Stage1-29 祝・婚約……
オイ、オイ、オイ……!
どうなっているんだ……なんで意識を失っている……?
俺はまだ作戦の一割も実行できていないんだぞ!?
バキバキに心を折る前に倒れたら計画が進まないじゃないか!
「ふざけるな! 俺の気持ちはこれくらいじゃおさまらないぞ!」
襟をつかんで揺さぶるも首と下のアレがフラフラと揺れるのみ。
意識が復活するわけもなく、ガクリとノビている。
「くそっ! こうなったら股間蹴って無理やり目を覚まさせてやる!」
「ストップ! 勝敗は決しています! 下がって!」
「なっ!? おい、放せ!」
腕を振り上げたところを数人がかりで羽交い絞めにされ、アルニアから引き離される。
救護係の生徒が担架に奴を乗せて、医務室へ運ぶ準備を始めていた。
「うぉぉぉ……! カレンは……カレンとの婚約は……!」
「えっ!? ひ、引きずられてる……!?」
「こんなにもレベツェンカさんを想って……」
「怒りの馬鹿力か……! おい! 何人かこっちに回れ!」
「アルニアァァァァァ……!」
俺を制止する生徒を引きずりながら無理やりにでも足を進めるが、如何せん追いつけない。
気絶したアルニアを乗せた担架はどんどんと小さくなっていき、ついに会場の外へと消えた。
「くそっ! くそぉぉぉっ!」
その場に崩れ落ちた俺は悔しさを乗せた拳で大地を殴りつける。
あんな一撃じゃアルニアはマグレとかぬかすに決まってる……!
当たり所が悪かったとか言って、いけしゃあしゃあとこれまでと変わらない態度を貫くだろう。
そうなってはカレンは間違いなくアルニアを選ばない。
決闘前の彼女の熱い決意も俺が奴を改心させると思ったからこそ。
それなのに……それなのにこれじゃあ……。
「……そんな落ち込むなって。お前はよくやったよ」
「あんたのこと、俺たち勘違いしてたよ」
「噂はやっぱり本当だったんだな。後は俺たちに任せな」
肩をポンと叩いて、なぜかアナウンス席に寄って何かを話し始める生徒たち。
さっきまで俺の邪魔をした奴らは今度はどんなことを企んでいるのか。
「今はそっとしてやってくれ」
『し、しかしですね。勝利者インタビューを……』
なに!? 勝利者インタビュー!?
そんなのに時間を取られたら修正が効かなくなる。
本格的に詰みになる前にカレンに事情を説明しないといけない。
俺が説得すれば婚約破棄だけはまだ待ってくれるかもしれない。
もちろん責任を持ってアルニアは俺が改心させる。
そのためにも今はカレンと落ち着いて話す時間が欲しかった。
また囲まれる前にこの場をお暇させてもらおう。
「俺はカレンのもとに行かせてもらう! あいつと大切な話があるんだ!」
インタビューを放棄する理由を叫んで、俺はアリーナを後にする。
耳をつんざくほどの叫び声が聞こえてくるが、おそらくブーイングの嵐だろう。
そんなのは無視だ、無視。
「カレン! どこにいるんだ!?」
「あっ、オウガくん! こっちこっち!」
「オウガ様、お待ちしておりました。レベツェンカ嬢ならは学院長室へと移動しています」
「そうか! ありがとう!」
姿が見当たらない彼女をがむしゃらに探していると、観客席から降りてきた二人がカレンの居場所を教えてくれる。
礼を告げて、俺はすぐさま学院長室へと駆けだす。
学院長は『決闘後の後処理』。おそらくだがカレンの父親の説得について協力しているはず。
もしかすると、俺のいないところですでに話が進んでいるかもしれないのだ。
そんなの聞いていなかった。
彼女の性格からして俺のそばから離れず、現場で応援してくれていると踏んでいたのに……。
「ハァ……! ハァ……!」
階段を駆け上って、学院長室の前にまでたどり着いた。
大きく肩で息をしていたが呼吸を整えることもせずに、突入しようと一歩踏み出したところでドアが先に開く。
「あっ、オウガ!」
満面の笑顔を咲かせたカレンは俺の顔を見るなり飛びついてくる。
倒れないように思わず支える形になると、舌打ちが飛んできた。
もちろんカレンのものではない。
音の発生源をたどれば、そこには青筋を浮かばせたカレンのクソ親父が立っていた。
そんなクソ親父を退かすように部屋から出てきたのはミルフォンティの師弟コンビ。
「あらあら、熱いわねぇ。やっぱり私の思った通りお似合いの二人だわ。ねぇ、レイナ?」
「はい、先生のおっしゃる通りかと」
ニコニコと人の好さげな笑みの学院長と相変わらず切って貼った表情のレイナ。
何とも凸凹な二人だが、今はそれどころではない。
「学院長? 話の流れがわからないんですが……」
「フフフッ。あなたの希望が叶ったのよ」
「俺の希望が?」
ということはカレンはアルニアとやり直す決意を――
「――あなたとレベツェンカさんの正式な婚約が認められたわ」
「やったぁ! ……え?」
あれ? 聞こえたのが俺の思っていた文言と違うんだが……いやいや、聞きまちがいか。
だって、あのクソ親父が魔法適性ゼロの俺との婚約を認めるわけが……。
「はい、これが書類ね。きちんと両家代表のサインもあるから」
「ちょっと貸してくれ!!」
慌てて奪い取ると、そこには俺とカレンの婚約についていくつかの契約事項が記されており、一番下にはカレンのクソ親父と我が父上の名前があった。
それぞれの家紋の印も押されてある。
驚くべきはそれだけじゃない。
証人としてなぜかアルニアの父親――つまり国王の署名と印璽も添えられていたのだ。
「……え、あっ……へ?」
つ、つまり、俺とカレンの婚約は国王公認で……。
……え? こんなの絶対に破れないじゃん。
それにこれからは国王も認める公爵家同士の婚約者としての振る舞いも求められる。
なんで国王もあっさりと息子の婚約破棄を認めているんだ?
わからん……なにがどうなっているのか、さっぱりわからん……。
理解が追い付かなくて呆然と立ち尽くす俺をよそに、カレンはぎゅっと腰に回す力を強める。
シルエットからは想像できないむにゅりとした柔らかさを胸に感じて、思わず彼女に視線がいってしまう。
「えっと……こんな私だけど……これから変わっていくから。いいお嫁さんになれるように頑張るから……よろしくね、オウガ」
再会してから。いや、彼女と出会ってからいちばん可愛いと思える彼女の微笑みを見た俺は。
「……ぁぁぁぁぁぁああ」
自由気ままなハーレム生活が遠のいたストレスに、その場で倒れるのであった。
◇次回で裏で学院長、国王がどういう考えで動いていたのか説明して第一章は終わりになると思います。
第一章は複数のヒロインをピックアップしましたが、第二章は一人のニューヒロインに視点を当てていくつもりです。カレンが実は巨乳なのかどうかはまだわからないぞ(棒)◇
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