第2話 毒婦たちの会合

 少女の家


 事情を聴いた情報部の者達が家を訪れ、王に縁(えにし)ができた少女を言い含めるためにやって来ていた。


「ルリナ君が森で知り合った少年は、殲滅竜と呼ばれる存在だ、聞いていたね?」


「はい……」


 怖すぎて近寄れないが、案外優しい人物で、クマからも守ってくれたし、エリクサーになるような貴重すぎる薬草でもポンとくれた。


「彼、我々は「王」と呼んでいるが、王がこの都市に住むのは、人間如きでは排除できない。それで懐柔策(怪獣策?)として、住人を多数偽装して、王をこの都市で普通に生活させて、冒険者としてやって行かせ封印しておきたい。君にも助力を頼みたい」


「エ……?」


 もう二度と会いたくないとまでは思わないが、怖すぎて接近不許可。


「基本的に王は仲間には優しい人物だと確認済みで、君もその一人だ。見ず知らずの少女に、エリクサーの原料となる薬草を簡単に渡せる人物。君は王に気に入られていて、後日も母親が治ったか訪問を受けるだろう、その時も君には恐れずに立ち向かって欲しい」


「は、はい……」


 母親同席で、弟も同席させられている。鈍くない少女は母親も弟も人質で、逆らうと殺されるか牢屋行きだと知っている。


「王の訪問を受けたなら、嬉し泣きして抱き着いて、お母さんが回復したのを喜んでみて欲しい。懐に入って王を篭絡するのだ。君の魅力があったなら、王を引き留めて嫁入りするか、王をこの都市から引き離して、山の上の宮殿で暮らすのも可能だと思われる、是非請け負って欲しい」


 少女は逡巡したが、やがて笑顔になるとこう言った。


「ウフフ、私、「お兄ちゃん」の「お嫁さん」になります。金銀財宝を身に着けたドレスで、お兄ちゃんと結婚式を挙げるんです」


 今まで貧乏だと馬鹿にされ、父無し子だと嘲笑われ、食事できるのは三日に一度。


 あばらやかバラックのような小屋に住み、井戸も近くにないので水くみに数時間かかる生活。


 もうそんな生活は嫌なので、これから「但しイケメンに限る」「清潔感がある」竜の少年を捕まえて、例え第三夫人であろうが何だろうが、雲を掴んで天に上るように玉の輿に乗って出世する「私、お兄ちゃんのお嫁さんになる~~」計画を発動させた。


「ウフフフフフフフッ」


 真っ黒な顔をした少女が笑い続けた。


 どこかのGATEに出てくる「スガワラ様~」と言う異世界人の少女で、真珠の首飾りを貰って「わたくし、スガワラ様のお嫁さんになります」と言う子みたいに、講和の大使に選ばれて表の表情は笑顔でも、両親を掃除人に殺され、家を焼き払われた恨みは忘れておらず、壁に映っている影は鬼か悪魔みたいで、「ゾルザル殿下を殺すのは私」と公言するような、鬼か悪魔か悪鬼羅刹みたいなのが一匹爆誕した。



 近くの元貴族家


「好きな色は青、両親と湖を見に行った、幸せな記憶が忘れられないから」


「はい」


 昔のアイドルみたいなキャラ設定を細かく決められ、王の前でどのように行動するのかも細かく規定。


 交戦規定?が決まると、少女はさらに黒い顔をして「計画通り!」みたいな顔をした。


 ユナおねえちゃんのフィナちゃんか、いつでも家に帰れる主人公のアイナちゃんみたいな、可愛らしいキャラになるかと思われた少女は、魔法契約でギアスまで極められ、国家に奉仕するために隷属の首輪までハメられ、魔法印まで入れられてガッチガッチの復讐者になった。


 今まで見下げ果てていた奴らを、全員「ざまあ」するまで止まらない、ノンストップの重機関車みたいな化け物が下生した。



「ルリナ様、入浴の用意ができました」


「ええ」


 近くの貴族家で生まれて初めて風呂に入れて貰い、一か月以上洗っていない「おしん」みたいな髪も洗い、継ぎ当てのボロはそのままでも、髪からも体からも女の子特有の甘酸っぱい匂いがするよう加工され洗濯され化粧され「お兄ちゃん」を篭絡するために活動する。


 まだ11歳程度だが、前田利家プレイで「つきたてのお餅みたいだぁ(ケツやフトモモが)」とか、殺生丸様の所のリンみたいに、12歳中にヤられて妊娠、13歳で出産するのも可。


