その攻撃力999999。竜の少年、絵物語の冒険譚に憧れ、成人時に冒険者ギルドに登録してしまう。過保護の姉と母親も城砦を包囲してしまい、魔獣達は今日もパニック。
@piyopopo2022
第1話 死の城塞都市
王宮
「騎士団長…… 「王」が移動を開始しました」
「何いいっ?」
部下から報告を受けた団長も顔色を変え、この国の破滅を予想した。
王とは隠語で竜を意味する。
自分の国の国王は陛下と呼ぶので、別の国の国王が兵団を連れてきているのと同格。
その移動は人間などには止められず、天災と同じ意味を持ち、その道筋は血塗られていて、どれだけ強力な魔獣であっても血祭りにあげられ、移動経路に王国や城砦があれば一夜で滅ぶ。
そのブレスは山を砕き、尻尾の一撃だけで城砦の壁は破られ、逃げ惑う人々など蟻の如く、空腹ならスズメや鳩が蟻でも食べるように食われ、金貨でも宝石でも好きな物を持ち去られ、地を這う人間如きが抵抗することは無駄である。
「移動経路は?」
「目指しているのは、城塞都市メルカバであります」
「ああ、その都市は終わった……」
騎士団長も頭を抱えたり顔を手で押さえ、阿鼻叫喚の地獄を予想し、どのようにして市民を逃がすのか? そのことだけを考え始めた。
魔の森
森の中を少年が歩いていた。今年成人で冒険者ギルドに登録ができる年。
なにやら「森のクマさん」的な歌でも歌唱しながら、拾った木の枝でも振り回してゴキゲンで魔の森を歩いていたが、普通人なら魔獣に引き裂かれて食われて死んでいるのが普通。
それでも魔の森の本来の住人は、襲うどころか恐慌状態で逃げ惑い、モーセが海でも割るように歩き、この少年の周囲から遠ざかる事だけを考えていた。
鑑定眼がある者が見れば、種族が「ドラゴン」で、強者が見ればオーラとか気が「シュパアアアアアアッ!」と上がっていて、天にも届くぐらいの凄まじい力の持ち主だと分かる。
少年は長年の絵物語の愛好者で、英雄の冒険譚とか迷宮を冒険して秘宝を見付けるお話が大好きで、自分も憧れて人間の街に行き、冒険者ギルドに登録して、依頼書片手に冒険の旅に出るつもりでいた。
「きゃあああああっ!」
お約束で誰かが襲われている絹を裂くような声が聞こえ、馬車に乗っている第三王女的な人物か、薬草を摘みに来た少女が魔獣に襲われている。
「何だ?」
少年がほんの十キロほど飛んで現着すると、十歳ぐらいの少女を襲っていたクマが「え? 何で」みたいな顔をして腰を抜かした。
後ろ向きに這いずって、首を振ってイヤイヤしながら小便を漏らし、こんな化け物の接近に気付かなかった自分を責め、流石に十キロ先までは検知できなかったので死を覚悟した。
「だいじょうぶ?」
「は、はい……」
お約束の「ぼくはわるいスライムじゃないよ」とか「食べないで」「食べないよ」的なやり取りをして、ついさっきまで危険だった少女を救った。
この少女の場合、強者でも何でもなく、市井の人だったので絶対強者を感知することなどできず、不感症というか検知できる能力が無いので「王」を恐れなかった。
クマの方は情けない声を出しながら腹を見せ降伏。目と鼻と耳から汁を垂れ流して、体中の穴という穴から何か変な汁を出して、ガクガク震えながら死の恐怖に怯えていた。
「あんまり人里に近付くんじゃないぞ」
クマは命を許されたようなので、五体投地して感謝し、王の往く道を邪魔したのを謝罪し、背を見せないようにして退出を始め、何度も頭を下げて感謝しながら逃げた。
「あ、ありがとうございました。病気の母の為に薬草を摘んでた所を襲われて……」
「ははっ、街が近いからって、幾らなんでも魔の森に入っちゃだめだよ」
「す、すみません」
「街まで送るよ。ああ、薬草ならこれをどうぞ」
エリクサーでも作れる薬草を渡してやり、寝たきりの母親に飲ませたりすると、やっぱり「シュパアアアアアアッ!」とオーラを放って、スーパーサイヤ人みたいに地上から十センチぐらい浮いて、髪の毛も逆立って全身金色に光り、明鏡止水モードのGガンダムぐらいに漲り、相手がマスターガンダムでも石破天驚ゴッドフィンガーでヒートエンドできる。
