第21話エルフの冒険者ギルド(コソビニ)

 近隣国


 エルフの里程度に、言葉も通じない強敵がいるとは思わず、壊滅した魔族の駐屯地に王が来たり、蟻の巣から膨大な兵力が出て来たとは思わない国家では、若い子供の伝令だけが生かされて帰って来て混乱していた。


「だ、誰か分からないけどすごく強い人達がいて、グスッ、話が通じないんで兵隊さんが「女置いて消えろ」って槍で突いたら、何でか分からないけど手足飛ばされて回転して…… もうその後はみんなエルフの子供に麻痺させられたり石化されて、全員手足切られてしまって」


 子供の話なのでポツリポツリ、話しの整合性も無く、何かの化け物が出て皆殺しにされたんだとか、いい加減な内容でとても信用できるものではなかった。


「もう周り全部、大きな蟻に囲まれてて、逃げることもできないで、手足切られた人は大きな蟻の巣に連れて行かれちゃって、ううっ」


 全員の証言に共通しているのは、巨大蟻が巣から出て来て既に包囲されていて、突破して逃走しようとしても馬鹿にするように小突き回され、エルフの少女13人ほどと、恐ろしく強い少年の冒険者が兵士を倒すのを待っていて、戦闘不能にされた者達は蟻に処理されてから「蟻の巣だけは嫌だああっ!」と泣き叫んで全員が地下に連れ去られた事だけ。


 竜使いから飛竜語で聞いても「王が、殲滅竜が……」と頭を抱えるだけで、竜まで怯え切ってしまっていて話にならない。



 前回魔族が全滅したのも、蟻の巣に手を出してしまい、夥しい数の蟻やマンティスの足跡からも、蟻の巣に連れ去られたのだと言われていた。


 駐屯地跡の強行偵察と、エルフの里を押さえて女たちと美少年を連れて来て、年寄りは殺して男は奴隷として売るように画策した上級貴族の命令なので反抗不可能。


 一部の人間が「不死の指揮官や副官、リッチや不死王を倒したのは誰か?」「大蟻には巨大なストーンゴーレムやアイアンゴーレムを倒すのは不可能」「巨大な従魔や飛竜をどうやって倒したのか?」と言ったが全部破棄されて無かった事になって、そんな事を言った者はとっくの昔に左遷されていて、超イエスマンで固められているので「流石上級貴族様、御見識が高い」と纏め上げられて、数千もの兵士が死ぬことになった。


 でも貴族なのでゴミが減っても困らない。あえて「清潔になった」とまで言って責任は絶対に取らない。


 おべっか使いの中から上位の者が選ばれ、軍組織内で左遷されたか、処刑されて責任を取らされた。


 すぐに殺された責任者以外は、取り巻き達の助命嘆願が出されて、上級貴族の「よきに計らえ」だけで助かって解放されて、全部なかったことに書き換えられた。


 更に無謀にも、魔の森の中にいた強者への懲罰や、蟻の巣への攻撃が計画されて、軍隊が徴発されて、労役として農民からも大量に兵士が集められた。


 有史以来、蟻の巣を攻めて生きて帰って来た者は居ない。



 エルフの里


 どこかの国の軍隊は王に殲滅されてしまい、こちらも無かった事にされた。


 王とエルフの少女ょぅじょが里に帰って来て、新設された「冒険者ギルド?」に入場。


 京都のコンビニ風と言うか、Nire_7に出て来た偽インド人の「コソビニ」ぐらい違う建物と内部構造だが、一応受付嬢(300歳ぐらい)がいて制服などは無く、学園祭程度のセットで依頼用の掲示板と買取カウンターはあったが、酒場とかラウンジは無かった。


