Stage2-22 オウガくんって……もしかしてエッチ?

「ごめんなさい!!」


 グルリと太陽が回って、翌日。昨晩も見た綺麗なマシロの土下座がレイナへとされた。


 朝食の量もいつもより少なかったから、かなり反省している様子。


「ふふっ、大丈夫ですよ、リーチェさん。別に三人来ないとダメ、なんてルールはないんですから」


「うぅ、レイナさん優しい~! ありがとうございます~!」


「よしよし」


 抱きつくマシロの頭をなでるレイナ。


 まるで赤ちゃんをあやす母だ。一部の母性は正反対だけど。


「……オウガ君? 何か失礼なことを考えませんでしたか?」


「……気のせいだろう」


 なんで女の子っておっぱいにはこんなに鋭いの? ちょっと怖くなってきた。


「マシロは昨晩は来なくて正解だったと思うぞ。変な輩に絡まれたからな」


「変な輩? ボクの時みたいな?」


「そうだな。そして、ボルボンドみたいな奴が今日の対戦相手だ」


「えーっ!? 大変だ!」


「大丈夫ですよ。今回はリーチェさんにオウガ君もいますから。何の心配もしていません」


「えへへ~、そうですか~」


 すっかりマシロはレイナにほだされていた。


 とはいえ、彼女が言ったことは事実。


「じゃあ、今から負ける可能性をゼロにするための作戦を練ろうか。アリス」


「は、こちらに用意しております」


 彼女が渡してくれた資料は昨年のシェルバたちの魔法構成や作戦の傾向が記されている。


 レイナとマシロにも渡し、一通り目を通し終えたところで口を開いた。


「改めて勝敗の条件をおさらいするぞ。チーム全員の気絶、もしくは降参。または審判員三名全員が試合続行は不可能と判断を下した場合、敗北となる。合っているな?」


 俺の問いかけに二人は頷く。


「よし。なら、本題にいこう。レイナ。この書類はお前の記憶と相違あるか?」


「いえ、書かれているとおり、彼らは雷属性魔法による先取速攻とシェルバ君の大火力の炎属性魔法の破壊力で押し切る攻撃型のチームです。メンバーも替わっていませんから同じだと思います」


 ミソソナ魔法学院のメンバーにマシロと同じ複数魔法適性保持者デュアル・マジックキャスターはいない。


 ならば、戦略も大きく変えることはできないはずだ。

「彼らはまず間違いなく【雷光サンダー】によって先手を奪ってくると思います」


【雷光】は速度に特化した雷属性魔法。


 まともに食らえば全身に電流が駆け巡り、麻痺して隙が生まれる。


 強者の【雷光】は人を失神させるくらい訳無いと聞く。


「序盤は雷属性魔法を主軸にした手数で攻め、対応に苦労しているとシェルバ君の威力の高い魔法でドン……! というのが彼らの必勝パターンですね」


「はいはい、質問。そもそもなんですけど、そんな魔法を使っても大丈夫なんですか?」


「安全装置があるので威力が抑制されるんです。なので、リーチェさんもどんどん魔法を使っていってくださいね」


「はい、任せてください!」


 魔法戦に限り、選手は魔法の威力を抑える魔導具の着用が義務づけられている。


 死者を出さないための措置で、実戦形式だがあくまで競技の範囲内というわけだ。


 そういう意味ではマシロは相手の魔法を臆さないだろう。


 彼女はアリバンとの戦いで多少の経験があるからな。


「それで昨年はどうして負けてしまったんだ? 手の内がわかっているなら対策ができそうなものだが」


 映像を見た限りでは他の二人が落とされて、その勢いのままズルズルと向こうのペースに持ち込まれてしまっていた。


 しかし、シェルバたちはずっと同じ戦法で勝ち上がっていた。レイナほどの人物が何も対策をしていなかったわけない。


 なぜなら彼女もミソソナ魔法学院のメンバーと、ひいては【雷撃】のフローネと同じ雷属性魔法の使い手だからだ。


「お恥ずかしながら……単純に速度で負けたんです。彼らの【雷光】は私の【雷光】よりも速い。かなりの鍛錬を積んだのでしょう」


「つまり、純粋に打ち負けたのか」


「そうなりますね」


 レイナが強く責任を感じていたのはここが原因か。


 自分が速度勝負に負けなかったらと、ずっと悔やんでいるのだ。 


「この一年。私も【雷光】の改良に取りかかりました。ですが、それは相手も同じ。正直、絶対勝てると言い切れないのが本音です」


 彼女を信じるならば「任せる」と言うのが正解なのだろう。


 だが、それはきれい事で上辺を取り繕った思考放棄。ギャンブルだ。


 もし、またレイナが打ち負けてしまったら彼女はさらに深い傷を負う。それも己の進退に関わってくるようなトラウマに。


 だったら、別の誰かが背負ってやればいい。


 ちょうど今回は俺という異常者イレギュラーがいる。


 ミソソナの奴らにとって最大の誤算は二つ。


 こっちには対魔法使いのプロフェッショナルのアリスがいること。


 そして、アリスに手ほどきを受けている俺がいることだ。


「なら、先手は敵に譲って、カウンターの作戦をとろう」


「……いいのですか?」


「ああ、俺なら間違いなく二人を無傷に導ける。……この大役を任せてくれないか?」


「ボクは賛成。オウガくんが言うなら失敗しないよ。だって」


「「俺の言葉に二言はない」」


「だもんね」


「フッ、よくわかっているじゃないか」


 ポンポンとマシロの頭をなでて、俺はレイナと目を合わせる。


「レイナ。お前の想いを俺にも背負わせてくれないか?」


「……わかりました。私もオウガ君を信じます」


「よし、そうと決まれば後はカウンター後の組み合わせだな」


「万が一、相手が違う戦法を取ってきた場合も考慮して、数パターン作っておこっか」


「まずオウガ君が失敗した場合は……考えなくていいですよね?」


「……レイナもよく俺をわかってきたじゃないか」


「はい。オウガ君には手取り足取りいろんな事を教え込まれてしまいましたから」


「……オウガくんってもしかして……エッチ?」


「レイナ、その言い方はやめろ。マシロも誤解だから落ち着け」


「……ボクは別にいいけど」


 ……えっ、いいの? ……っと、いけない、いけない。


 ここで食いついたら童貞丸出しじゃないか。


 頭を振って煩悩を追い出す。


「よし! 試合前までにしっかりと詰めるぞ!」


「お~!!」


「おーっ」






 ◇【悪役御曹司の勘違い聖者生活】2巻が10月に引き続き電撃文庫様より発売されることになりました~!!

 へりがる先生のイラスト……今回も凄いから楽しみにお待ちいただけると幸いです!

 Amazonさんなどで予約できるようになっているので、ぜひお願いします!


 次回、バトル回!!

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