Stage2-23 ビッグマッチ

※一部、Web版から変更となり、書籍版(一巻)準拠の部分があります。

 マシロの使用する魔法属性  風・水 → 風・氷

 





 各学院長のありがたくも長い話を経て、ついに開催された学院魔術対抗戦。


 魔法学部門、魔法遊戯部門が行われている裏で俺たちも最終調整をおこなった。


 意外なことに出場が終わった選手たちの中には、俺たちを激励しに来た生徒たちもいた。


 代表選出についても文句がほとんどなかった件もそうだが、罪悪感があるということか。


 マシロにさえ声をかけていたのだから、やはり人間を動かすのは後ろめたさなんだろう。


 だが、おかげでマシロのやる気も増していた。


 そして、いよいよ俺たちの未来がかかった戦いが幕を開ける。


『最強の称号を得るのは、どの学院か!? 各学院の代表として選ばれたエリートたちがぶつかりあう魔法戦部門、いよいよ始まります!!』


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」 


『これは運命のいたずらか! 一回戦から大盛り上がりのカードになりました!! なんと大本命のぶつかり合い!』


 司会のあおり文句に大歓声が湧き上がる会場。


 熱戦を期待しているところ悪いが、これから行われるのは一方的な蹂躙だ。


 せっかくの好カードを楽しみにしている彼ら彼女らには少々申し訳ない。


『昨年の優勝メンバーがパワーアップして帰ってきた! 昨年の大番狂わせの実力を魅せてくれ! ミソソナ魔法学院代表、シェルバ・アンセム! ボーデン・ホリィ! マルカ・マイティ!』


 名前を呼ばれたシェルバたちが反対側から会場へと姿を現す。


 応援するオーディエンスに手を振る緩んだ表情を見て、俺は確信した。


 ――俺たちの勝利は揺るぎない結果になったと。


『対するリッシュバーグ魔法学院、レイナ・ミルフォンティがチームメイトに選んだのはな、な、なんと新入生コンビ! 果たしてどんな力を見せてくれるのか!? 代表、レイナ・ミルフォンティ! オウガ・ヴェレット! マシロ・リーチェ~!!』


「さぁ、行こうか、二人とも」


「うん! 絶対に優勝するもん!」


「ふふっ、気合い十分ですね」


 俺を先頭にして、戦場となる舞台へ足を踏み入れる。


 これが俺とマシロにとっては輝かしい初めての表舞台となる。


 きっとこの試合を見た者は幸福だろう。


 これから歴史に名を刻む人間の第一歩を直接見られるのだから。


「オウガ~!!」


 聞き間違えるわけがない。カレンの声がした方を見やれば、赤いドレスに身を包んだ彼女が最前列で手を振っていた。


 身を乗り出すようにしているため、柵の棒に胸が乗って大変なことになっている。


 カレンはドレスを着る機会もなかったせいか、やけに谷間部分が空いており、俺を悩殺するには十分すぎる破壊力を持っていた。


 ……ありがとう、カレン。これで俺は頑張れるよ。


 そういう意味を込めて拳をカレンへ突き上げると、彼女もまた破顔した。


 そして、もう一つ。気になることがあった。


 視線を隣に移すと、面白い集団がいる。


 俺の名前とデフォルメされた似顔絵が描かれた旗を持って振り回すお嬢様たちと、その横で指導しているアリスだ。


「「「圧勝! 圧倒! 世界の光のヴェレット様!」」」


「声が小さいです! もっと世界にオウガ様の名前を轟かせるように!」


「「「圧勝!! 圧倒!! 世界の光のヴェレット様!!」」」


 あぁぁぁぁ!! またやってる、アリスゥゥゥゥ!!


 恥ずかしいからやめてほしいのに! ほら、すっごい注目集めちゃってるから!!

 しかも今度は一人じゃない。他人まで巻き込んで……!


 アリスに付き合ってくれているのは……サティア、だったか? 俺に決闘を申し込もうとしていた彼女がどうしてこんなところにいるんだ?