『すいませ~ん、エルフの里に来ようとした人間の軍隊壊滅させて、魔族の駐屯地跡に居座ろうとしてた奴ら潰してきました~』


『エ?』


 巨大ゴーレムとか従魔がいないとは言え、襲い掛かってきた軍隊全滅させて、巨大蟻を使役して地下に連れて行かせ、冒険者ギルド?に笑顔で報告できる人類やエルフはいない。


 300年ぐらい生きてる受付嬢?でもイミワカンナイ。


 エルフの里はそのまま接収されて、オーガの群れが来たみたいになったり、サイズが一緒なので抵抗した男は殺され、年寄りは引き摺り出されて殺され、女や美少年は犯され放題になりそうな悪党だらけだったので、略奪の嵐が吹き荒れる前にいつも通り心を読んで瞬殺。


『それと、報告の為に蟻さんにも来てもらってるんだけど、出て貰ってもいい?』


『ハイ?』


 情報量は大したことなかったが、3メートルもある蟻が報告に来なければ、里の外で何があったのか理解できる者が少なかった。


 まず、王が地下の蟻を呼んでしまった。


『蟻さん、ちょっと何があったか教えてあげてよ』


 ギルド横で土が盛り上がり、3メートル級の蟻が出現。


「ザシュウウ、カチコチコチ、コチカチカチ、シュババ、ガシュシュ」


 何言ってるのかエルフには完全に意味不明。



『あっ、蟻だっ、巨大蟻が出たああっ!』


『女子供から逃がせええっ!』


 住民とかギルド内、パニックになって逃げ惑うだけ。


 エルフの受付嬢?も買取カウンターの連中も、建物の外に地下から巨大蟻が出現したので死を覚悟した。


『ああ、人間の兵士はお腹に蟻さんの卵入れて幼虫のエサに使えるから、みんなのレベル上げした後は、片付けるのに全員蟻の巣の地下に連れて行って貰ったよ』


『ヤーーーッ!』


『ええっ?』


 王の後ろには戦闘服姿のエルフ少女が集合していて、返り血とか人間の解体作業に従事した跡も生々しく、石化させたり麻痺させたり、人間が多くいる所に手榴弾(精霊)を投げ込んで爆破したり、致命傷にならない程度に失明させたり、様々な戦術の実験もして二次職高レベルの圧倒的な力で粉砕して来た。


 転職ツリーの方は、早くも忍者頭領や賢者に転職できる人物もいて、同じ能力を継続して上げる場合は転職可能。


『うん、あの蟻さんは仲間だから心配しないで』


 ギルド内全員「ヒエーーーー、ジョババババ」になったが、王と巨大蟻が二言三言交わすと、笑顔?で帰って行った。


 以後通りやすいように、蟻の巣とエルフの里の中には通路が開通したまま。


 小さい子には「近寄っちゃいけません」「大きな蟻が来て食べられてしまうよ」と教育されたが、ギルド周辺では会話不可能な蟻が跋扈している。


 どうやら蟻と別れ際の会話が、普通に「エルフのお嫁さんを一杯貰ったんだ、仲良くしてあげてね」と言われただけなのだが、蟻の鉄の掟の中に「エルフは友達」と無理矢理に追加されて、十戒の石板の後に追加されたぐらい強烈な指令になった。


 韓非子の後ろの方に落書きみたいなのが追加されていたり「孫子の兵法の完全版が発見された」とか言う、何処かの王様が勝手に追加して自分の墓の副葬品にしたのとは違う扱い。


 それからも「俺がいつもいられないから、エルフの里も良かったら守ってやってよ」と蟻語で会話したらしく、一個小隊ぐらいが常駐して魔族や人間の偵察隊が来たら全員地下に連れ去ることになった。



(長老様、王と私達は現在、里の中の冒険者ギルドまで来ております。ご指示通り里に進駐しようとしていた人間の軍隊、私共で壊滅させて参りました。レベルを上げた王の嫁達で、魔法や精霊で爆破石化、散兵を射殺したり、王の声掛けで蟻の巣からも軍勢が出て、大半を蟻の巣の地下に連れ去りました)


