Stage2-20 生徒会長さんのこと好きなの?


 ラムダーブ王国は周囲を海に囲まれ、緑も豊かな自然と調和した小さな国だ。


 観光名所として栄えており、時には他国の王族も喧噪から逃れたいときは遊びに来るほどリフレッシュするにはちょうど良い場所だ。


 ちなみに十数年前からラムダーブ島に学院魔術対抗戦の開催地が変更になったのはフローネの提言だとか。


 理由はラムダーブ王国なら学院魔術対抗戦専用の会場や施設が建設でき、より生徒たちの実力が発展できるから、とのこと。


 なんでも彼女はかつて魔族に襲われていたラムダーブ王国を救った張本人で、王族とは深いつながりがあるらしい。


「――らしいよ!」


 全部、観光ガイドを読んだマシロが教えてくれたことである。


 彼女は美味しいご飯のお店とお菓子を売っている店まで、全てチェック済だそうだ。


 なんとも抜かりない。よっぽど楽しみにしていたのだろう。


 そして、少ないお金でどれを買おうか悩んでいるマシロの姿を見ると、全部買ってあげてしまう俺もチョロい。


 今は見かけた店で、冷たい飲み物を飲んで一息ついているところだ。


「オウガくん、ごめんね。いっぱい買って貰っちゃって……」


 それはテーブルいっぱいに置かれたケーキについてか。それとも床に置いている大量の紙袋についてか。


 まぁ、どっちにしろマシロが喜んでくれるなら良い。


 彼女が金目当てに近づいたのではないとわかっているし、これくらいのお願いなら痛くもかゆくもなかった。せいぜい子供にお菓子をせがまれた父のような気分だ。


「気にしなくて良い。喜んで貰えた方が嬉しいからな。カレンも遠慮しなくていいんだぞ」


「うん。でも、私は大丈夫。あんまり甘い物食べ過ぎると……その、ね? 応援席は他の貴族も来るからドレスコーデだから」


 カレンの視線がお腹の方へと下がっていく。


 ……なるほど。言わんとすることはわかった。


 特にカレンは今まで男装をしていたから、あまり周囲の目が気にならなかったのだろう。


 しかし、ドレスコーデとなればある程度の露出は出てくる。


 彼女も思春期の女の子だ。俺は触れずに会話を進めることにした。


「そういえばカレンのドレスを見るのは久しぶりだな。すごく楽しみにしているぞ」


「う、うん! オウガも気に入ってくれると思う。すごく綺麗なのにしたから……」


「綺麗なのはカレンもだろ?」


「~~っ!」


 そう言うとカレンは髪に負けないくらい顔を真っ赤にして黙ってしまった。


「オウガくんって時たま王子様モードに入るよね~」


「思ったことを素直に口にしているだけなんだがな」


「じゃあ、今のボクはどう?」


「ケーキを頬張って、膨らませて小動物みたいで可愛い」


「えへへ~、ありがと。オウガくんもかっこいいよ」


「ほう? どんなところが?」


「んとねー……全部!」


 少し考えるそぶりをしてマシロはそう言った。


 そうか、全部か。ついに全てが魅力的な人間になってしまったというわけか。


「わ、私も! 優しくて、強くて、格好良くて……好き。ア、アリスさんもそう思いますよね!?」


「まさにリーチェ嬢とレベツェンカ様のおっしゃる通りかと。私にとってオウガ様は世界を照らす光でございます」


 ……そこまで褒められると、なんだかこちらもむずかゆいと言いますか……。


 装飾されていない本音に思わず照れくさくなって、躱す言葉が紡げなかった。


「…………」


「あっ、オウガくん照れてる~」


「本当だ。こんな表情するのは珍しい」


「写真に収めました」


 なんでだよ! 行動がはぇぇよ、アリス!


 アリスが撮った写真をマシロとカレンが見て、きゃっきゃっと楽しそうにはしゃいでいる。


 あの写真は二人の手元に行くんだろうな。


 恥ずかしいので辞めてほしいが……こういうのを受け入れるのも男の度量だろう。


 火照った心を落ち着かせるためにアイスティーで喉を潤す。


 最近はレイナの影響か、めっきり紅茶派になってしまった。


 味の違いもずいぶんとわかるようになったと思う。だからこそ、今もレイナの淹れてくれたものの方が美味しいなという感想しか出てこなかった。


 ラムダーブ産は独特な匂い・・・・・があって、きつい。


「……そういえば、オウガくんに一つ聞いてみたかったんだけど」


「ん? なんだ?」


「生徒会長さんのことが好きなの?」


 んぐふっ!? 


 あ、危なかった。アイスティーを口に含んでいたら吹き出すところだった。


 どうしてそういう結論になる。


 これまでの自分の行動を思い返す。別に変なことはしていないだろう。


 ただレイナと二人きりでお茶会をして、彼女がいるから生徒会に入り、彼女との時間を増やすために業務に励んで、毎日のように生徒会室まで昼食に誘いに行った。


 ただそれだけだというのに……。


 ………………。


 ……あれ? まるで気になった女の子にアピールする小学生男子みたいだぞ……?


 突然こちらを刺すような発言をしたマシロを見ると、目が笑っていない。


 マ、マシロさん? いつものプリティーなスマイルはどこに行っちゃったのかな?


 これは多いに誤解を与えているようだ。冷静に解かないと、好感度がまずいことになる。


「……逆に聞こう。どうしてそうなる?」


「だって、最近生徒会長さんに構いっぱなしだし……あのこと・・・・だって教えたでしょ?」


「それは彼女が信頼できる人物だと判断したからだ。それに少し……レイナの雰囲気は危うかった。放っておけば、このまま消えてしまうかのような……」


「あっ、それは私もわかる気がする」


 こちらの援護に回ってくれるカレン。後光が差して、神のように思える。


「私はみんなより前からあの人と接していたからわかるんだけど、オウガと絡むようになって生徒会長、ちょっとだけ雰囲気が柔らかくなっていたんだ。だけど、最近はまた昔みたいに戻っていて……」


 カレンは他者の評価を凄く気にしながら生きてきた。それこそ前世の俺と同じように。


 だからこそ、レイナの変化にも薄々感じるものがあったのだろう。


 俺の言葉を聞いて確信に至ったわけだ。


 レイナはいま狭間で揺れている。ミルフォンティ学院長からの退職と奴に根深く植え付けられてしまった使命との間をユラユラと。


「……それがオウガくんにとって心配だったってこと?」


「そうなる。マシロの予想は外れだよ」


「ということは、いつものオウガくんか。アハハッ、心配して損しちゃった。ごめんね、変なこと聞いちゃって」


 マシロの瞳に光彩が帰ってくる。


 よ、よかった……! おかえり、ハイライト! 二度と家出するんじゃねぇぞ!


「誤解が解けて何よりだ。さぁ、そろそろ店を出よう。俺たちも戻る時間だ」


「「はーい」」


 二人も納得したのか良い返事を返してくれる。


 よかった……。


「……カレンさん。これ凄くまずくないですか?」


「……私はもう婚約者になった時から覚悟してるよ」


「それは……確かに。オウガくんですもんねー」


「そうそう。オウガだから」


「「ねー」」


「……あの二人が何を話しているのか教えてくれ、アリス」


「……申し訳ございません。決してオウガ様にとって悪い話ではございませんので」


 えー。アリスはたまに女性陣営の味方になるよなー。


 会計時、金額よりも後ろでこそこそと二人が内緒話している方が気になって仕方が無かった。

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