次に永遠に若い肉体でいられるように体の中にいっぱい機械を入れた。殴られたくないので、従った。
それからは『器』の候補として実験を受ける日々を繰り返す。
フローネ先生は私をよくクズだったり、出来損ないだったり言うけれど、他の連れてきた子たちみたいに破棄はしなかった。
多分、私がいちばん言うことを聞くからだと思う。
泣かないし、叫ばないし、反抗しない。
痛いのは嫌だったから、感情は全て捨てた。
先生は魔族の襲撃からラムダーブ王国を救った英雄だったことになっている。
写真に映る先生と握手する王様は見たこともない人だった。
初めて紅茶を淹れると先生に「まぁまぁ」だと褒められた。
それからは美味しく紅茶を淹れる勉強をした。
先生に褒められることはなかった。
無表情は気味が悪いと言われたので、いつも同じ笑顔を浮かべるようになった。
気味が悪いと殴られた。
だけど、破棄はされなかった。
レイナであった部分を捨てていけば、私は破棄されずに済む。
生きる意味が全て先生のために切り替わっていく。
先生のためにご飯を食べて。先生のために勉強して。先生のために弟子を演じて。
先生のために、先生のために、先生のために…………。
先生が私の代わりとなる『器』を見つけた。
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