 野に咲く花の言い分では、まるで簡単な行為のように言ってのけたので、思わず長老もこう言ってしまった。


『イイーーーヒッヒッヒッ!』


 里を占拠された無能だの、オーガに里を滅茶苦茶にされただの、食料の用意すらできなかっただの、散々な物言いで馬鹿にされ続けた長老だが、これからは野に咲く花に命じるだけで王が来てくれて、嫁に出した娘達で数千の人間の軍隊であろうとも駆逐してくれる。


 それも新設した冒険者ギルドで「里にやって来ようとしている人間の軍隊を壊滅せよ」というクエストを出すだけで嫁に出した者の故郷を小銭で守ってくれる。


(良くやってくれた、これでエルフの里は安泰じゃ、どのような強敵が来ようとも、王の力があれば……)


 念話の途中だったが、感極まってしまい泣き始めた長老。


 魔の森に魔族が展開して、周囲の亜人や獣人、魔物の里を制圧して行った結果だったが、数千人規模のエルフの里では防御しきれなかったのが、「人間の城砦とエルフの里に手出ししようとすれば、例え魔族でも蟻の巣に壊滅させられる」という評判が立てば今後の里は安泰。


(それでは儂もギルドへ向かい、王に挨拶に参るとしよう、待っておれ)


(承りました)


 非常に有能な娘を王の嫁に出せたようなので、涙が零れないように上を向いて目頭を押さえ「オジサン、良~~い話聞いちゃったよ」みたいな感じで涙を拭きとって出かけた。



 ギルド周辺


『これは…… どうした事か?』


 ギルドの横に新設された蟻の通路に、雨水が入って来ないように盛り土をして、1メートル級の働き蟻BBAが数匹で拡張工事中。


 クエストが生えると連絡員から報連相され出動する。エルフの里の周囲にも出口を新設。


 呼ばなくても周辺国からエルフの里へ出兵してくれて、自分の足で魔の森まで歩いて来て、集まった所で包囲襲撃して全員地下に連れ去るだけの簡単なお仕事。


 王が軽く言っただけなのだが、蟻の巣側では本気でエルフの里を防御する気になっていた。


 今までは魔の森で顔を合わせると「カチコチコチ、コチカチコチ」と警戒音を出され、退去しない奴は抱卵器の刑に処されていて、巨大蟻の顔を見た者は大抵死んでいたが、今後エルフは除外される。


 どれだけ屈強な戦士であろうとも、蟻と遭遇すれば増援が呼ばれて必ず死んでいたが、これからは王の紹介なので免除。



『ああ、長老さん。今度も死体を片付けるのが面倒だから蟻さんに来て貰ってね、魔族の時と一緒で経験値稼いだ後は蟻さんの巣に連れて行って貰ったんだ。帰り際に「エルフのお嫁さんを沢山貰ったから、これから仲良くしてあげてね」ってお願いしたら、ここに連絡通路作って、里の周りも警戒してくれるんだって』


『は?』


 蟻の側では次々とやってくる人間を収穫するつもりで「カチコチカチ(退去せよ)」と言って理解できなければ滅殺。全員地下に連れて帰る。


 長老にはさっぱり意味が分からなかったが、これからエルフの里は魔の森最強の軍団に保護して貰えることになった模様。


『生贄などは?』


『やだなあ、そんなのいらないよ、みんなお友達じゃないか』


 王だけ頭の中がお花畑。ジャングル大帝レベルで「もりのなかまたち」なので全部オトモダチ。


 蟻の巣へそんな要求をすれば、対価として抱卵器を提出し続けて、いつかエルフの住民が枯渇してしまう。


 でも相手が王なので無料。せいぜいエルフや従魔のウ〇コ持って帰られるぐらい。


 新設されたギルドの買取カウンターでは、既に異次元の魔獣の素材や伝説級の武器防具の山積み芸が行われ、平面世界と取引していないギルドでは買取できないが、全額預金として素材を置いて行った王。


