Stage1-26 決闘前日
『アルニア王太子VSオウガ・ヴェレットの決闘成立!!』
『カレン・レベツェンカをめぐった愛を賭けた戦いか!?』
「ふむ……」
学院内で配られている号外の見出しは随分と面白おかしく書かれていた。
実際は俺も軟派王太子もカレンに恋慕の愛情は持ち合わせていないのに。
ちゃんとこの間も『カレンのためじゃなく、俺のため』と念を押した。大切なことだから二回も言った。
これであいつも変な勘違いはしないだろう。
「しかし、ここまで嘘で固めてあると笑いも出ないな」
記事には王太子の意気込みも記載されており、『全身全霊を持って臨む。彼女の心は誰にも譲らない』とコメントしていた。
ギャグか? どんな面して、この発言をしたのか問いただしたいものだ。
流石の俺でも不愉快になる。
すでに学院中では王太子応援のムードが出来上がりつつあった。
まぁ、当然だな。俺はインタビューも断ったし、もとより風評も悪い。
とはいえ、ここまで想定通りだ。
俺の望んだステージが出来つつある。俺が悪役として仕立て上げられればそうあるほど王太子を負かした際に与えるダメージは強くなるだろう。
つまり、カレンが奴につけこめる隙が大きくなる。
「オウガくんが新聞部を相手にしないからボクのところにまでインタビュー来ちゃったよ。お祭りかってくらい盛り上がってるよね」
「新入生による初めての決闘。それも公爵家と王家のご子息同士ですから当然の流れかと」
「ふん、好きに騒がせておけばいい。俺は俺の王道を往く」
「はい。それでよろしいかと」
「うんうん。レベツェンカさんもすっごく可哀想だし――わぷっ」
人の気配を察知して、マシロの口を抱き寄せる形でふさぐ。
いくら身分が関係ないとはいえ、
さらにマシロのおっぱいも同時に堪能できるという素晴らしい機転だ。
「よぉ。何か用か?」
「ずいぶんと好き勝手してくれるじゃないか、落ちこぼれの悪役気取りくん?」
愛想のいい他所向けの笑顔ではなく、口を三日月にゆがめたあくどい笑みで声をかけてきたアルニア王太子。
女子相手に向ける表情が作り物で、こちらが本性なのだろう。
生徒会長に聞いた
「いいのか、本性出してて」
「ここは滅多に人が来ないのはお前も先の事件で知ってるだろ?」
「まぁな。旧校舎に用がある生徒はそういない」
だから、ここに誘導したのだ。
ここ数日、露骨に俺との接触を図っていたのは気づいていた。
奴の息のかかった連中がうろちょろしていたからな。
今だって一人で来た風を装って、周囲には人の気配がある。
しかし、隠し方がへたくそだな。アリスでももっと深く鎮められるぞ。
「……で? わざわざ王子様が何の用だ? 決闘日はまだだぞ」
「簡単な話だ。優しい俺が慈悲をかけに来てやったのさ」
アルニアはヘラヘラとした様子で俺の方をポンと叩く。
「決闘を降参しろ。もう十分格好つけただろ。正義のヒーローごっこもここまでだ」
「断る」
予想通りの提案だったので即答して、手を払いのける。
居場所を失った手を呆然と眺めた後、アルニアはギリっと歯を食いしばった。
「てめぇじゃ役者にもなれないって言ってんだよ。わかったら手を引け」
「そっくりそのまま返してやる。相手は明日してやる。今日は帰れ」
「世間体を気にするもクソもないだろ? また引きこもっていればいいんだよ」
聞く耳もたず、か。いや、本当に早く帰ってほしいんだけど……。
というかこいつ、本当に性格変わってくれるのか心配になってきた。
いや、ショック療法だ。
自分の未熟さを知れば、もう一度立ち直れるはず。仮にも王族の血が入っているんだ。
それくらいの気概は備わっているに違いない。そう思い込まないと俺がやっていけない。
……となれば、俺がするべきは一つ。
「……なんだ、お前。もしかして俺が怖いのか?」
煽って、絶対に全力でぶつかってくるように仕向けることだ。
これで完膚なきまでに叩き潰せば言い訳も効かないからな。
みんなのために事前に逃げ道を潰しておく。
「あーあー。せっかく人が優しさ見せてやってんのにさ……もう決めた。てめぇ、殺す」
「ふん。事故にでも見せかけるか?」
「どうだろうな。でも、お前みたいな魔法も使えない奴、死んでも誰も悲しまねぇだろ。家族も逆に喜ぶんじゃねぇの?」
グッと威圧感が増した。……背後からの。
落ち着け、アリス、マシロ……!
