Stage2-19 ラムダーブ王国
雲一つ無い青空。日差しがサンサンと降り注ぐ快晴の下、俺たちは
魔石の魔力を動力とし、風属性魔法を発動させることで移動するこの船は俺たちをとある目的地へ運んでいる最中だ。
すでに乗船してから二日が経っており、今は三日目の朝。予定ではそろそろ着くことになっている。
「わぁ~、すごい綺麗な海だね、オウガくん!」
「マシロはずっと元気だな」
「だって、こんなの初めてだもん! 代表に選ばれてよかった~!」
そう、この船は学院魔術対抗戦が行われる島・ラムダーブ島へ向かっている。
乗船しているのは選ばれた代表生徒とその従者、引率の教師だけの貸し切り状態。大きさや設備からしてずいぶんと豪勢な旅だ。
「レベツェンカさんは凄くさみしがっていましたね。生徒会で一人だけ別ルートですから」
「先にあっちに着く予定で出ているらしいから、港ですぐ合流できるだろう。その後はみんなで観光でも楽しもうか」
学院魔術対抗戦は各学院がそれぞれの地方から集まるため、意外とスケジュールが厳しい。
自由に行動できるのは到着初日だけで、その後は必ず試合の予定が入っている。
その初日でさえ抽選会があり、夜までには抽選会場に行かねばならない。
途中で敗退した場合は暇ができるが、優勝を目指している俺たちはそうはいかない。
「賛成! みんなで美味しいご飯食べに行こうよ!」
「リーチェさん、ごめんなさい。私は辞退させてほしくて……」
「えっ!? 何か生徒会の用事でもありましたっけ!?」
「ふふっ、違いますよ。実はラムダーブ王国は私の故郷なんです。なので、家族に挨拶に行きたくて」
「そうだったのか。知らなかった」
レイナの存在が急に知られるようになったのは、フローネが弟子を取ったと各方面に紹介したからだ。
突如現れた弟子の出自ならもっと話題になっていてもおかしくないはずだが……自分でも初耳であることに驚いている。
ラムダーブ王国はラムダーブ島を領地とした島国。
学院魔術対抗戦の開催地となってから、観光名所として栄えている独立国家だったか。
「あまり言っていませんからね。本当は私も案内してあげたかったのですが……」
「全然気にしないでください! そっちの方が大切ですから! だって、会うのも久しぶりでしょうし……」
「ありがとうございます。夜には戻りますから、またそのときにでもお茶しましょう?」
「ほほう。それならラムダーブ特産の茶葉を用意しておこうか」
「はい。私の紅茶で喜んでもらえるなら」
「じゃあ、お菓子もいっぱい用意しなくちゃ!」
「マシロはそっちの方が楽しみなんじゃないか?」
「ち、違うもん! ちゃんと生徒会長さんの紅茶も好きだもん!」
「あっはっは、悪い悪い。お詫びに俺がいっぱい買ってやる」
「やったぁ! オウガくん大好き~!」
「あらあら。オウガ君は愛されていますね」
そんな風に談笑しながら、俺たちはのんびりと船が到着するのを待つのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「着いた~!! ラムダーブ王国~!!」
島国だけあって港での交流は盛んで、あちこちに船が止まっては出てを繰り返している。
きっとあの中には他の学院の生徒たちが乗っている船もあるのだろう。
「オウガ!」
声がする方へ向けば、麦わら帽子を被ったカレンの姿があった。
フリルのついた可愛い白のワンピースに身を包んだ彼女は手を振って、こちらに駆け寄ってくる。
「よかった! 無事に着いたんだね」
そのまま腕に抱きついて、豊満な胸を押しつけてくれる。
腕でパイスラする光景……フッ、最高の婚約者過ぎるぜ、カレン。
「むぅ……」
あっ、マシロの頬がちょっと膨れ上がった。
でも、船旅中に独占していた負い目もあるのか、マシロは何も言ってこなかった。
あの殺伐とした空気が生まれなくて一安心である。
「ああ。カレンも無事で何より。俺たちよりも早く着いたんだな」
「レベツェンカ家が所有している船で来たからね。ほら、アレだよ」
そう言って彼女が指さした停泊所には俺たちが乗ってきたのと遜色ない大きさの船があった。
ハハッ、さすがは軍部の娘。持っている船も豪快だな。
「リーチェさんも、生徒会長も長旅お疲れ様でした」
「ありがとうございます! 初めての旅だったので、凄く楽しかったです!」
「レベツェンカさんも応援に来てくださってありがとうございます」
「いえ、婚約者の応援に来るのは当然ですから」
そう言うと、カレンとの密着度がさらに増す。
「あ~! カレンさん!」
今度は我慢できなかったのか、反対側にマシロも組み付いた。
人生において、こんな高レベルのおっぱいサンドイッチに何度立ち会えるだろうか。
前世で徳を積んだ結果、今があると思うと前の人生も無駄ではなかったのかなと救われる。
それはそれとして今世はやりたい放題するけどな!
「両手に花ですね、オウガ君」
「ああ、周囲の嫉妬が気持ちいいよ。どうだ、レイナ。正面なら空いているが」
「魅力的な提案ですが、遠慮しますね。お二人に怒られてしまいそうですから」
断られはしたが気持ち悪がられてはいない。
感触的には全然ありだろう。少しは進歩しただろうか。
「オウガくん~?」
「目の前で堂々と浮気か、オウガ……?」
「違う。場を盛り上げようとしただけだよ」
彼女たちの追求から逃れようとしていると、ナイスなタイミングで背後から凜とした声が俺の名を呼ぶ。
「オウガ様。担当教師が宿泊施設に移動するので着いてくるようにと号令をかけていました」
「そうか、アリス。ありがとう」
「いえ。それではお荷物、お運びいたします」
そう言ってアリスは俺の着替えが入ったバッグを持ち上げる。
……結構、重いと思うんだけど相変わらずあの細腕のどこにそんな力があるんだろうか。
「じゃあ、置いて行かれる前に移動しようか」
「ボク、高級宿も初めてなんだ~! ベッド……きっとふかふかなんだろうな~」
「去年も私は使いましたけど、すごく寝心地が良かったですよ」
「本当ですか! うわ~、ワクワクしてきた! 早く行こ!」
あふれる楽しみが抑えきれなくなったマシロはピョンピョンと跳ねながら、先を促す。
「ハハッ、そんなに慌ててもベッドは逃げないぞ」
俺たちも元気の有り余っている彼女の後に続いて、宿泊施設へと足を進める。
観光までしたら、マシロは夜になったらすぐにでも寝てそうだな。
はしゃぐ彼女の姿に、そんな予感がした。
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