 相手方も15歳なので無問題(モーマンタイ)。


 実際周囲の人間もその程度で両親が決めた相手と結婚して、15歳成人まで一人身なのは、行き遅れとして処理される。



 大通り商店街


 街中の大通りも、定番の焼き串の屋台も、果物売りの叔母さんも、住人全員着の身着のままで逃げだしたので、王国の情報部が居抜きで入居。


 まるで武器屋も防具屋も通常営業されているみたいで、魔道具屋とか魔法屋まで営業している振り。


 一旦帰って来て荷物を取りに来たような家主にも言い含めて、情報部がそのまま家にも居ぬきで入居。


「おふくろ、やっぱり一緒に逃げようっ、俺も頑張るからさあ? 子供にもおばあちゃんが必要なんだっ」


 ガチ泣きしている息子が、逃げるのが嫌で「ここで死ぬ」と言って聞かない母親をどうにかして逃がそうとした。


「いいんだよ、あたしゃあ嫁入りして来た時からここに住んでる、ここが終(つい)の家で死に場所だよ」


「この家は情報部で使うからって金もくれた、一緒に住んでも邪魔にはならねえ、嫁にも言って聞かせる」


「あの嫁とだけは一緒に住みたくないねえ、ここにじょうほうぶ?の人が入ってくれるんだから心配ない」


「おふくろおおっ」


「ご主人、これからは私共が息子夫婦として暮らさせて頂きます、ご心配なく」



 熟練の商店主みたいに「ご利用ご利用~~、芋串一個40円、コロッケも一個40円、揚げたて買うてや買うてや、安っすいで~~」と言うダミ声営業までは無理だが、営業は出来る。


 キオスクのオバチャンが一斉解雇され、手が八本ぐらいあって、新聞でもガムでも商品単価を全部記憶していて、後ろも見ずに物を取り出せるオバチャンがいなくなったが、罵声を浴びて計算もできないゴミバイトでも、泣きながら営業は出来た。


「情報部一同っ、まるで通常営業しているように振る舞えっ、お前達は今日からこの街の住人で、表通りの商店主だっ!」


「「「「「「「「「「ヤーーーーッ!」」」」」」」」」」



 北朝鮮とかソビエトのような全体主義国家で、表通りから見ると立派な建物が建設されているように見えても、衛星写真から見ると壁だけの張りぼて。


 社会主義の壮大な実験で、外貨が使える店にだけ賞品が山盛りで、国内の人間は配給に並んでも物を貰えないのが普通で、アネクドートみたいに「ユダヤ人だけが何時間も並ばないで済んだ」的な場所。


 まるでサザエさんかちびま〇子ちゃんみたいに、貧しい場所の中から幸せな街中が切り取られて展示される。


 ミグ25で亡命してきたベレンコ中尉みたいに、著書の中で「スーパーマーケットに商品が山積みになっているのは、私に見せるための偽装工作で欺瞞情報、そんな物は有り得ないと思った」と語っていたり、アメリカ訪問したフルシチョフが「これだけの商品を並べるのに偽装した金額、一体いくらかかったのかね?」とアメリカ大統領に言い出すような、資本主義社会での飽食や豊かさを展示だけする。



 信用創造と言う、現代資本主義社会でしか通用しない概念。銀行の預入金の九割まで貸し出しができて、それを証券化してまた九割まで貸し出し、さらに証券化して九割貸し出すことができる錬金術。


 そんな物は通用しないと思われたが、金融工学にまで発展して、現代社会で資本主義世界が豊かなのは、存在しないお金をいくらでも利用できて、血液である資本が停滞することなく流れ続けていて、誰かが借金をしてリスクを負って利子を払い続ける時に現金が産まれる。


 架空の銀行に両替屋、実は存在しないギルド、武器屋、防具屋、魔道具屋。


 王の周辺にだけ、まるで豊かな世界で都市が経営されているような「振り」で、壮大な実験が開始された。



 冒険者ギルド


「ギルドはこれより通常営業を開始するっ、各冒険者?の諸君も、振るって参加して欲しいっ、良いなっ?」


「「「「「「「「「「ヤーーーーッ!」」」」」」」」」」


 ギルドマスターも情報部の人間に交代し、内部の人間も暗部の暗殺者に交代。


 都市の入り口の防衛線でも、泣いて吐いていたような冒険者は逃げ出したが、周囲の都市からも、両目をギラギラさせているような、抜き身のナイフみたいな冒険者が呼び集められ、王の周囲でだけ現実には存在しないお花畑のようなギルドが成立した。


 王専用のクランとか、同じパーティーに参加できるような情報部や暗部や暗殺ギルドや、特殊な冒険者達が呼び集められた。


 ビキニアーマー着たような露出狂が、ケツやフトモモプリプリ放り出して歩き、役に立たない新人の振りして王に媚びて諂って「お金ない、払えな~い」とか「同じパーティに入って~~」とか「お兄ちゃんを性的に食べちゃうゾ」とかヤって、パイオツカイデーが良いのか貧乳派なのか? 好みの傾向や性癖を探る。


 女子高生ぐらいで15,6の、メスの良い匂いプンプンさせていて子供埋める体して、性的魅力全開のメスを総当たりでぶつけてみて、どれが当たるのか外れなのか、池の水全部ヌイて試す。