 エルフの戦士の装備も異次元の領域に達して、鎧や弓まで伝説級、神話級の物品が支給されたとかどうとか。



 それからも帰って来ていた自警団に聞いても「王が蟻の兵団を連れて来ていて、菜の花のつぼみ(嫁の氏名)達が人間を蹴散らすと、蟻が手足を噛み切って行き、泣き叫ぶ人間共を順番に地下に連れて行って、噛み切った手足や顎は大型のマンティスやゴキブリが食べてしまって……」などなど、泣きながら凄惨過ぎる光景を告白した。


 全員ガタガタ震えていて、口々に「恐ろしい」「蟻が全員連れて行った」「戦士達もきっと地下に」と泣いている者もいた。


 地下に連れ去られたエルフの戦士達は、遺体が無いので野に咲く花が「エリア死者蘇生」で復活させ、魂が里に帰っていた者は「全裸で」生き返った。


 でも人間が死にまくった場所では、社や神社など建立しておかなければ、その場に恐ろしい怨念が残り、もし死体が残っていればゾンビやグールが発生して、無くてもレイスが出て、統率者はリッチなどになって周辺全体を呪いで汚染するレベル。


 その辺を考慮して、死に場所は地下の底深くに設定されていて、ゾンビとかグールが出ても「蟻のスタッフで美味しく頂きました」になるのでオッケー。



 以後も復活した連中を歓迎したり、手足や視力を無くした者まで治療され、高レベルになっていた司教職の者がエルフの里で治療院を開いて全員の怪我や病を治してしまい、今までの低レベル術者が幅を利かせていた時代とは隔世の感がある異次元の治療が行われた。


『ああ…… ありがたい事でございます、聖女様方』


 今まで里では下っ端も下っ端、子供扱いされていたはずの合法ロリたちが、聖女扱いされてしまいBBA達も跪いて祈りを捧げるレベル。


(((((((イイーーヒッヒッヒッ!)))))))


 王に嫁を差し出した家のBBAや母親も、つい皮算用して笑い出していた。


 さらに発育が良い嫁の家では、王の子供ができているかも知れないので笑いが止まらない。


 当の嫁達も司教職で全ての魔法を覚えていない者でも、賢者になってから魔法を覚えることにして数人が転職。


 忍者職の者も全てのスキルは覚えていないが、忍者頭領になってから覚えることにして転職。


 ここに三次職の者だけで固められた軍団が結成された。千年を生きる亜人であろうとも、そんな物は出現した試しがない。


 王と同じパーティーになると神気を分け与えられるのか、異常な速度でレベルが上がって転職まで可能。


 まあ、数千人とか一万人殺せる人類は居ないので、妥当な数字とも言える。



 王の嫁達は長老へ報告した後、実家にも報告しに行き休暇を楽しんだ。


 王にも宿泊して貰い、宴を開くので参加して貰えるように要請。


『あ、ちょっと席を外させて貰って、家に置いて来た子に「エルフの里で泊まる」って報告してくるよ』


 そうしないとルリナが「お兄ちゃんが帰って来ないっ!」と発狂するので、ご機嫌を取りに行って何なら連れてくる。


 今はまだ若いので狂い方が小さいが「どけって言った」とか言っても無い事で叫び始めて「ギャオオオオオオオン!」と叫び始めると終わりで、ドストエフスキーの奥さんみたいに阿片の瓶咥えて「死んでやる~~!」と泣き叫んで床の上を転げ回って、巨匠自身も自分の家の事を「基地外病院」と名付け、忌の際の言葉も「どうか妻を近寄らせないでくれ」と言う悲惨な物になる。


 ホルモンの変調で狂わない女の方が少なく、子供産んで正常値を保つ者もいるが、「専業主婦の仕事の年収は一千万円」とかホザき始めるともうオシマイで、あとはひたすら金にバッグにブランド物の服に靴、年収四百万の夫であろうとも「ローンで家を買え」と言い出して、夫の方は家を買うと自動的に転勤させられて、一度も新築の家には住めない。


