あとがきと解説というか「ゼダの紋章」について
【各エピソード解説】
前章0
メロウが実験セカイを創成したという内容で「賢人会議」を開催したという内容です。
「ゼダの紋章」の最終幕は「創世神話編」になると予告されますが、実験セカイ内に神話時代はありません。
いきなり《観測者》メロウがエウロペアで最初の龍虫戦争を戦うことになり、シンクレア・エクセリオンとルイーゼ・ランスロットの活躍で辛勝しますが、その後十年足らずで二度目の龍虫戦争を戦うことになり、劣勢に立たされたエウロペアネームドが皇女アリアドネの力で辛勝します。
一番肝心な伏線は世界制覇の野望というのが「アレクサンドライトの栄光」と呼ばれているものであるという点。
これは勿論、古代マケドニア王アレクサンダーにちなんだものであり、わざと宝石の名前にしてあります。
もう一つ重要な伏線が「白き救世主」です。
これ自体はネームドとネームレスが分岐する前に双方に参加するであろう人類同士でメロウを出し抜く為に考え出されたとなっています。
前章1
「十字軍戦争」の末期にあたり「フェリオ内戦」を戦っていたファーン・スターム(二代剣皇ファーン・フェイルズ・スターム)がエリンの特選隊の残存部隊と合流し、父アルフレッドの悲願だった十字軍戦争の終結を果たすというものです。
本編で詳しく描かれますが儀典史では発生順が「十字軍→大戦」となっているのに対し、真史では「龍虫大戦」「十字軍戦争とフェリオ内戦」「ボルニア戦役」の順であり、女皇戦争の第一回幹部会議でディーンの口からおおまかな話が語られ、番外編で《光の剣聖》であるエドナ・ラルシュにより真実が語られます。
この章から主人公ディーンの前世にあたる《黒髪の冥王》ヴォイドとヒロインであるルイスの前世にあたる《嘆きの聖女》エルザ、最重要人物であるライザー・ウェルリフォート筆頭選王侯爵が登場します。
この話がなんのはじまりの物語かというと、ひとつは《黒髪の冥王》、《嘆きの聖女》、《砦の男》以外にもファーンのように「過去生」を認知する者が現れ始めるというものです。
この物語の200年ほど後に「メイヨール内戦」こと《アリアドネの狂気》と呼ばれる凄惨な出来事が発生します。
もう一つが後にわかる話として21周期で《白痴の悪魔》が誕生したというものと、ライザーが「究極の砦の男」である《ラプラスの魔》ことラプラス・ヴァンフォート伯爵として解脱します。
その際に剣皇エセル・メイヨールと剣皇ディーン、紋章騎士ルイスがこの周期から登場します。
《ラプラスの魔》の真実としては《命名権者》として人の宿命の書き換えも出来るということであり、遂に「解脱」を決意したライザーが《黒髪の冥王》と《嘆きの聖女》を宿命から解放しますが、それがまた新たな悲劇に繋がります。
前章2
女皇戦争編に直結する話としてゼダによる「東征」の開始前夜です。
ようやく「真実の物語」と呼ばれる27周期の話になります。
ゼダ女皇騎士団副司令トリエル・シェンバッハが主人公となり、ゼダによる「オトラリエス電撃攻略作戦」発動を前にその内容をトリエルがオラトリエス側に伝えます。
同時に傭兵騎士団エルミタージュによる「トリエル、アウザール、シャルル暗殺計画」である「リヤド強襲作戦」とその阻止についてです。
「海モグラ叩き作戦」を立案したというのが後の大軍師アリアス・レンセンです。
前章3
女皇戦争編で女皇戦争の最中に起きた「6月革命」のキーマンとなる最後の女皇正騎士ナダル・ラシール誕生の物語です。
劇中で作戦部門担当のイアン・フューリー、バベル・ラザフォード両少佐が話しているのは籠城中のファルマスへの物資搬入作戦についてです。
光の章はナダルの性格的に明るくて、かなりな皮肉屋で、本当は女好きという紳士ぶりを示しています。
闇の章はナダルの業の深さと《執行者》としての悪辣ぶりを示しています。
ここでようやく女皇戦争編主人公のフィンツ・スターム少佐(ディーン)が脇役として出てきます。
エピローグでようやく女皇戦争編でのナダル・ラシールに関して本当の性格面が明らかになります。
前章4
現代編のはじまりの物語です。
つまり実質的な「ゼダの紋章」の第一話にあたります。
主人公のティルト・リムストン、ヒロインのエリザベート・エクセイルの契約内容とティルトの調査旅行の発端。
検証者であるケヴィン・レイノルズ教授がティルトの調査内容を明かされることになります。
あとがき
「ここに物語を描こう」なんて偉そうな書き出しですが、始まりと呼べるものは無数にあり、メロウの作り出した実験セカイ内での物語が延々と続く訳でして、メロウから物凄く恨まれているというか、もともと人間がどっかイカれているのは間違いなくローマ帝国やらその前やらがあったせいじゃんというメロウちゃんなりの解釈(つーか私の認識)があり、ヨソにちょっかい出さなかったマケドニアとローマ帝国はどうなったのかという検証作業を何回もやってしまいましたという話なのです。
