第3話 銅貨一枚で請け負った依頼

 王は「薬草採取」の依頼書を持って城砦を出てみた。


「お兄ちゃん」


 当然、情報部からの依頼で城外で王を待っていた。


「やあ、ルリナちゃん。薬草効いた?」


「うん、お母さん治っちゃった」


 まず、少女は感激した振りをして、王の懐に飛び込んで抱き着いた。


「エリクサーなんて薬草、私、もう一生働いても、お兄ちゃんに返せないや」


「いいんだよ、一杯余ってたし」


「ううん、私、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるねっ」


 恥じらった顔、耳まで真っ赤になった顔、多少目を背けて、一大決心をして告白した顔。全部芝居である。


「ああ、有難いなあ、こんな可愛い子が奥さんになってくれるなんて」



 そこで王は、ルリナにギアスが掛かっていて、隷属の首輪がはめられているのに気付き、大体の事情はギアスから読み取れたが、魂に掛けられていた枷を外してやり、同じ呪いが弟や母親にまで掛かっているのを察知して、隷属の首輪を外してやって、呪いを返した。


「しまったっ、呪いがバレたっ」


 そう言うが早いか、外れた首輪が表示を変え「呪いを返す」ギアスの方も「術者に呪いを」になって、術者が苦しみだし、呼吸困難と心臓が停止し始めた。


「術者っ、心肺停止させるなっ!」


 ルリナの家の近くにある、元貴族家に詰めていた情報部の者達は、術を掛けた本人が苦しみだし、心肺停止に陥ったのを救助するために動き出した。



「もう心配ないよ、お母さんも弟も、呪いから解除しておいたから」


「エ?」


「もう、無理な芝居続けないで良いから。どこの誰だ? こんな幼い子にギアスまで掛けて、俺を篭絡させるための芝居までさせて」


「ち、違うのっ」


 それは自分から志願した芝居で、いつか少年のお嫁さんになって、金銀財宝を付けたドレスで結婚式を挙げて、食べるにも困るような貧乏生活から抜け出そうとしたから。


「呪い返しをしてやったから、多分術を掛けた奴は死ぬと思うよ。苦しんで呼吸ができなくなって、心臓が止まるまでのた打ち回って死ぬ。ルリナちゃんやお母さん弟に掛けられていたのを全部返してやったから」


「違うのおおっ!」


 少女は号泣しながらカクカクシカジカで説明し、自分が貧乏から抜け出すために、大人たちの言い分を聞いて、納得して篭絡に手を貸すことにしたのを、涙のしずくを飛ばしながら説明した。


 ここまでも芝居である。



「いいんだよ、いつもの事だから。そうだルリナちゃんにもこれを上げよう」


 王は「貧乏な孤児院やスラムの子供を助けるために、手持ちの高価なものを渡すクエスト」にも憬れていたので実行した。


「そんなっ、こんな高価なもの貰えませんっ」


「いいんだよ、そうだなあ、ルリナちゃんは今から俺のパーティーメンバーだ、それに「レベルを上げたらどうにかなる」だ」


「え?」


 他の「新人育てて20年」の育成物の絵物語から、「レベルさえ上げておけばどうにかなる」のセリフを引用して、ルリナからギアスを解除しただけではなく、レベル上げして物理で殴り、上級職にでも転職させる気でいた。



 王はルリナに高価な装備を試させ、ヘルメットまで被せて、また「森のくまさん」的な輪唱をしながら「薬草採取」ができる草原に移動した。


 ルリナはタマネギ剣士扱いなので、何でも装備できる。


「さあ、まずは薬草採取から」


 鑑定眼で何がどこにあるかを見通し、魔物が逃げ出して一掃されている草原で採取を始めた。


 ほんの一瞬で数百本の採集が終わったが、王はそこで切り上げて採取を終えた。


「知ってるよ、全部刈ったら狩り尽くしちゃうから、ある程度残しておかなくちゃね」


 これも絵物語から得た知識。


 先日エリクサーの原料を提出し、国家予算を稼いだのとは比べ物にならない、薬草三本で銅貨一枚の常駐クエストを百回分クリアした。



「じゃあ、次はレベル上げだ」


「へ?」


 目が点になっているルリナを連れ、ほんの12キロほど飛ぶと、ホモゴブリンが集落を作っている洞穴に到着した。


 門番役のゴブリン二匹は、即座に膝から崩れ落ちてガッタガッタ震えて死を覚悟したが、生きていたいので命乞いを始めた。


「オオー、オオーー(殺さないで、殺さないで)」


「あれ、俺、また何かやっちゃいました?」


 奥の方からもホモゴブリンが100匹ほど全員出て来て整列し、誘拐して捕らえていた「若い男」を解放し、孕み袋にしていたのを縄を解いて牢屋から出した。


 ついでに「珍しいから」と捕らえていた、ょぅじょエルフも解放した。



 燻したり水責めしたりして、絵物語のゴブリンスレイヤーさんをするつもりだったが、全部キャンセルされた。


『王よ、どうか、どうか命だけはお救い下さいませ。もう街の男や冒険者を攫って来たりはしませぬ、迷いエルフを攫って売ろうとなど致しませぬ、どうか、どうか命だけは……』