 嫌いならここまで熱心に応援はしないだろうし……。


 アリスの無茶に付き合わせている申し訳なさもあるし……一応、手を振っておくか。


「あぁっ!? ヴェレット様が私に手を振り返して……!? こ、これは夢……?」


「サティア様!? 気をしっかり!! 試合は今からですよ!!」


 なぜかサティアは倒れ、別の子に支えられていた。


 なんだ、あいつ……? やはり面白い奴だ、気に入った。あとでアリスに聞いておこう。


 ともあれ一旦忘れて、意識を試合に集中させる。


「自信に満ちた顔じゃないか、ヴェレット」


 ニヤリと悪役染みた笑みを浮かべるシェルバ。


 自然とその表情ができることだけはうらやましいかもしれないな。


「もちろん。負ける可能性が万一もない試合だ。こんな顔にもなるさ」


「いいねぇ、僕は好きだぜ。そういう馬鹿。もっともいちばんの大馬鹿はお前を代表に選んだそこにいる人だと思うけどね」


 シェルバは俺からレイナへとターゲットを変える。


「なぁ、【神に愛された】ミルフォンティさん。あんたに勝ったらフローネ・ミルフォンティ先生に言ってくれよ。僕を弟子にとるように。優秀な弟子の方がいいだろう?」


「ええ、構いませんよ。先生も優秀な人材は大好きですから。二度も私を倒したならば、きっとお眼鏡にかなうでしょう」


「……ちっ。相変わらず嫌みの通じねぇ女だ」


 悪態をつくシェルバにもまったく動じず作り上げた笑みで返すレイナ。


 このあたりは流石だな。


「……なんかすっごく険悪な雰囲気だね、オウガくん。この大会って、こんなにギスギスするものなのかな」


「いや、今回だけだろう。マシロもあまり気にせずいればいい」


「わかった! 全力出すよ~」


 可愛い。彼女の笑顔があれば、殺伐とした雰囲気も浄化されるってもんだ。


『それでは各選手、所定の位置についてください!』


 アナウンスに従い、定められた位置に並ぶ。


 俺を前に。マシロとレイナが隠れるようにし、三角形型に陣を決める。


 対して相手は横一列に並んでいた。


『勝利の女神が微笑むのはどちらなのか! 学院魔術対抗戦・魔法戦部門、一回戦第一試合開始です!』


「「【雷光サンダー】!」」


 試合開始と同時に放たれたのは、敵の雷属性魔法【雷光】。


 速度に特化した魔法だが、直撃すればしびれによる硬直が起きる。


 魔法使い同士の戦いにおいて有効な魔法の一種だ。


 反則すれすれの不意打ち。だが、それだけ練られた技量ということ。


 なるほど。口だけではないのはわかった。


 だが、それでも俺たちには届かない。


「なっ!?」


「かわしただと!?」


 ずっと魔力の動きを見ていた俺は始動の瞬間を捉えていた。


 発動のタイミングと軌道の方向がわかれば避けるのはたいしたことじゃない。


 拳銃と一緒だ。銃口と引き金を引くタイミングを見極めれば避けられる。


 事前の作戦で俺が初撃を読み切り、マシロとレイナも俺の後に付いてくる形で魔法を不発にさせるパターンはくみ上げていた。


 同様にして【雷光】を避けた二人が今度は攻撃に転じる。


「やってやれ、レイナ!」


「【雷光】!」


「はやっっっ!?」


 レイナが放った雷の一閃は敵の【雷光】に負けない速度で三人に直撃する。


 彼女の努力は決して裏切らず、奴らにまで届いてみせた。


「【爆風噴出ウインド・アッパー】!」


「ぐっ!?」


「うぉぉぉっっ!?」


「きゃぁぁぁぁっ!?」


 その隙を逃さず、マシロが足下から上空へと吹き飛ばす風属性魔法を発動。


 物の見事に奴らは分断され、これで連携は難しくなった。


 こうなってしまえば、もうこちらのペースだ。


 一対一の構図なら負ける相手じゃない。


「パターン一だ! 大将はもらうぞ、レイナ!」


「おかまいなく。それではリーチェさん。手はず通りに」


「体勢が崩れないようにしてくださいね! 【爆風散華ウインド・バック】!」


 マシロの魔法によって背中から風の魔法を受けて、自らが吹き飛ぶレイナ。


 だが、先ほどとは違って一直線。風の援護を受けた彼女は驚異的な速度で飛び散った生徒に肉薄する。


 相手が立て直す前に全て叩くつもりだ。


【雷光】以外の実力はレイナが圧倒的に上なのは昨年で証明済。


 強者だからこそ生まれた選択をしてみせた。


「おい! レイナ・ミルフォンティ! 俺はこっちだぞ!!」


「残念だったな、シェルバ。お前の相手は俺だ」