人種差別をさせないためにもともと人種的にごっちゃごちゃにしてたり、エウロペアにはあるべき筈のものがない。
一つは「キリスト教」です。
ローマ帝国衰退期に迫害してたこのカルト宗教なんか国教化したせいでローマ帝国は分裂して落ちぶれた挙げ句、頭の悪い方が主流派として残ってしまった。
連綿と紡いできたオリエント世界由来の文明を見事に忘れ去った蛮地ガリアの連中ときたら、衛生観念がないせいでペストを定期的に流行らせたり、古代エジプト人たちの「死者復活」なんていう自然摂理に反した荒唐無稽な妄想をキリスト教にぶっ込み、偉大な思想家イエス・キリストの素晴らしき理想である「博愛と隣人愛」と「政教分離」(「カエサルのものはカエサルのもの」)を見事なまでに破壊しましたし、父と子と聖霊(父がヤーヴェ、子がキリストとして聖霊ってなんじゃい)とかいう「三位一体説」だとか言い出す始末だし、聖母マリアの処女受胎(やめてぇ)とかいい加減にしろよという話をてんこ盛りにして奪えるものはなんでも奪い取ってきた。
それでいてギリシャ、ローマ時代にはかなり進めていた科学文明を「異端」だとかなんだとかで迫害しまくり、兄弟の国だったビザンツ帝国を略奪して滅ぼしてしまいつつ、ギリシャ、ローマ文明の再発見(つーか略奪じゃねーか)を「ルネッサンス」とか、同じ聖典の民であるユダヤ人は迫害しまくるし、サラディンたちムスリムには「十字軍」とか言ってケンカふっかける。
そして「レコンギスタ」(ムスリムのイベリア半島撤退)とかで「遠洋航海術」(羅針盤)、「活版印刷」、「黒色火薬」(3つとも全部シルクロード経由で中国から入ってきたパクリ)を「三大発明」とか吹聴して「大航海時代」とかいう最悪の行為の挙げ句に南アメリカにあった未知の人類文明や人類発祥の地アフリカを略奪してぶっ壊して有色人種を奴隷にするという暴挙。
しかもまあ免罪符売るわ、王権神授説とか言って為政者とモメるわ、金持ちが教皇になるわとやりたい放題。
だーかーらー、隔離処分して「エウロペア大監獄」(「エウロペア大要塞」というのは建前)に閉じ込めて出て来られないようにしてしまいましたなのです。
もう一つがグレートブリテン島とアイルランド島。
つまりエウロペアとヨーロッパの明確な違いはアングロサクソン族とケルト民族の島がない。
じゃ何処にいったの?というとゼダとは英仏愛蘭です。
概念が混在していて、女性君主の国家としてゼダ女皇国はある。
それは東と対になっていて、東にある島国もまた現実と違い、「女性君主」が代々治めてきたという設定で、竹田恒泰先生には怒られそうですが、国のトップは女の人だった方が保守的になるんじゃないの?だってもともと最高神だって歴史記録上最初の国主だって女性じゃんという話です。
だから三貴子も女、女、男にしてあったりとか。(あんまり最初からネタバレするのよそう)
更にヨーロッパ最大の怨念として連綿と続いてきた人種差別の集大成たるホロコーストをやらかしたアドルフ・ヒトラー総統を「邪」の、救国の乙女オルレアンの少女ジャンヌ・ダルクを「聖」のカリスマとして、なんかあったら助けて頂戴とやりましたというのが前章たる剣皇ファーンの章の真相です。
おかげで二人ともボロボロに酷使されて使い捨てられ、人格的にも「殺されて死ぬのが生き甲斐」とかいう壊れる寸前とかいう悲惨な事態になり、《砦の男》ライザー・ウェルリフォートが再誕後のラプラス・ヴァンフォートとして見るに見かねてレッテルを書き換えた。
その結果として、真の愛国者たる剣皇ディーンと紋章騎士ルイスの夫婦(ネタバレしちゃいましたね。というか「黒き森の鎮魂歌」でネタバレてますが)がエウロペア史に産まれることに相成ったというわけです。
二人とも死ぬのなんか怖くないけど、ボク等が死んだ後どうなっちゃうの?と考える人たちになりましたし、《黒髪の冥王》はセカイを組成するナノ・マシンたちに、《嘆きの聖女》は新たなる人の雛形に愛されまくり、遂には忖度されるようになっちゃいました。
それで悲願だった「天寿全う」が果たせる目処が立ったことで「解脱」しちゃいますし、誰かさんはこの世で一番怖いものは暴走した愛妻という恐妻家に、誰かさんは念願叶って・・・となります。
しかも《黒髪の冥王アドルフ》だったディーンは自分を散々ボロカスに書き記した歴史そのものを、全ての人にとって理想的な文明成立史である「偽典史」と、醜悪すぎて誰にも真相を知られたくはない「真史」とに分けてそれぞれ記していた。
誠意があるからこそ、自身が嘘つきのフィクションライターとなり、鮮やかに全てを解き明かすティルト・リムストンの歴史的登場を冥府でひたすら待っていた。
