Stage1-27 決まり切った未来
いつものように寝て、いつものように起きれば、その時はやってくる。
緊張など生まれもしない。
結果の見えている勝負など、ただの行事でしかないからだ。
通された控室には俺とカレンの二人のみ。
生徒会長と学院長も先ほど顔を出したが「決闘の後処理は私に任せなさい」と言って、すぐに立ち去っていった。
激励に来てくれたアリスとマシロも客席へと移動している。
その後、おずおずとした様子でカレンがやってきたわけだが……。
「オウガ、調子はどうだい? 昨日はよく眠れた?」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
「ハハハ……」
乾いた笑いを浮かべるカレン。
「クマが出来ていたら、綺麗な顔が台無しだろ」
「きっ、きき……! ごほんっ。そ、そうだね。あとで化粧し直しておく」
……いや、それも無理ないか。
今日で自分の未来が決定すると考えれば寝付けないのも仕方ない。
ましてや未来を預けている男は魔法適性0。
ぐっすり眠れる奴は肝が据わりすぎている。
「心配するな。俺が負けた姿を見たことあったか?」
「……ううん、ないよ。昔からオウガがいじめっ子も全員追っ払ってくれたの覚えている」
「だろう? そうだ。賭けが行われているみたいだし、やってきたらどうだ? 俺に賭ければ儲けられるぞ?」
「あはは、そうしようかな。ちょっとでも取り返したいしね」
そう言って肩をすくめるカレン。
言葉を交わして、少しは緊張がほぐれたみたいだ。
カレンには決闘の後、
その時に目にクマがあっては奴もときめかないだろう。
ムカつく男だが、計画を成功させるために俺も努力は惜しまない。
こんな軌道修正くらいお手の物さ。
「……ねぇ、オウガ」
ギュッと手を握られる。
背中に顔を当てているせいで表情はうかがえないが、手に込められている力は強かった。
「……オウガはいつからこうしようと思っていたの?」
王太子改心計画のことか?
事の始まりはどこかと言われたら迷うが……。
「カレンと再会した時からかな」
「そんな時からなんだ……私と同じで嬉しい」
やはりカレンも俺を当て馬にしてアルニアの改心を狙っていたのか。
でないと、俺に接触する意味なんてないもんな。
想像していた形とは違うだろうが、描いた結果を得られそうで喜んでいるのだろう。
「……昨日はすごく悩んだ。悩んで……私は選んだよ。全てをなげうってでもやるべきことをやろうと」
「そんなに覚悟を決めなくてもいいとは思うが……」
決闘の勝者としての権利を使えばアルニアに言うことを聞かせられるわけだし……。
「ううん。オウガに任せっぱなしはダメだから。一緒に歩まないと。学院長にも相談したの。喜んで力になってくれるって」
後進育成に力を入れている人だからな。
発言力もバカにできないし、カレンにとって心強い味方になるだろう。
「私も(オウガと一緒になれるように)頑張る。どれだけ辛いいばらの道になろうとも……もう逃げないって決めたから」
とりあえず。カレンもやる気満々みたいで安心した。
よかったな、アルニア。
負けた後もいろいろとサポートしてくれそうだぞ。
これで改心ルートも安泰。
後は俺が勝って、ハッピーエンドだ。
「いってらっしゃい」
「ああ、行ってきます」
コツンと拳をぶつけて、互いの良き未来を祈る。
『それでは両者にご入場いただきましょう!! まずは魔法適性無しの身ながら、入学を果たした異端児! オウガ・ヴェレット!!』
まるで俺がコネで入ったみたいな言い様じゃないか。
だが、今はそれでも許そう。
すぐに認識を改めることになるだろうしな。
そして、アナウンスに呼び出された俺は日の光が差す戦場へと赴くのであった。
「……さて。オウガとの婚約を認めさせるためにも父様を説得しに学院長室に行かないと」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
熱狂に包まれた
本来ならば、こんなにも観客が集まることもないが今回は対戦カードが注目を浴びている人物同士。
魔法学院に入るだけの素質を持ち、将来の王位継承が約束されているアルニア王太子。
ヴェレット家の生まれながら『正義』を体現するかの如く活動の噂が飛び交っているオウガ様。
儲け時と考えたのか、生徒間で大々的に賭けも行われていた。
貴族令息、令嬢がほとんどを占めるリッシュバーグ魔法学院だからこそだろう。
教師が止めないのを見ると恒例行事なのだろう。
「見て見て、アリスさん! ボク、オウガくんに持ち金を全部賭けてきた!」
リーチェ嬢が持つ札には平民にとって少なくない金額が記されていた。
言葉通り、生活費まで賭けたみたいだ。傍から見ればギャンブラーに映るかもしれない。
だが、オウガ様とかかわりを持っていれば当然の行動。
私はそういう行為は好かないので手を出さないが、彼女にとっては大金を得る少ない機会。
わざわざ注意をして浮かれ気分に水を差すこともないだろう。
「よかったですね、リーチェ嬢」
「はい! 当たったお金でオウガくんと出かけるための服とか買うつもりなんです。ボク、あまりいい服を持っていないから……」
オウガ様に一言お願いすれば買ってもらえそうなものだが、決して頼らずに自分の力でどうにかしようとする。
このような健気さをオウガ様は気に入っておられるのだろう。
オウガ様は彼女を身内にできてよかった。王太子の取り巻きと比べれば質は雲泥の差だ。
「では、今度オウガ様を誘って街へ買いに行きましょう。せっかくの王都です。いい品ぞろえをしている店もたくさんありますから」
「ですね! オウガくんの好みを聞き出してみせます!」
「ふふっ。いずれ私もマシロ様とお呼びする日が来るかもしれませんね」
「も、もう! アリスさん! からかわないでください!」
プンプンと怒るリーチェ嬢を微笑ましく思っていると、観客の熱気が一気に上がった。
オウガ様と王太子が入場してきたみたいだ。
王太子は態度からして随分と余裕があるらしい。
人を見る才がないのは明らかですね。やはりあの国王の血筋ということでしょう。
腐った者から生まれるのは腐った者だけ、か。
「これほど勝負の結果が分かり切っている賭けもありませんね」
見るまでもなく、オウガ様が勝利するでしょう。
あまりのあっけなさに会場も冷え込むかもしれませんね。
「オウガくんが勝つのは当然としてアリスさんはどんな勝負になると思っているんですか?」
椅子に腰かけている私と違って、身を乗り出すように見つめているリーチェ嬢。
どんな魔法の駆け引きが行われるのかワクワクしているのかもしれないが、残念ながら想像している高度な戦いは演じられないだろう。
「……昨日、私が想定よりも王太子が弱すぎる事実を告げる前に察していられました」
まさかオウガ様ほどの実力者が相手の力を見誤っているはずがない。
「リーチェ嬢は私がオウガ様にどのような指導をさせていただいているか知っていますよね?」
「えっと……魔法を使わずに魔法使いを倒すための……」
「そうです。それを考慮したうえでオウガ様は全力を出されるとおっしゃられた」
実際には叩き潰すでしたが、意味は変わらないだろう。
ここで実力を見せつければ、変に突っかかってくる輩も消える。
「それはつまり……」
「ええ。【
◇次回、王太子死す!決闘スタンバイ!!◇
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