Stage2-28 表舞台のその裏で

 月明かりさえも届かない地下の奥深く。


 妖しく灯火だけが揺れるだけの部屋に私とレイナは計画の最終確認を行っていた。


 ここはレイナにとっても懐かしい場所だろう。


 とはいっても感情に浸る性格でもないか。


「準備はちゃんとできているんだろうね」


「……はい、滞りなく進めております」


「そうかい、そうかい。お前を拾って育ててやって、もう十年。やっと私の役に立てる機会が来たんだ。きっちりやるんだよ」


「……心より感謝を申し上げます」


 その能面のように微動だにしない面の下でレイナは何を考えているんだろうねぇ。


 自分の代わりとなる『器』が現れたともなれば、もっと取り乱してもいいものだが……ふん、所詮は人形か。


 気味悪いったらありゃしない。


 ……まぁ、いいさ。こいつともあと少しの付き合いだ。


「必ず今回でマシロ・リーチェを手に入れる」


 こんなにも私にとって好条件がそろう機会は滅多にない。


 ラムダーブ王国といういくらでも融通が利く土地。


 外部から邪魔の入りにくい他国から離れた島国。


 実力者も私を味方だと思い込んでいるよその学院長だけ。


 マシロ・リーチェをさらうには、まさに絶好なわけだ。


 唯一の懸念点はあのクソガキのわからない技術・・・・・・・だろうねぇ。

 

 そもそもあいつがマシロ・リーチェを手元に置かなければもっと簡単に事は済んでいたのだ。


 つくづく私の計画の邪魔をする……!


「ったく……お前がヴェレットからもっと信頼されていれば掴めたかもしれないのに……」


「……誠に申し訳ございません」


「いいさ。そっちにはあまり期待していなかったから」


 あんな色気の欠片もない奴を気に懸ける物好きもそうそういないだろう。


 ヴェレットが侍らせている周りの女子を考えれば、なおさら。


「……いよいよだ。私の野望の成就も近い」


 私は己の寿命が近づいているのを感じている。


 昔から優秀な魔法使いの寿命は短いと相場が決まっていた。


 過去にできていたことが老いのせいでやれなくなっていく日々は戦場よりも恐ろしかった。


 いやだ。私はまだまだ生きていたい。己の力を存分に振るいたい。


 早く戻りたいものだ。若かりし頃の全盛期に。


「……最終日。自分が何をするべきか、わかっているね?」


「もちろんです。先生に命じられた言葉は忘れておりません。彼を――」


「――そうだ。必ず成し遂げなさい」


「……はい。私の命は先生のためにありますから」




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 船のデッキに立ったボクは離れていくラムダーブの港を名残惜しく見つめていた。


 なぜなら、いつもボクの隣にいる彼がまだあの島国に残っているからだ。


「……オウガくん。やり残したことがあるって言っていたけど何だったんだろう? アリスさんは何か知ってる?」


「……いいえ。ですが、オウガ様はレベツェンカ様の船にお乗りになる予定です。そう時間はかからないでしょう」


「そうだといいんだけど……」


「今は海の景色を見て、気を紛らわせましょう。最後はいい思い出にした方がよろしいですよ」


「……そうですね! そうします!」


 アリスさんの言うとおりだ。くよくよしていても仕方ないよね、ボクらしくないし!


……とはいっても、もう他の船も見えなくなっちゃったんだけど。


あれ~? そんなに時間経ったかな……? ずっと港の方ばかり見ていたから、いつの間にか分かれちゃったのかもしれない。


 ……それにしても。


「……他に誰もいませんね。怖いくらい静かです」


「きっとみなさん心労で疲れてしまったのでしょう。部屋でお休みされていると思いますよ」


「――それは見当違いだねぇ、クリス・・・ラグニカ・・・・


「あっ、学院長さん、こんにち――」


「――下がってください、リーチェ嬢」


 いつもとは違う怒気がこもった声に思わず体が後ずさる。


 見やればアリスさんは剣先を学院長に向けていた。


 そして、その学院長の服は……真っ赤に染まっている。


「……っ!」


 気がつけば防衛反応が働いて、魔法を唱える準備をしていた。


 だけど……ガチガチと歯の音が鳴って、体の震えが止まらない。


 そんな私の様子を見て、学院長は愉快そうに笑っている。


「私の殺気を受けても気を失わないとは……やっぱり才能がある器はいいわねぇ」


「……貴様、何をした?」


「この返り血を見てわからない? 私、嫌いなのよね。才能も無いくせに、うるさい奴らが。まぁ、でも――




――最後の泣き叫ぶ顔は結構好きよ?」




「――【斬華散撃】!」


「――【雷の剣舞・双ダブル・サンダー・ロンド】!」


「きゃぁぁぁっ!」


 アリスさんの放った斬撃と学院長の撃った魔法が真正面から激突し、大きく船が揺れる。


 ボクも転びそうになるのをなんとか柵に掴まって耐えていた。


「相変わらず変な技を使う。あなただけよ? 魔法使いに真っ向から立ち向かえる平民なんて」


「だったら、大人しく斬られていれば良い」


「それは困る。私は死にたくない。老いは本当に嫌だ。いつ までも生きていたいんだよ」


「……それがリーチェ嬢を狙う理由か」


「……え?」


 ボクを狙う……? 一体どういう……?


 ダメだ……頭が混乱して、思考がまとまらない。


「ふん、お前をわざわざマシロ・リーチェに付けるあたり、やはりあの生意気なガキは気づいていたか」


「観念しろ。オウガ様はお前の悪事を全てお見通しだ」


「あなたの敬愛しているそのご主人様。私の弟子に殺されている頃じゃないかしら?」


「こ、殺す……? レイナさんが、オウガくんを……?」


「ええ、そうよ。あいつはどれだけ私が尽くしてやっても出来損ないのクズだったけど、最後くらいは役に立ちそうね」


「……耳障りな笑い声だ」


「……あなた。ずいぶんと強気だけど。その子を守りながら、私と戦えるのかしら」


 アリスさんはチラリと目線だけこちらにやる。


 そして、獰猛に笑って返した。


「……フッ、決まっている。オウガ様にリーチェ嬢を守れと命じられた。ならば、命を賭してでもお前を殺すまでだ!」


「だったら、見せてもらおうじゃないか。【雷神の戦斧ライトニング・ボルテックス】!」


 轟音が鳴り響き、空が明滅する。


「――――っ!」 


次の瞬間、何本もの巨大な雷がボクたちめがけて降り注いだ。




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