潜在
J
第1話
世界は急に回り始める。
またそれは、私の意思とは関係なく、だ。
誰かが庭で水を撒いている。
この国は緯度が少し高いため八月終盤は少し肌寒く感じることが増えてきた。
星はいつも見えない。
歩くのをやめ、少し立ち止まりたくなる様な月を、星を。最後に見たのはいつだっただろうか。どこの国だっただろうか。
最近の嬉しかったことは?と電話越しに聞かれ、“街灯が少なくて古い街を溶かすように照らす月が見れたこと”と答えたあのセーヌ川沿いの帰り道。
微かに甘く脳が少し痺れるようなそんなひと時。
街は静かだが、うるさいほど眩しい朝焼けの反対側にひっそりと居た白い月。
エスプレッソが飲める様になる日は来ないだろうと悟った。
屋根裏部屋の窓に腰掛け、雲の隙間からわずかに見えたピンクの空。
飽きる事なくひたすら無数に飛び交う飛行機の明かりを数えた。
何も遮るものはなく、ただ広大に、ただそこにあったマヨルカの星空。
怖さが勝理、そう長くは眺めていられなかった。
振り向けば目が合って、歩くスピードが少し遅くなった横浜のビルの夜景群。
今はもう、振り返っても目が合うことはないのだと思い知る。
世界は急に回り始める。
目が覚める、私は今日、何者になるだろうか。
世界は急に回り始める。
私の意志で、回し始める。
潜在 J @oroshimayoponzu
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