4 おひなさまと…(1/5)
4-おひなさまと妖精さん
下は電気が点いてなくて真っ暗です。
わたし達はリビングに行くと、おひなさまがある隣の部屋のふすまをそっと少しだけ開けてみました。
まだ何も起きてないみたいだね。
何も変わっていないのを確認すると、少しすき間を開けたままにしておきます。
これから何か起きた時に、すぐにここから覗けるようにね。
それから背中をおひなさまの部屋のふすまに向けて、すぐ側に座りました。
できるだけ近くにいて、小さな音でも聞こえるようにです。
電気を点けると向こうが気にして、その不思議なことが起きなくなるかもしれません。
だから、窓からのお月様のぼんやりとした明るさの中で待っています。
お話もできないので、2人でどきどきしながら静かにしていました。
これは大分大変だったけど、一生懸命がまんです。
時々真美ちゃんと顔を見合わせて、瞳と瞳でがんばろうねってはげましあいました。
緊張していたので、2人とも眠くなりませんでした。
そしてがんばったかいがありました。
大分時間が経って、隣の部屋から、何かがトントンと跳ねているような音が小さく聞こえてきたのです。
時計を見てみると、1時を少し過ぎたところです。
--何かな?
わたし達は向こうに見つからないように、そーっとふすまに近付きました。
そしてすき間からやっと見えるギリギリのところから覗いてみました。
するとなんとそこで、小さな人が1人、向こうを向いて跳ねていたのです。
着ているお洋服も長い帽子もみんな緑色で、10㎝くらいの大きさの人かな。
おひなさま達を見ているみたいです。
わたしはその姿を見て思い当たりました。
ああっ!あれは……、妖精さん!
妖精さんを知っているわたしも驚いたし、真美ちゃんはもっと驚いています。
それはそうだよね。
普通の子は妖精さんが本当にいるということに、まずびっくりします。
でもこの状況だと、説明している余裕はありません。
それにわたしも、なんで妖精さんが来たのかわからないし。
でもおひなさま達が動いていることに、きっと関係があるんだよね。
わたし達はこれから何が起こるのか知りたくて、まだなんとか静かに見ています。
その妖精さんはさっと杖を取り出して、指揮をする時のように振り始めました。
見ていると楽しくなってくるような、元気な振り方です。
するとなんと、おひなさま達みんなが動き出し始めました。
そしてぴょっこんぴょっこんと跳ねながら、ひな壇を降りてきたのです。
ひな壇の前に、ずらっとおひなさま達が勢ぞろいします。
こうやって妖精さんの力で動いてたんだあ。
わたしは納得してうなずきました。
普通に考えると不思議だったけど、妖精さんの力があれば簡単なことです。
でもまさか妖精さんがやっていたとは、思いつけませんでした。
妖精さんはそんなおひなさま達を見て、満足そうにうなずいています。
それから突然、わたし達に話しかけました。
「そこに隠れているのはわかってるんだぜ。妖精さん」
おじさんのような声で、落ち着いた言い方です。
妖精さんが手を下ろすと、おひなさま達もまたぴたっと止まります。
そう気付かれていたことに、わたしはとってもびっくりしました。
一生懸命大人しくしていたけど、やっぱり不思議な力を持った人にはみつかっちゃうね。
そうちょっと困った気持ちにもなりました。
でもその妖精さんが思い当たる人だったこともあって、わたしは笑顔で出て行きます。
「はーい、そうです。はじめまして、妖精さん」
すると妖精のおじさんからも笑って返されました。
「おう、はじめまして。妖精のお嬢ちゃん」
さっきまで緊張した気持ちだったのに、そういきなり仲良くあいさつをしているわたし達です。
でもどの妖精さんに会った時も、いつもこんなふうなんだよ。
そんなわたし達のところに、真美ちゃんも出てきて聞きました。
「みかんちゃんは、その妖精さんを知ってるんだね?
それに、魔法使いのことも妖精っていうの?」
その声に振り返った妖精さんは、真美ちゃんにも驚いた様子がありませんでした。
そしてその質問に元気に答えてくれます。
「おうよ。お嬢ちゃんは人間だな。
本当は人間にはみつかっちゃいけないんだけど、まあこのひな壇の持ち主だからいいか」
そう妖精さんはひな壇を振り返ってみて、自分で納得していました。
それから詳しく説明をしてくれます。
「神様から特別な力を与えられて、助けを仕事とする者を妖精っていうんだ。
この世界に生まれたみんなを幸せにするために、どの妖精も日々がんばっている。
で、担当する者が振り分けられていて、同じ担当同士と、担当されているものには魔法使いと呼ばれるのさ。
担当が違う相手のことは、敬意を込めて『妖精さん』と呼ぶことになっている、そういうわけよ」
妖精さんはそうすらすらと、上手に教えてくれました。
つまりわたしの場合は動物担当なので、その動物みんなや、お母さん達同じ仲間からは魔法使いと呼ばれます。
その他からは妖精さんと呼ばれるということです。
「妖精さん」って呼ばれるのは慣れていないから、照れちゃうけどね。
それから妖精のおじさんは付け加えます。
「自分とは違う妖精さんのことは話に聞いている。
だから実際に会ったことがなくてもわかるんだ。
それに仲間だから、初対面でもこうやって仲がいいんだな」
わたしもその言葉に大きくうなずきます。
うん、わたしもそう妖精さんのことを聞いていたから、わかったんだよ。この妖精さんは、かわいい格好をしているよね。
絵本に出てくる小人さんのようなその姿を、魔法使いの本で見たんです。
その時から気になっていたから、こうやって会えてとってもうれしいな。
妖精さんの説明には難しい言葉もあったけれど、真美ちゃんはちゃんとわかったようです。
「そっか。みかんちゃんと妖精さんはその担当が違っているだけで、おんなじことをしている仲間なんだね」
のみこみが早い真美ちゃんに、妖精さんは元気にうなずきます。
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