 ギルドの登録料が払えないとか、協賛金が払えないと言って窓口で泣き真似して、立て替えて貰ったり債務奴隷になったり、美少女奴隷ネコミミ巫女ハーレム作らせたり、情報部の人間や雇われ人がロクサーヌみたいに処女のまま買われてマジ奴隷になってみたり、「ご主人様への純愛」とかホザいたり、どうにかして抱かれて子供を作り、オネダリして山の上に移動させるか、王の力を借りて近隣国に対して無双する。


「ヘッヘッヘッ、この俺様が殲滅竜の嫁になってやるゼ」


「ふっ、私こそが殲滅竜に相応しい」


「へっ、どいつもこいつも使用済みの中古が、私がなるに決まってるだろ?」


 どこかのエリア88に出て来たような、腕っこきの傭兵で冒険者たちで、初出は顔に黒い斜線入ってるようなのが、手ぐすね引いて待ち構えていた。


 後で子煩悩なのがバレて、チャールズブロンソンの荒野の七人みたいに「おじちゃんのお墓を作って花を飾るよ」と言われて死んだりする、かも知れない。



 近隣都市の貴族家


「娘よ、お前には死んで貰いたい」


「えっ?」


 まるで聖闘士星矢ロストキャンバスで、CM入り前にシルバー聖衣の師匠が「死んでもらうぞ、ユニコーーンッ!」と叫んだみたいに、娘に死を言い渡した現当主。


 クロス修復に血を取ったり、冥界にお使いに行かされるだけかも知れない。


 妹に婚約者を譲って欲しいと言われ、姉の方は竜の生贄にされ、王国乗っ取りするような不遇系の娘。


 加護縫いを命じられてもやり方を知らないので、妹の方が当主に命じられる系で屋根裏に監禁される系の姉。



「城塞都市メルカバに、殲滅竜の息子が出現した。本人は人化したまま冒険者ギルドに登録して冒険をするつもりらしいが、住人は大半逃げだしてしまった。そこでお前は殲滅竜を篭絡するために活動して欲しい。ツンデレ系のツインテール冒険者になるも良し、金髪縦ロールの悪役令嬢になるも良し、カチコチの聖女騎士団員を演じるも良し、聖女として殲滅竜を諭す人物を演じるも良し、お前の「七色の顔」が役立つ時が来たのだ」


「はい…… お父様」


 演劇に狂って15過ぎても嫁にも行かなかった娘。


 余りにも芝居に入れ込んで「友達が事故起こしちゃってさ、金が要るんだ、またちょっと貸してくれよ」と田中邦衛さんの役柄みたいに言うと「お前は自賠責保険すら知らないのかっ? 芝居ばっかりやってるから働いたことも無くて、世間知らずで真面目に勤めたことも無いっ!」と親に怒られた娘。


「できるなら殲滅竜に嫁入りして、山の上の宮殿まで下がらせるか、子供でも作って引退させ、どこかでスローライフを送らせなければならない」


「はい」


 王の前で盛大にマヤって、どの女が好みか? あべみかこが良いのか小柄系ミニマムか、SKE48の鬼頭桃菜で三上悠亜でオッパイデカくて体もデカいのがいいのか? 可能ならば嫁入りしなければならない。


 こうして「ある時はツンデレ系ツインテールでビキニアーマーの格闘家、またある時は金髪縦ロールで扇子持って「おほほほほ」と笑う悪役令嬢、そしてまたある時は殲滅竜を諭す聖女、しかしてその実態は?」みたいな、多羅尾坂内かキューティハニー的な女も爆誕した。らしい。


 本人は眼鏡でチビで「ツルー、ペター、チビー」の地味系で壁の華で、鈍臭子か眼鏡地味子さんなのだが、「戦いのメイクッ!」を施すと、「彼女は変わるぞ」とか解説役の青年が何か語ってみたりする系統の女。



 他の貴族家


「娘よ、近くに殲滅竜の息子が出たのは聞いておるな?」


「ええ、父上」


 窓の外を見て、カーテン側に身を寄せたまま娘に語り掛ける父親。


「其方は婚約解消してでもその男を落とし、結婚して子供を作り、誼(よしみ)を結んで我が家が近隣国や王家に覇を唱えねばならぬ」


「承りました」


 どうせ貴族家の結婚なので愛など存在せず、家同士の結婚で、当主である子供を作るだけの機械。


 それならば可能な限り大きい目標で、成果を取らなければならない。


 断罪イベントなどで婚約破棄を言い渡し、腕を組んでヘラヘラしてる男爵子息などを侍らせて、婚約者を国外追放するか、牢屋に入れてその前に立って「翌日には処刑だ、いい気味だ」とか「お前の事はずっと気に入らなかった」とか「ヘイヘイヘイ、今どんな気分~、トントン」と言ってやらなければならない。


 父親と同じ思考回路をしている娘も、王を篭絡して嫁入りして、この世の全てを自らの手に入れることに決めた。


「おほほほほほほほっ」

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