 メシマズで毒でも盛られてガンにでもなって、売価数百円のトリカブト盛られて旦那デスノートに記載されて家のローン生命保険で支払われると良いが、そんな幸運な者は少数で単身赴任先で火災報知機を外されて炎上。


 もし「一緒に転勤」などと言おうものなら、洗脳済みの子供と一緒に「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオン!」の大合唱が始まり、地獄の蓋が開く。


 まあ王なので、夫婦間がヒエッヒエになっても「権力」「金」にしがみ付かせる方法もあり、「宝石」「高級な馬車」に「お茶会」「夜会」なども主催できるので、貴族並みの生活ができる。



 人間の城砦


 歩くと三日かかる距離だが、ほんの十歩ほどで歩いて帰ってきた王。


『オイ、一人で何やってるんだ? エルフ共の嫁とやらはどうした?(////)』


『あ? 姉さん……』


 城砦の入り口近くだが、殲滅竜の姉が着陸して来て話しかけられた。


 今も母親と一緒に城砦の周りにいて、ちゃんと生活できているか、怖い魔獣に追いかけられていないか、ご飯は三食食べられているか、風呂や着替えは出来ているか、外から監視され続けている。


 母親の方はウザイから避けられているので、涙目で遠くから監視している。


『あ~~、エルフのお嫁さん貰ったのまで知ってるんだ、また俺の探知外から監視してたんだな』


 姉の方も大概ウザイのでほぼ家出状態で、もう一人前なので親父の許可も貰って冒険者やっているのに、未だに付き纏われて監視されている。


 妹とは仲が悪いので会話もしてない。


『な、何でそんなに邪険にするんだよ、姉が弟の心配して悪いか?』


『姉さんこそ恋人でも探して家庭を持って、そろそろ子供産んでもいい頃だよ? こんな事してないで男とデートでもしたら?』


『ううっ』


 まあ強すぎてどんな相手でもワンパン、高学歴で高収入女みたいで下方婚はしない。


 自分の価値観的に高収入?で高学歴で高身長で強くてイケメンで清潔感があって年収一千万超え?の男と言えば、弟しかいない。


 ゆかりんがクリスマスなどにツイートする内容で、王国民以外でも一喜一憂するみたいに「友達が弟しかいない」状態の姉。


 毎回「堀江由衣と実名で呼び合う仲じゃなかったのか?」とか「誰か嫁に貰ってやれ」とか「実はもう結婚してて子供も二人いるよ~、というツイート待ってます」と言われるが、ご本人が人間関係リセット癖があるのか、友達関係を維持しようとしないのでボッチ。


 姉は別にボッチコミュ障じゃないので「料理学校に行ってみたけど、相手と会話するのが嫌で辞めた」「王国民なんかいなかったんだ……」レベルのボッチじゃないので友人は作れるが、怖すぎる殲滅竜なので対等の友達はできない。


 姉と妹も、妹がクソ生意気過ぎて仲が悪いので友達じゃない。


 ママとは一応友達だが、親子なのでジェネレーションギャップもある上、ムチュコタン大好き過ぎる変態。


 親父はキモいので会話すらしない。


 と言う訳で排除して行くと「弟しか対等な友達がいない」ボッチ姉。


 殴っても壊れないし星にならないのも弟だけなので固執している。


 何より弟が子供の頃に「おねえちゃんとけっこんする~」と言われたのを本気にしている。



「り、竜だああっ!」


「逃げろおおおっ!」


 こっちでも警備兵で門番に気付かれてしまって大迷惑。


 魔の森の中でも王の通過点や着地点では、魔物が逃げ惑って「ギャアア、ギャアア」などと警戒音発して、人間の城砦近くでやると「スタンピートだああっ!」になるので逆方向に誘導しないといけない。