神無きセカイで《嘆きの聖女ジャンヌ》が神じゃなきゃ誰の声を聞いていたかと言えば「知的生命体なのにそれと認めて貰えない存在の嘆き節だった」。
そんなものが聞こえると言い出すからアタマおかしいと毎度「魔女」として火あぶりにされてきたけれど、《嘆きの聖女》の本来の役割とは「王に相応しき者を王位に就けること」であり、その本質だけはずっと変わらなかった。
女皇の全権代理人たる紋章騎士となるルイスは一途にそれを守ります。
自身が支配者たる王に?そんなことは露ほど考えずに、自身の女性としての幸福をただ追い求めていた。
エウロペア最大勢力たるゼダ女皇国という国名にも皮肉が込められているなら、特記第6号条項にも、13人委員会にも、タイトルの「ゼダの紋章」も皮肉まみれです。
それでいて「白き救世主」を誕生させようという計画が存在する。
エウロペアにおける「十字軍」というのも聖地奪還とかいう馬鹿げた動機ではなく、剣皇アルフレッド・フェリオンとその息子である剣皇ファーン・フェイルズ・スタームによる秩序回復闘争であり、流浪の法皇にセカイに秩序齎す国を与えた。
エウロペアの唯一信仰たるファーバ教団成立についても賢人会議でよく話し合って決められていて、仏教ベースの「愛別離苦」「因果応報」「諸行無常」に「博愛と隣人愛」「奇跡はある。奇跡を起こすのは一途な者たち」「人は皆、生命の樹の種子としての神の子であり神となりうる可能性を秘めている」「唯一神創造神はなくとも真理と戒律は存在する」「そこに在るものを皆で分かち合えば心が満たされる」「人の死とはその人にとって大切で忘れがたき人の記憶の死だ」というイエス・キリストの思想を多分に盛り込んでいた。
「未来を次の世代に委ねていく」というのも「セカイは美しい。何故ならそれは紛い物であれ、人の無償の愛が紡ぎ出し、命を賭して守ってきたもの」「究極の隣人愛とは敵を持たない。“無敵の存在”とは個としては不完全であれ、敵を愛し理解し、分かり合おうと全精力を注ぐ者」という明確な思想が背景にあります。
その上で神無きセカイで人の身でありながら神の域に到達した「カムイ」は出現し、剣聖名として神という単語が入る者と、悲劇を通じた真理到達者は増えていき、その先に「白き救世主」は自然誕生します。
ただ、作者の私自身が素直な人間ではなく、人の生とは罰だと考えている不届き者ですから、「因果応報」で自分の描いた物語のアイロニーに罰せられると思っているし、万人に受け入れられるとは最初から思っていません。
ある種の誤解を怖れなかったし、ある思想を信じている人の純粋さを裏切った。
でも、聖書の言うことが本当なら死者が復活するけれど、それって死に損ないのゾンビまみれの歪んだ世界じゃないの?
それよりも人が人として輪廻転生を続け、過去の反省から異なる生き方と反省やセカイへの責任を感じ、正解を求めてひたすら足掻く方が余程美しいのでない?という問いかけがあります。
賢人会議の席上でその場に集められた人々を愚者だと指摘した人物についても名前を記すと色々と厄介なので物語の終わりまで完全に伏せますが我々は知っている人なのです。
「民と共に国を守る以上の正義など存在しない」と主張した人も名前は明かしませんが、皆知っている人です。
あっ、そういう話なんだと思って読み進めてくださることを期待しています。
未熟者ですが、そんな事を考えつつ、「やがて死に至る病」を抱えながらいけるところまで行くつもりでおります。
ご愛顧くださいとしか他に言うべきこと、伝えるべきことはありません。
「ゼダの紋章」本編について読んだ上で、どうしても分からないことや疑問に思うことなどを改めて問い直したりする場合に「前章」をもう一度読み返してください。
「剣皇」というけったいな人を用意しなければならなかった事情、法皇が国を持った事情、ライザーという人が必要だった事情、ルイスが紋章騎士となった事情が見えてくる筈です。
そして、嘘つきディーンがティルトを求めていたという事情も見えてきます。
永井 文治朗
ベーンネームの永井は母方の姓(母方祖母の姓)であり、永井荷風や三島由紀夫(祖父が幕臣永井尚志)とは血統的には多分ほんのちょっと繋がっています。
文治朗も微妙に変えていますが失敗者として道半ばで命絶った曾祖父の名です。
要するにボク自身も人生の「負け組」です。
三島由紀夫の愛国者としても想いも伝わらず、「何考えてんだ」と嘲笑されましたのでボク自身「何考えてんだ」と嘲笑されるであろうと思っています。
【捕捉】
前章自体が5つのエピソードから成る物語であり、多分読みづらい(実は編集と校正もしづらい)と想われましたので各エピソード毎に区切りました。
ゼダの紋章 前章 永井 文治朗 @dy0524
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