「ちっ! 舐めやがって! 【火炎の弾丸フレイム・シュート】!」


「防御よりも攻撃をとったか。いい選択だ」


【爆風散華】のアシストは確かに強力だが、勢いのあまり吹き飛ばされている最中に敵からの攻撃を避けることはできない。せいぜいが魔法を撃って相殺するくらいだろう。 


 つまり、魔法が使えない俺は【爆風散華】の援護を受けられない。


 だから、シェルバの下へたどり着くまで多少の時間がかかる。


 奴はその時間を稼ぐために散らばせるようにして炎の魔法を放った。


「ふん、小賢しい。だが、少しは頭を使ったか」


 俺の進路を潰すよう一点ではなく、バラけさせて弾丸を撃ち込んだ。


【魔術葬送】を使えない以上、俺も避ける必要があるため、当然奴の元へたどり着くまでにロスが生まれる。


 俺が肉薄するよりも前にシェルバも受け身をとって、態勢を整え直していた。


「残念だったな! 魔法が使えないお前は自由が利かないうちにトドメを指さなければならなかった! そのもくろみも外れたわけだ」


「いいや。ここまで計算通りだ」


「なに……?」


「万全の状態を上から実力でねじ伏せる。こちらの方がわかりやすくていいだろう?」


「お前……ふざけるなぁ! 【火炎の爆弾フレイム・ボム】!」


 シェルバは指と指の間に生まれた八つの炎の爆弾を俺へと向けて投擲する。


「そのまま吹き飛んでしまえ!」


「お望み通りとはいかないな」


 俺は腰のポーチから鉄のコインの束を取り出すと、そのまま指で弾き飛ばした。

 直進するコインに当たり、爆発する炎の爆弾。


 爆発は起きるものの全て俺には届かない。


 俺たちの間に視界を遮る煙が立ちこめるが……今度はこちらの番だ。


「いっ!?」


「――そこか」


 余ったコインをばらまくようにして投げると、それが当たったシェルバの声で奴のいる方角がわかった。


 身を低くして近づけば、いらだちと煙に顔を歪めるシェルバがいた。


「畜生、どこにいる!? 出てこい!」


「後ろだよ」


「っ! フレイム・シュ――」


「この距離だと魔法はもう遅い」


「――ぅごぉっ!?」


 腹部へとめり込む拳と確かな手応え。


 振り抜いた拳はそのままシェルバを上空へと突き上げる。


 ドサリとそのまま落ちた音。


 近くまで寄れば白目を向いて、意識を失っていた。


「やはり拳が一番だな」


 拳を見ながら、そう呟く。


 筋肉にかけた努力と時間は裏切らないのだ。


「さて、あっちはどうなって……ハハッ。すぐ終わりそうだな、これは」


 マシロへ目をやると、戦況は一目瞭然だった。


「デュアル・マジックキャスターなんて狡いわよ!」


「そう言われても生まれつきだもん」


 地面に転がっている女子生徒の手と足は氷の鎖でつながれていた。


 きっと風属性魔法を警戒していたら氷属性魔法を使われてそのまま食らってしまったのだろう。


 わかっていても二種類の属性の魔法に適正な対応を取るのは難しい。


「はい。じゃあ、静かにしておいてね」


「むぐ!? うぅ! うぅぅ……!」


 マシロは相手の生徒が魔法を使えないように口にハンカチを詰めた。


 あの状態ではもう決着が付いていると行っても同然だろう。


 さて、レイナの方は……。


「くそぉ……! 【雷の剣舞サンダー・ロンド】!」


「【雷柱光来ライトニング・ピアーズ】」


 宙に舞った六つの電撃の剣がレイナを切り裂かんと降り注ぐが、それらを地面から天へと向かって伸びた雷の柱が防ぐ。


 純粋な魔法の威力が違うのだろう。同じ属性ということもあって、レイナの魔法は相手の魔法を吸収しているようにも思えた。


 さながら肉食獣がエサをむさぼるかのごとく。


「ごめんなさい。どうやらオウガ君たちも終わったみたいなので、私も終わりにしますね」


「そ、そんな……」


 まるで今まで子供の遊びに付き合っていたかのような物言いに、相手の表情はみるみる絶望に染まっていく。


「――【雷の鞭】」


 彼女の手に現れるバチバチと音をはじけさせる鞭。


 彼女は慣れたような手つきでヒュンヒュンと風を切らせ、バシンと地面を打ち鳴らす。


「大丈夫。当たってもちょっとしびれるだけですから」


「あっ……あぁっ……!」


「楽しみましょうねっ!」


「うあぁぁぁ~!?」


 微笑みながら鞭を振るう彼女の姿はまるで夜の女王様のようだった……とだけ言っておこう。

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