4 おひなさまと…(4/5)

そう考えて、わたしははっとしました。

そうだ、魔法!わたしも魔法使いなんだもん。

せっかくの機会がもっと楽しくなるように、考えなくっちゃ。

今の遊びから、わたしはすぐに思いつきました。

「ミラクル・ドリーミング」

わたしはいつもかけているペンダントを、大きな魔法が使えるようになるステッキに変えます。

そして何か踊る曲をかけてくださいってお願いしました。

するとCDラジカセが出てきて、音楽が流れ始めます。

ゆっくりとしたテンポの曲でした。

これなら踊りやすそうです。

わたしはみんなに呼びかけます。

「みんな、曲をかけたので踊ってみてね」

そんなわたしの声におひなさま達が振り向きます。

そして楽しそうに、音楽に会わせて踊り始めます。

やっぱりおひなさま達は、動くのが大好きみたいだね。

普段は大人しく立っているからかな。

真美ちゃんはおひなさま達に誘われて、一緒に踊っています。

本当にうれしそうな、とびっきりの笑顔をしているよ。

大好きなおひなさま達と一緒に遊べて良かったね。

そうわたしもうれしい気分になって、そんな真美ちゃんを見ていました。

そんなわたしのところにも三人官女さんが来て、誘ってくれます。

真美ちゃん家のおひなさま達にとってわたしは、初めて会ったようなものです。

だから誘ってもらえて、さらにうれしい気持ちになりました。

でも自分で音楽をかけてみたのに、わたし達は踊り方を知りませんでした。

おひなさま達が教えてくれるのを、まねしてやってみます。

おひなさま達はうなずいてくれていたから、なんとか踊れていたのかな?

どっちにしても、とっても楽しかったです。

次々流れる音楽に合わせて、踊り方を変えていきました。

ゆっくりした曲に、元気な曲といろいろあったよ。

そしてそろそろ踊り疲れてきた頃、五人囃子さん達が手を上げました。

するとみんな踊るのを止めて、静かになって五人囃子さんを見ます。

わたしもCDを止めました。

何かな?

不思議に思っていたら、なんと五人囃子さん達が、それぞれの楽器で演奏を始めてくれたのです。

うわあ。あの楽器も、今は本物になっているんだね。

笛も鼓も心に響く音だし、みんなとっても上手です。

わたしと真美ちゃんは、座って聴き入りました。

わたしは今までに聴いたことのないような大人の曲だったけれど、なんだかわくわくしたよ。

だってこういう楽器の音って、なかなか聴けないものだよね。

日本の伝統の楽器だけの演奏って、テレビでなら見かけたことがあります。

でも直接っていうのは機会がなかったです。

だから2つの意味で貴重な経験でした。

演奏が終わると、みんなで大きな拍手をします。

ポッコロさんも清々しい顔をして、息をつきました。

「何ともいい演奏だったな。

五人囃子がこういうふうに演奏してくれるなんて、珍しいんだぜ。

聴けてよかったな、お嬢ちゃん」

真美ちゃんもわたしもうなずきます。

「本当に素敵だったね」

そう2人で笑い合いました。

でもポッコロさんは、今度は困った顔になります。

「ありゃあ。今日は長くいすぎたな」

その言葉に時計を見ると、ポッコロさんに会ってから1時間以上経っていました。

針が3時に上ろうとしています。

夜中の3時って、お化けのおやつの時間だよね。

説明をしてもらったり、色んな曲で踊ったり、演奏を聴いたり、盛りだくさんだったもんね。

楽しくて、いつの間にかこんな時間になっていました。

「みんな戻れー」

そうポッコロさんが、少し急いで声をかけます。

するとお人形さん達はまず、着物をキレイに直し始めました。

1人で直すのが難しいことはお互い手伝って、きちんと整えていっています。

着物って、動き回るとすぐにくずれてきちゃうものだもんね。

だからわたしには難しくて、七五三でしか着たことがないんです。

終わったお人形さんから、ぴょっこんぴょっこんとひな壇に戻り始めます。

でもその前に、みんな真美ちゃんのところに行って、握手をしていくのでした。

そのことに真美ちゃんは感動して、泣いています。

「みんな、ありがとう。また会おうね」

今までこういうふうに会ったことはなくても、心は通じていたことのわかる場面です。

そしてひな人形さん達は真美ちゃんの次に、そう見ているわたしのところにも来て、手を差し出してくれました。

「わあ、わたしも?ありがとう」

小さくてキレイな両手で、人差し指を握ってくれます。

お人形だから本当は、おひなさま達の手はひんやりとしているはずです。

でもその時は温かく感じました。

友達の輪の中にわたしも入れてもらえて、本当にうれしかったです。

そうしておひなさま達がみんな自分の位置に戻りました。

するとポッコロさんは、杖の端と端を両手で持って高く上げます。

するとみんなぴたっと止まりました。

これが魔法の止め方なんだね。

みんなすっかり普通のお人形になりました。

でも、あれ?

よく見ると、おひなさま達のほっぺがほんのり赤いです。

それに今まで見た時よりも少しだけ、優しい幸せそうな表情をしています。

そう気付いたわたしに、ポッコロさんが教えてくれます。

「持ち主のお嬢ちゃんと遊べて、よっぽどうれしかったんだな。

時間が経つと、だんだん元の顔に戻っていくよ」

そうなんだ。だったら明日の朝、真美ちゃんのお母さんにもわからないよね。

真美ちゃんはそんなおひなさま達をうれしそうにながめていました。

おひなさま達と同じように、そんな真美ちゃんのほっぺも幸せそうな桃色になっているよ。

元気に動き回ったから、わたしもそうなっているのかな?

それから真美ちゃんは、おひなさま達を1つずつ手に取り始めます。

「でも位置はちゃんとしておかないとね。

みんな、どうもずれてるんだもん。

お母さんにも不思議に思われちゃうよ」

そういいながら大切そうに、そしてキレイに並べています。

真美ちゃんは毎日そうしていただけあって、慣れているようです。

わたしから見ると、それはちょっとの差のように感じます。

でも真美ちゃんには、おひなさま達の場所はここって、ちゃんとわかるんだね。

真美ちゃんが並べている間、ポッコロさんは黙って待っていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る