二人というか片方竜は、また森のくまさん的な歌唱などしながら街に向かった。
城塞都市メルカバ
王(竜)が来訪する側の門では、悲壮な顔をした衛兵や冒険者が篝火に火を着けて待ち構えていた。
阪神大震災で大型のガスタンクからガス漏れしたのを待ち構えるみたいに、地面を這ってガスが来れば着火、延焼すればガスタンクまで大爆発するか、無辜の市民がガスで窒息して死ぬかの瀬戸際のような厳重警戒。
反対側の門では竜の到着を知らされた市民たちが、阿鼻叫喚の地獄の中で泣いて逃げ惑い、迷子の子供が「ママーーッ」とか泣いて路傍で親を探していた。
親の方は逃げ遅れれば死ぬので、子供など見捨てて早々に逃げてしまい、子供を探そうともしなかった。
「げふうっ、ゲハッ、オロオロオロオロッ」
若い冒険者はえづきながら、膝着いてゲロ吐いて泣いていた。
「心配スンナ、負けても死ぬだけだ、怖いもんなんかありゃしねえ」
ベテランの冒険者から励まされるが、死の恐怖からは逃れられない。
「世の中には永劫系の呪いとかあってな、永遠に消えない火で燃やされ続けたり、凍ったり石化されたまま意識だけ残る恐ろしい呪いがある、それに比べりゃあ死ぬなんて一瞬だ」
若いのを慰めていたベテランだが、他のまだ無事な冒険者からも声を掛けられた。
「お前はそれでいいかも知れないが、俺には娘がいるんだっ?」
「じゃあ、女房と娘の為に死んでやれ」
「クッ!」
一緒に歩いてきた女の子は厳戒態勢に驚いたが、少年の方は何事も無かったかのように接近した。
そこで街を守っていた衛兵の隊長や、騎士の隊長が目を見合わせ、竜の少年の所まで歩いて来て膝を着いて頭を下げた。
「殲滅竜クライメルク様、本日はどのような御用向きでしょうか?」
そうは言いながら心臓バクンバクンして、ガッタガッタ震えながら聞いた。
「エ……?」
少女の方は、魔の森で助けて貰って、一緒に歌いながら帰ってきた少年が、殲滅竜だと知って絶句した。
二三歩下がって、恐怖しながら上目遣いで見て、膝から下が産まれたての小鹿になった。
クマみたいに直接オーラ見たり恐怖を感じさせられた訳ではないので、おしっこは洩らさなかった模様。
「え~? 俺って人間界ではそんな酷い渾名付けられてたんだ。殲滅竜? 俺は親父みたいに都市とか王国殲滅してないよ?」
衛兵の隊長は恐れながら殲滅竜に言上した。
「ははっ、殲滅竜はお父上時代からのファミリーネーム的な物だとご理解ください」
竜の少年は、木の枝で「武装」している。
もし振るわれでもしたなら、鎧着た全員「あべしいっ」と歌わされ、粉々のバラバラ死体に加工され、第一宇宙速度を超えて2001年宇宙の旅に出られる。
それでなくても「斬ってみればわかるのである」の異世界魔法に憧れている剣神の転生体みたいに、妹の剣聖が全力で斬りかかっても木の枝でペシリとやられ「今のは良かったのである」と返される。
「いやあ、昔から絵物語が好きで、英雄の冒険譚とか迷宮で秘宝を見付けるのに憧れてたんだよ、だから冒険者ギルドで登録して、冒険してみようと思って来たんだ」
「ファッ?」
「フェッ?」
衛兵の隊長とか騎士団の隊長とか、頭の天辺から声出して驚いた。
今回の御来訪の目的は冒険者登録で、都市の殲滅したり王様カツアゲに来たのでは無かった模様。
その場では下級な平民のギルドマスターが呼び出され、まだゲーゲーやってた若い冒険者を横目に、殲滅竜クライメルクの冒険者登録が行われ、最初からS級冒険者として登録された。
「やだなあ、最初はFランクから始めないと。そこから成り上がったり、試験官に挑戦したり色々やらないと」
殲滅竜はギルドに対戦を受けてくれる教官が存在したり、奥にはもっと強い謎のギルドマスターが待機していたりすると思っている模様。
中国の新聞などでも、若者たちに「山の上に神仙がいたり、武道の達人など居ないので、探したりしないよう」お達しが出るのと同じで、そんな物は存在しない。