 弟の方も姉に付き纏われてウザイのだが、レディースを解散してからは少数の舎弟しかおらず、ボッチ過ぎて男の舎弟もいないので突き離せない。


『姉さん、人間の城に入るんなら人化してよ、ほら、人間逃げ惑ってるし』


『あ? ああ』


 姉も人化の術は使えるので、エロい変身バンク使って人化してみた。


 門番が逃げ出した門を通過して入城。



 王都騎士団


 すぐに「殲滅竜の姉、人化して入城」の知らせが駆け巡り、王都にもすぐに報告が飛び、現地の騎士団からは別れの言葉が送られた。


 団長に連絡する騎士も既に泣いていて、通信内容を提出した。


「なんだと?「殲滅竜の姉到来、今生の別れとなります、これにておさらば、生きて再開すること能わず、靖国で逢いましょう」だと?」


 現地では水杯なんぞ交わして「靖国で逢おう?」とやってから出動する悲壮な現場。


 殲滅竜の姉と言えば話通じない相手の代表みたいな奴で、目線があっただけで襲い掛かって来る基地の外に住んでいる竜。


 何なら話し合う前に腹パン入れられて爆散させられたり、人間は生物だとも話し合える相手とも思っていない天敵。


 ボーントゥキルで、人間は踏み潰して歩く雑魚程度にしか認識していない人の皮を被った悪魔。


「はあ~~~」


 また乙女みたいに顔を覆って、クソデカため息で嘆く程度しかできない。


 今度こそ話通じない相手なので、どうしようもない奴が来た。



 冒険者ギルド(情報部)


『ここがギルドだよ、姉さんも登録しておけば?』


『お? おお……』


 弟の方も、冒険者登録させてクエストでも受けておけば、人間を殺して回らないようになるのではないかと思ったが、姉なのでここで暴れ出すと止めるのに苦労する。


 もう情報部騎士団からも退避命令が出ていて、暗部の者まで大事を取って殲滅竜の姉とは遭遇しないように退避。


 抜き身のナイフみたいにギラギラした目をしていた冒険者まで逃げだし、受付とギルドマスター以外は無人になったギルドに二人が入場した。


「すいませ~ん、姉も冒険者登録したいんですけど? それと、エルフの里や魔族の駐屯地辺りに人間の軍隊が侵入して来たんで、話通じない奴で略奪しに来たクズだらけだったんで倒して、蟻の巣に連れてってもらいました」


「ひっ!」


 父親母親と一緒に多くの国を滅ぼし、カツアゲして上納金やみかじめ料を要求したり、払えないから戦うなどの手段を選んだ所では、情け容赦なく燃やしてしまい、国庫を開いて金貨を持ち出し、宝物庫も開いて持ち去った悪魔。


 それが今日、何故か冒険者登録をしに来た。


「ふん、勘違いしないでよね、弟の手前登録して上げるけど、そうじゃなかったら滅ぼしてやるんだから(////)」


「姉さんっ!」


 恐ろしい言葉を話すツンデレさんだったが、弟に強く言われて引き下がった。


 王の言葉だけは通じる模様。


「ほら、これ登録証、名前書いて、職業欄も竜って書いておけば……」


 特に契約の縛りは無いのだが、以後ギルドでは暴れず、弟の言いなりでクエストを受注する事にした姉。


 最初からS級冒険者扱いで、やっぱり推奨クエストは「魔王討伐」「十二魔将討伐」。


「適当にクエストも受けておいて」


「分かったよっ」


 そうして置けば暴れないので受けさせたが、姉は勧められるまま「魔王討伐」と「十二魔将討伐」のクエストを受けてしまった。


 長期クエストなので違約金なんかは発生しないが、伝説の勇者がいない世界で勇者以上の竜が受けてしまった。


「あ……?」


 受付嬢も、人類の悲願が達成されるのではないかと予想し、殲滅竜相手なので自動的にこちら方面を管轄している十二魔将の首が飛ぶ。


 王の方はFランククエストの薬草採取程度しか受けてくれないが、殲滅竜の姉がクエストを受けたので、今後短い期間で十二魔将の首がニ、三個飛ぶ。

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