 ゴブリン語で、泣いて平伏する長老らしき男が頭を下げ続けるのを見守っていると、頭の良い奴が「人間は討伐証明にゴブリンの左耳と牙を採取して行く」のを思い出し、小刀を使って自分の左耳を削ぎ始め、牙も折って提出。さらに何処かの牛島師範みたいに自分で自分を去勢して、袋を自分で切り裂いて中身も切って、タマタマを撤去して提出。


 さくら猫みたいになって、王の前に討伐証明とタマタマを置いて、後ろを向かないようにしながら退出した。



 その者は命までは取られなかったようなので、王は何も言わずただ立って待っていると、ゴブリン全員が討伐証明を提出して、タマタマも提出して立ち去ったので、ゴブリン一同は死んだことになって、心の根幹を圧し折られたので一連の被害も出さなくなり、ルリナの経験値になった。


 余りにもカス過ぎたので、王の経験値にはならない。


「あ?」


 ルリナは自分が村人レベル3から、レベル52まで上昇したのを知った。


 転職ツリーとスキルツリーが鬼のように開き、聖女や戦士のような一般職でも、サムライや大聖女のような上級職でも、選び放題になった。


「ルリナちゃんは何になりたい?」


「え? 私、聖女になりたかったんです」


 攻略対象の王子に手を組んで、ヘラヘラ笑っているような偽聖女。


 本物の聖女の方は追放されて、スローライフしたり小説が読める喫茶店を開いたり、ポーションが五割増しで効いたりするのを作る。


「じゃあ、大聖女が出てるから、いきなり上級職からかな?」


 訳も分からないうちに大聖女に転職させられて、更に上級職である「聖騎士」「神聖騎士」「上級聖女」「天使貴族」等を目指すことになった。


 聖女なのでヘルメットと鎧が装備できなくなった。小刀も装備できないので、メイスとローブを着せてもらった。


「こんな、お姫様みたいな装備……」



 二人は忘れていたが街に返された男達と違い、エルフのょぅじょが残っていた。


「「アレ?」」


『私達の村も救ってくださいっ!』


 次のクエスト「オーガに支配されてしまったエルフの隠れ里を救え」が開始された。


 王はルリナから見れば何を言ってるのか分からない、古代エルフ語で答えてやり、クエストを開始した。


『俺は冒険者だからね、銅貨一枚でも鉄貨一枚でもクエストを受けるよ。お金持ってなかったらドングリ一個からでも』


『お、お金ならありますっ』


 ょぅじょはポケットを探って、エルフコインの銅貨を出した。


『これで契約成立だね、これは「銅貨一枚で請け負った依頼」と同じだっ』


 熟練の絵物語読者は、何やら感激しながらエルフコインを見ていたが、エルフょぅじょは泣きながら隠し里の場所を教えた。


『ここから三日ほど歩いた場所に、エルフの里があるんです、そこが恐ろしいオーガ達に襲われてしまい、何週間も前から支配されてしまったんです……』


『うん、行こうか』



 王はほんの数歩飛んだだけでエルフの里に到着した。


 口をパクパクさせているエルフょぅじょを尻目に、ルリナの方は「うん、もう慣れた」感じでエルフの隠れ里に入って行った。


 普通なら木の上に一杯いるエルフに取り囲まれていて「人間、何をしに来たっ」「人間の力など借りぬっ」となるはずなのだが、王で殲滅竜なので平気で結界超えて入村。


 門番的に出入りを監視しているオーガが二匹いたが、いつものように膝から崩れ落ちて、命乞いを始めた。


「アオオオオン、オオオオオン(殺さないで、殺さないで)」


 哀れな泣き声を聞いたのと、里の入り口に凄まじいまでの力を感じたオーガの隊長なども、里の奥から全員出て来て命乞い。


「アオオオオン、オオオオオン(殺さないで、殺さないで)」


 殺さないで、の大合唱になってしまったので、取り合えず殺す必要もなくなった。


『王よ、どうかこの者達の命をお救い下さい。責任者はわたくしであります、どうかこの命一つだけで、他の者は見逃してやって下さい』


 今度もオーガ語で話し掛けられたが理解した王は、上位の言語である竜語で許した。


『うん、赦す、君も帰っていいよ』


 今度も人間の冒険者は、オーガの討伐証明に左耳を狩って行くのを思い出した者が、自分で自分の左耳を削ぎ、それでは足りないので既婚者や子持ちは自分で去勢を始めて、タマタマを取り出して切り討伐証明にしたので、提出しては頭を下げたまま退出して行くオーガを見送り、エルフの隠里からオーガは一人もいなくなった。



