Stage1-22 鳥かごに捕らえられた姫
無言が支配する空間。
会話など起こりうるはずもない。
なぜなら私たちは愛を育んだことなど一時もないのだから。
「…………」
カチャカチャと食器の音が響く。
それでもこうして会食を行うのは父へのポーズをとるため。
だから部屋の中には私たち二人以外誰もいない。
仲が冷え切っているのが露見してはいけないから。
……いや、とうの昔に気づかれているかもしれないな。
笑い声など漏れたためしもない。
それでもこうして婚姻関係を継続しているのだとしたら……私は本当に道具としか見られていないのだろうな。
「おい」
突然、呼びかけられて思わずビクリと震えてしまった。
思考に沈むにつれてうつむいてしまっていたらしい。
顔を上げれば、頬杖をついたアルニア王太子がこちらを見ていた。
「は、はい。いかがなさいましたか?」
「また金を工面してくれ。金貨5枚ほどでいい」
「なっ……つい先日もお渡ししたばかりではないですか」
「あれはもう使った。だから、こうしてお願いしているんだろ」
「つ、使った……? いったい何に……」
「聞かんでもわかるだろうに。男のフリをしたキミとは違うれっきとした女にだよ」
「……っ!」
私だって好きでこんな男みたいな恰好をしているんじゃない……!
窮屈なサラシなんて外して、スカート履いて、可愛い服で毎日を過ごしたいのに。
「なんだ、その反抗的な眼は。俺は別に婚約を解消したっていいんだぜ?」
「そ、それは……」
「ただそうなったらキミの父上はどう思われるだろうな?」
……間違いなく幽閉される。
それだけならまだマシだ。影武者でも用意され、恥をさらした私は辺境にでも飛ばされるだろう。
私は確かに跡継ぎになれるように教育を施されたが、それ以前に役に立たなければ捨てられる立ち場なのだ。
あの人ならそれくらいは普通にやってのける。
父にとっては全ては道具だから。
レベツェンカの家を大きくするために使ってやってるだけ。
「わかっただろ? キミは俺の言うことを聞いておけばいいんだよ」
ニタリとあくどい笑みを浮かべるアルニア王太子。
彼はわかっているんだ。
私が父上に逆らえない事実を。
だからこうして大量の金銭を要求してくる。
「そうすれば王家の血も家系に取り込める。レベツェンカ家は公爵家の中で他家よりも一つ上の扱いになる。跡継ぎもできる。キミの父上も大喜びさ」
私が父上にお願いなどできないとわかっているくせに……!
父上にお金の用意を頼めば、使用用途がバレて国王様の耳にも入るだろう。
そうなれば王太子は国王に怒られる。
その後の展開は誰にだって予想できる。
気分を悪くした彼は私に婚約破棄を突きつけるのだ。
つまり、もとより彼は私と結婚するつもりなんてない。
魔法学院に入学してからの要求をすべて私財で賄ってきた。
それももう限界に近い。
「ったく、父上もなにが庶民の気持ちを理解するためだ。俺は王太子だぞ。金くらいポンとくれれば、こんな面倒な付き合いなんて済むのに」
アルニア王太子の気持ちは言葉の通りなのだろう。
私なんかと結婚したくない。もっと遊びたい。
無茶な金銭を求めてくるのも婚約の破棄がしたいから。
「じゃあ、また来週。お金、その時までに用意してくれよ」
バタンと扉が閉まる。
一人ぽつんと取り残された私はふと自分の手を見た。
剣たこでボコボコになった掌。
王太子よりも大きな身長。吊り上がった瞳。
男として生まれていれば、こんな辛いを思いをせずに済んだのだろうか。
どうして私は女として生まれてきたんだろう。
うつむくと視界に入る長い髪。
「こんなもの……こんなもの……!」
テーブルに置かれていたナイフを取って、切り落とそうとする。
『きれいな髪だ。毎日よく手入れしているのがわかる。カレンがみんなに好かれるのがよくわかるよ』
「……っ!」
だけど、彼の言葉が脳裏に浮かんで数本の髪がひらりと落ちるだけに終わった。
手からナイフがすり抜けて、私は力なくその場に崩れ落ちる。
「……助けて……。助けてよ、オウガ……オウガぁ……」
涙で顔をくしゃくしゃにした私はこの場にいない
◇短くてごめんなさい。
ここからオウガのシーン加えると逆に文字数多くなるから区切りのいいところで斬りました。次回からオウガのターン◇
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