もちろん教官など指先一つでダウンさせられ、ギルドマスターでもギャグマンガでなくても星に変えられる。
冒険者ギルド
恐れよ、その名は殲滅竜。魔王よりも尊き者、邪神や神に近き者。
全ての力を司る者、全ての恐怖と苦痛を運び来る者。
ああ、それは恐怖その物、苦痛を形作る者。
それは深淵から来た、絶望から来た、恐怖から来た。
「ねえ、登録はして貰えたけど、何か初心者冒険者にオススメのクエスト無い?」
「クライメルク様へのオススメとなりますと「十二魔将討伐」「魔王討伐」「神と対話してこの世を王道楽土(ユートピア)へとして頂く」などのクエストがございますが?」
ギルドの受付嬢が、泣きそうな笑顔というか、泣きながら対応した。
「違う違う、もっと初心者向けの「薬草採取」とか「下水道掃除」なんかのFランクのクエストだよ」
「は?」
受付嬢は「違う違う」と言われた時点で死を覚悟して、「下水道掃除」など神で悪魔にオススメした日には、王家からSATUSUGAIされるので、それも死を覚悟した。
今も王家が放った暗部の人間が多数潜伏していて、もしガラの悪い冒険者が、定番の「お前が新入りか? まだちいせえクソガキが、家でママのオッパイシャブってろや」と絡んだり、歩いている所に足を差し出して転倒とかさせないよう、堂々と吹き矢構えていて、即射殺できるよう待機していた。
もちろんそんなヒョロヒョロの吹き矢、殲滅竜にはかすりもしない。
「ほら、下水道掃除って言えばさあ……」
少年は「養老の滝伝説」的な、親孝行な子供が下水道清掃を仰せつかり、周囲に馬鹿にされながらやっていると、神が砂金を掘り当てさせ、少しづつ溜めて行くと大金になり、大人(たいじん)に出世して親孝行出来て、商売でも成功して一国一城の主になるような話をして、ちょっと感動して思い出し泣きしていた。
「左様ですか……」
受付嬢は「ゲフウッ」とか喀血吐血しながら、自分の胃袋に穴が開いたのを確信した。それでも下水道清掃だけはオススメできないので、薬草採取などの常駐クエストを出した。
神に相応しいクエストとして「この薬草にピンと来たら110番」みたいな、エリクサーとか作れる伝説の薬草を探すクエストを提出した。
「あっ、これ持ってる、何本出せばいいの?」
神なので当然のようにエリクサー作れる薬草複数持っていて、アイテムボックスから買取カウンター山積み芸を始めた。
同じ時系列で、少女が母親にエリクサー飲ませて、母親スーパーサイヤ人になってシュワシュワ言いながら宙に浮いている所で、娘にも飲ませて親子でスーパーサイヤ人になっている。
「おおおおっ!」
もうこの時点でギルドへの貢献度だけでSランク確定なのだが、固辞されてFランクのまま。
薬草自体が殲滅竜などの神気を受けて育たないと出現しない物で、神気をタップリ受けて育った薬草が雑草みたいに巣の周りに生えているので、草刈りした時に沢山回収してある。
逆に言うと竜の巣周囲の各種雑草がエリクサーになる。
「え~、買取金額が国家予算を超えましたので、両替屋への金額上乗せになりますが宜しかったでしょうか?」
口の横からドクドク出血している受付嬢が、買取金額のお知らせをした。
どこかの八男の国みたいに大金を即出してくれないが、ここも隣のSS「竜の花嫁」と同じようにダイソンスフィア上の平面世界で、巨大グループ月極が五掛けで買い取ってくれるので、豊富な資金で「買取できません」は無いが、両替屋への振り込みになる。
「え? 貰い過ぎだよ、普通は薬草三本で銅貨一枚とか、そのぐらいじゃないと」
「はい、エリクサーが作れる薬草は非常に貴重なので、国家予算になってしまいます、ご了承ください」
どうにか対応しきった受付嬢は救護班に奥に連れていかれ、ギルドマスターとかに「よくやった」「後は任せろ」となって、治療呪文受けて胃に空いた穴を治した。
少年は掲示板から「薬草採取」の常駐クエストを一枚剥がして、薬草がある草原へと移動した。
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