 目が点になったまま、まだ口をパクパクさせ続けていたょぅじょエルフは、里からオーガを追放できたと理解できていない。


 人間の冒険者が来ると全員で泣きだし、二言三言会話すると、全員自分で左耳をそぎ落として、タマタマも置いて出て行ったのは見た。


 今回もルリナだけが「うん、もう慣れた」感じで、エルフの里からオーガが追放された一連の行動を見た。



 ルリナはレベルが上がった、エルフょぅじょエルフのレベルも上がった。


 相手がオーガだったので、大聖女でもカンストしてしまい、あらゆる治療呪文を覚えた。


 エルフょぅじょは村人レベル10からレベル99に赤丸急上昇した。


 亜人でもほぼレベル上限のカンストだが、転職次第で上位職になれる。



 里の連中も、この人間の冒険者が「王」で「シュパアアアアッ!」とオーラを出して、天にも届きそうなのを確認した。


 尚。エルフょぅじょには見えない。


『王よ、オーガ共を追い出していただきありがとうございました』


 長老らしき者はオーガ語を理解できないので、追放できたとは思っていないが、乗っかって追い出されたことに書き換え、自分達が王の力により解放されたことにした。


『ああ、絵物語でね、小さい子からコイン一個で請け負ったクエストを達成する話があってね、村はウルフとか他の混成部隊に襲われて、たった一人の冒険者が立ち向かって、刃折れ矢尽きても、徒手空拳で戦って鎧もボロボロになる話なんだ』


『ファッ?』


 長老は理解できなかったが、人間の絵物語にそういう話があると思い至り、どうにか飲み込んで、王はょぅじょが出したコイン一個でクエストを請け負い、オーガに占領された町を救いに来てくれたのだと理解した。


『最後には砦から、小さな子が冒険者を助けに飛び出してしまって、守ろうとしてももう駄目だとなった時に、他の冒険者の集団が助けに来てくれるんだ』


 プライベートライアン的に、橋を突破されて爆破することもできずに、撃たれたトムハンクスが座り込んだまま拳銃抜いて、タイガー戦車かパンターを撃っていると爆発し、空の天使P-51が飛来してドイツ軍を空爆して、米軍も大量に到着するように、淫夢ビデオで銃を奪ってからは一転攻勢でケツから射殺するように、そのシーンを思い浮かべて感激している王。


『ついに俺もコイン一個で請け負ったクエストを達成したんだ。ちょっと簡単すぎて困るけど、これで他の冒険者達から「帰ったら一杯奢れよっ」と言って貰えたらミッションコンプリーツだっ』


『はあ……』


 長老とかアウトオブ眼中で感激して、ゴブリンスレイヤーさんが牛乳(うしちち)牧場娘の牧場を助ける時のクエストみたいに、全員から「一杯奢れよ」と言って貰え、受付嬢にも奢ったら冒険終了。


 気に入られている受付嬢からも、ギルドの緊急クエストにして、ゴブリン一体に付き金貨一枚とか、破格の申し出とかも受けなければならない。



 別室


「幼子よ、お前は王から気に入られている。銅貨たった一枚でオーガに制圧された里を救いに来てくれるほどだ」


「はい……」


「これよりお前は、どんなことをしてでも彼を篭絡し、子供を産むのだ。分かったな?」


「はい」


 コッチは「ウフフ、私、お兄ちゃんのお嫁さんになります」とは言わなかったが、銅貨一枚で願いを叶えられたので、体でも子袋でも何でも差し出すぐらいの覚悟はした。


 ここで実年齢25歳ぐらいのロリババアが参戦決定。エルフなのでまだ初潮も来ていないが、人間の閉経年齢ぐらいで初潮が開始される。



「ウフフ、俺、ついに「銅貨一枚で請け負った依頼」達成しちゃったよ」


 どこかのGATEに出てくるヤオみたいに、エルフの里としては己が体を緑の人に奴隷として提供し、炎竜を退治して貰ったので約束の金剛石の塊でも出せるのだが、本人は銅貨一枚で請け負ったクエストがお気に入りなので(ドングリでも可)、村の秘宝とか大量の金貨とか全部断ってもルンタッタしながら歩いていた。


 オーガが弱すぎて命乞いされてしまい、指一本動かさないで全員討伐証明出して去ったので、ギルドには提出して換金する。


 その際も「オーガの討伐証明と~~っ、タマタマ150体分~~~っ!」とは驚いて貰えず、殲滅竜クライメルクに相応しいクエストとは「十二魔将討伐」「魔王討伐」なので、薬草三本で銅貨一枚と、ゴブリン百匹の討伐照明とタマタマ提出して小銭と換金して貰う。

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