Stage2-18 隠し事

※7/6にも更新しているので、未読の方はそちらから!中途半端な時間に更新してしまったので読み逃している方もいるかと思い、前書きです※





「ヴェ、ヴェレット様が対抗戦の代表に!? 流石ですわ~! みなさん! 急いでラムダーブ島行きのフェリーを手配しますわよ! ヴェレット様のご活躍、見逃すわけにはいきませんわ~!!」



 それから予定通りに学院魔術対抗戦の代表チームが発表された。


 何かしらの嫌がらせを受けるくらいは想定していたが、驚くほど平穏な時間が流れていく。


 他の生徒たちも対抗戦に向けて練習を積むため、俺たちに構っている暇なんてないのかもしれない。


 代表に選ばれたため特例で生徒会メンバー+アリスで実技棟を使っているが、連日満室で各々調整を進めているようだった。




「あの、オウガ君?」


「ん? なんだ?」


「別に業務は手伝っていただかなくてもいいんですよ? 無理を言ってのお願いでしたし」


「なんだ、そんなことか。気にしなくて良い。手持ち無沙汰だったところだ。こういう業務に励むのもいいだろう」


「しかし……」


「それに早く終わらせれば、その分レイナとの時間が楽しめるだろう?」


「……わかりました。では、お願いしますね」






「昼食の時間だぞ、レイナ!」


「オウガ君、ドアは静かに開けてくださいね。どうされましたか?」


「仕事の手を止めろ。今は昼休み。文字通り、休む時間だ」


「ああ、大丈夫ですよ。私は食事を抜いても平気な体なので、みなさんで食べてください」


「断る。レイナの分も作ってきたからな。外に行くぞ。ずっとこもりっぱなしは体にも良くない」


「あっ、ちょっと、オウガ君!?」


「ちょうど売り出す新メニューを考えたんだ。一緒に味わって貰うぞ! はっはっは!」






「レイナ! 放課後だ! 学院魔術対抗戦に向けてチームワークを磨くぞ!」


「……私もそろそろ理解してきました。行かないと、また連行されるんですよね」


「クックック、よくわかってきたじゃないか。そのために業務も手伝っているからな」


「おかげさまで今日の書類仕事も終わってしまいましたからね」


 レイナは処理済と書かれたケースに入った書類の山をちらと見て、クスリと微笑む。


 生徒会入りして一週間。俺はレイナから仕事をかっさらい、マシロやカレンと協力して業務に励んだ。


 その結果、こうして作業時間は大幅に短縮に成功して対抗戦に向けて練習する時間を捻出できている。


 というか、あのクソ学院長ババァ。なにが二年生が引き継いでいる、だ。


 ……その女、籍だけ残しているだけで、まともに活動しているのはレイナとカレンしかいなかったじゃないか。

 そのカレンもついこないだまで王太子との一件でバタバタしていて、実質レイナのワンマン。よく彼女が潰れなかったものだと感心するばかり。


 だんだん過去の自分と境遇を重ねてかわいそうになってきた。


 こう……俺が保護してやらねばという親心のようなものが湧いてきている。


「おかげさまでオウガ君が入ってきてから生徒会はきちんと回ってきています。リーチェさんも地頭がいいからすぐ業務を覚えてくれますからね」


「当たり前だ。俺がそばに置く人間だぞ。優秀に決まっている」


「フフッ、そうでしたね。……これなら私がいなくなっても問題はなさそうで安心しました」


 ……それはどういう意味だ? 


 彼女は小声で呟いたつもりかもしれないが、二人きりの静かな空間で俺が聞き落とすわけもなく。


「今日も実技棟ですよね? みなさんも待たせているみたいですし、行きましょうか」


 しかし、真意を尋ねる前にレイナは俺の隣を通り過ぎていってしまう。


 なぜだろう。その後ろ姿があまりに儚く、本当に消え去ってしまいそうに思えて気がつけば俺は彼女の手を掴んでしまっていた。


「……オウガ君?」


 彼女に名前を呼ばれて、ハッとする。


 しまった……! かつて職場を去っていった同僚たちの背中にあまりに似ていたものだから無意識に手を……!


 何か言い訳を……良い言い訳は……グルグルと天才的頭脳を巡らす中で、先ほどのレイナの発言の真意に気づいてしまった。


 そうか……そういうことだったのか! だったら、いまの状況にも上手く当てはめて手を握ってしまった理由が作れるぞ!


「お前はどこにも行かせない。必ず(生徒会長として)ここに戻ってきてもらう」


 彼女は学院魔術対抗戦に負けてしまった場合、責任をとって学院を辞めるつもりなんだ。


 二年連続で優勝を逃してしまったとなれば流石の彼女もいまの席に座り続ける訳にはいかない。もちろん他の生徒は責任は俺とマシロにあるとして、彼女を責めたりはしないだろう。


 だけど、昨年同じ状況に陥って先輩たちを退学させてしまったレイナはとても悔やんでいた。


 それらのパーツを組み合わせれば、レイナは俺たちをかばうつもりだという結論に至るのは容易だった。


 そんなのは困る。俺はレイナがいるから生徒会に入ったのであって、彼女のいない生徒会なんて地獄だ。フローネは嬉々として後釜に俺を据えるに違いない。


 レイナの性格を考えれば退学後に俺がヴェレット家で雇用する話をしても、辞退するに決まっている。


 そうなってしまっては全ての計画が破綻してしまう。せっかくの学院生活が労働地獄になってしまうなんて未来は全力を出してでも阻止しなければ……!


「そのために俺は全力を尽くそう。どんな手を使ってでも無事にこのメンバーで生徒会として集まる。俺たちの前に立ちはだかる困難も打ち払ってみせる」


 対して、レイナの言葉はない。俺も止めることなく、言葉を続ける。


 ここだ。ここしかない。俺の覚悟を彼女に知ってもらうには。


 一歩踏み込んだ、彼女の環境の核心に触れる部分に。


「それは学院長であるフローネ・ミルフォンティが相手だとしても、だ」


「…………」


 ……初めてだな、そんな表情を見るのは。


 彼女は上手く取り繕っているつもりだろう。


 だけど、俺にはわかるんだよ。


 一瞬、揺れた瞳。目は口ほどにものを言う。


 見て取れたのは諦めと苦しさとわずかな希望。彼女もまた期待しているのだ。


 あのブラック企業の親玉であるフローネから解放してくれることを。


「だから、さっきみたいなことは二度と言うな。約束してくれ」


「……ふふっ、変なオウガ君。大丈夫ですよ、私はちゃんといますから。さぁ、行きましょう」


 掴んでいた手を引き、レイナは再び歩き始める。


 ダメだ。これじゃあ彼女の本心を聞き出せず、釈然としないまま今日という一日を消費してしまう。


 ……間違いなく俺の積み重ねは彼女に響いている。それが先ほど垣間見えた瞳に宿った希望だろう。


 あと少し、少しだけ足りないのだ。彼女の心に、俺の本気が届くまで。


 ならば、そのわずかな溝を埋めるために俺も切り札を切ろう。できるならばしたくなかったが……これがレイナに知ってもらう最高の手段だと判断した。


「……レイナ。今日は面白いものを見せてやろう」


「面白いもの……ですか?」


「ああ、レイナは俺の特別だから。隠し事は辞めにした」


「…………」


 腹をくくろう。虎穴に入らずんば虎児を得ず。


 こちらがさらけ出していないのに相手が心を開いてくれるわけがないんだ。


 リスクは孕むが、それでも俺はレイナが欲しい。


「楽しみにしておいてくれ」



 



 ――そして、学院魔術対抗戦が開かれる日はやってきた。






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