イラついてるアルニアより何倍も怒気が膨れ上がってるから!
こいつとの会話よりお前らがいつ暴走するかしないか、そっちの方が気がかりなんだって!
アルニアも俺の気遣いを分かれよ……!
「あれから遊びもできなくてストレスが溜まって仕方ねぇんだよ。せいぜいストレス解消くらいには付き合ってくれよ」
「残念な相談だ。あいにく俺はサンドバックになってやるつもりはない。わかったら帰れ」
「じゃあ、従者たちにもご主人様の責任を一緒にとってもらわないとなぁ?」
伸ばそうとした腕を掴んで、握りしめる。
馬鹿やろう! 死にてぇのか!?
「へぇぇぇ……。そんなに必死になって。よっぽど後ろの二人が大切みたいだな……ますます楽しみになってきたぜ」
そら必死だよ! ここを血で真っ赤に染めたくないしな!
これ以上二人の神経を逆なでしたら、ここに死体が一つ出来上がってしまうと直感したから。
流石に王太子殺害は不味い。俺の楽しい異世界生活が一気に逃亡サバイバルに変わっちゃう。
「……一つだけ言っておく。お前の汚い手で大切な
「オウガくんっ……」
「……より一層の忠誠をあなたに、オウガ様……」
「ふん、ずいぶんと互いに入れ込んでるみたいじゃないか。まぁいい。決闘が終われば、全部が俺のものだ」
「「…………」」
アルニアは上から下まで舐めつくす下卑た眼を二人に向ける。
……おい、アルニア。俺だってイラついてんだぜ?
俺のモノにこうも不躾な態度をぶつけられていい気分なわけがない。
「……それがお前の要求か?」
間に身を割って入らせてから奴の腕を解放する。
「ああ。悪役から婚約者を守り、いたいけな平民を救済する。完璧なシナリオだろ?」
「そうか? お前の負けが確定してる時点で崩壊してるだろ」
「……こいつ。口だけは一丁前に成長して――」
「――ここで言い合っていても仕方ないだろ。結果は全て明日に決まる」
これ以上、長引かせたくない俺は遮るように声を被せた。
「だから、さっさと帰れ」
明確にこの場から去れ、とアルニアが出てきた側を指さす。
もう三度目の帰れアピールだ。
そろそろ理解してもらいたいものだが……言いたいことは全て言い終えたのだろう。
ようやく踵を返すアルニアは最後にこちらを睨みつける。
「……ああ、そうだな。逃げるなよ。明日がお前の人生が終わる日だ」
「いいや、お前が生まれ変わる日だよ」
そのままアルニアともども周囲に人の気配がなくなるまで背中を見届ける。
……ふぅ、ようやく帰ったな……。
「オウガくん……!」
「うおっ!?」
おっぱいが……! 背中に柔らかい感触が……!
マシロが抱き着いてきたおかげで一気に荒れていた空気が霧散し、日常が戻ってきた。
彼女はそのまま離れることなく、首筋に顔を埋める。
さらりとした髪が少しこそばゆい。
「ボク……本当に幸せ者だな~って」
「ええ、あれだけの言葉をかけていただけるとは……オウガ様にお仕えできたのは私の人生の誇りです」
「……俺は俺の責任を取っただけだ。大げさなことでもないさ」
「……そういうとこなんだけどね」
「何か言ったか?」
「このままでよろしく~って言ったよ」
ということらしいので、マシロを背負ったまま再び歩き出す。
アリスもいつも通り隣に並んだ。
……うん、やはりこれがいちばん心地いい。
「しかし、オウガ様。よろしいのですか?」
「何がだ?」
「王太子の実力ですが、当初の想定よりも……その……」
アリスが言いよどむということは強く感じたに違いない。。
つまり、【
だが、俺は【魔術葬送】を使うつもりはない。
マシロの時は目撃者もほとんどいないから気にしなかったが、今回はさすがに全校生徒が証言者となってしまう。
父上たちとも入学前に扱いについては話していたからな。
そのあたりは俺もきちんと考えている。
「心配するな。織り込み済みだ。そのうえで叩き潰す」
「……なるほど。今後を考えれば最善ではあります。失礼いたしました。私の考えが浅はかなばかりに」
「いや、俺も意見が一致して安心した。気にしなくていい」
マシロがずり落ちないようにすべすべの太ももに手を回す。
ギュッと掴むと、少しムチムチしていた。
「……オウガくん?」
「何でもない。さぁ、寮に戻ろう。明日の準備もしないといけないからな」
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