3 魔法使いのお仕事(後)
そうよくよく見ていると、後ろから思いがけず声がしました。
「大きな雛人形が夢だったの」
突然の真美ちゃんのお母さんの登場に、わたし達はびっくりして振り返ります。
今の話、聞かれちゃったかな?
わたし達は、作戦が知られて、真美ちゃんのお母さんに変な顔をされないかと、どきどきしました。
でも真美ちゃんのお母さんは、おだやかな顔をしています。
聞かれていなかったようです。
お母さんはそんなわたし達の様子を気にしないで、話を続けます。
「私の雛人形は、2段の三人官女まででね…。
-それでも、大事な物にはかわりなかったのよ。
ひな祭りが近付くと早くに出してもらって、毎日見ていたくらいなの」
そうわたし達に慌てて付け加えてから、またおひなさまを見てうれしそうにいいます。
「でもこうやって何段もあるような雛人形を飾るのが、子どもの頃からの憧れだったの。
どう?素敵な雛人形でしょ?」
お母さんの言葉に、わたし達はうなずきます。
そしてうれしい気持ちにもなりました。
真美ちゃんのお母さんは、その夢をずっと持っていて叶えたってことだもんね。
だからか、とっても誇らしそうに見えます。
それから大切なことをいってくれました。
「でもね、その私の雛人形も、今でも大切に部屋に飾っているの。
家に大きいのが増えたって、小さい頃からの私の宝物だからね」
そうおちゃめにウインクします。
その言葉に、真美ちゃんも元気に答えました。
「うん。わたしも、お母さんみたいに大事にするよ」
そんな話を聞いていて、わたしはこの親子に感心しました。
2人ともとっても素敵だなあ。
真美ちゃんもお母さんも、本当におひなさまを大切に思っているんだね。
真美ちゃんがおひなさまを特別大事に思っているのって、もしかしてそんなお母さんを見ていたからもあるのかな。
よーし、そんな大事なおひなさまなんだもん。
何で動いたりするのか、絶対に謎をとかなくちゃ。
わたしはますます気合いが入りました。
それからすぐに、真美ちゃんのお父さんも帰ってきました。
みんなからのリクエストで、お夕飯の前にちょっと魔法を披露したよ。
いろいろな物を出してみせたら、みんなびっくりしていました。
真美ちゃんのお父さんもお母さんも、魔法はテレビで見たりすることはあっても、実際に見るのは10年に1度もないっていっていました。
だからとっても喜んでもらえたよ。
感心してもらうと、わたしはやっぱり得意気な気分になっちゃいます。
その後で、真美ちゃんのお母さんが腕によりをかけて作ってくれたお夕飯を食べました。
気を使って、わたし達子どもが好きなメニューにしてくれました。
真美ちゃんの家族に混ぜてもらってのお夕飯は、とっても楽しかったし、おいしかったよ。
こういうふうにお父さんがいたり、兄弟がいる家族に、わたしは憧れちゃいます。
わたしには最初からお父さんがいないし、4歳の時におばあちゃんの家を出てからは、ずっとお母さんと2人暮らしだからです。
あ、でもお母さんはわたしのことをよく考えてくれているから、普段寂しい思いはしてないよ。
それからわたし達の計画では、すぐに寝る時間です。
パジャマを着たり、歯磨きをするわたし達は、不思議そうな顔をされました。
「こんなに早く寝るの?」
そう聞かれた時は、ちょっと返事に困りました。
普通お泊まり会って、逆にいつもより遅く起きているものだもんね。
お友達と遅くまで遊んだり、お話するのが楽しみで来るんですから。
すぐに寝るなんて、おかしいって思われてしまいます。
「いつ眠くなってもいいように、準備だけしているの」
そう真美ちゃんが上手に答えてくれました。
でも本当は用意ができたら、すぐに眠ります。
真美ちゃんのお部屋で遊ぶといって、わたし達は2階へ昇っていきました。
今は8時少し前だから、4時間もあるよ。
お昼寝したのと合わせると、7時間にもなるね。
いつもよりは少ないけど、調べ終わったらまた眠れるんだし、バッチリです。
真美ちゃんが目覚まし時計を12時にセットしました。
わたしは使ったことがないけれど、合わせた時間になると音が鳴って知らせてくれる、便利な時計です。
こんなに早いのは、サンタさんが来るクリスマスイブくらいだけど、わりとすぐに眠れました。
ピピピピピピ…♪
?何の音かな?
真っ暗な中、わたしは何かの音で目が覚めました。
何だかわからないまま起き上がります。
それから、寝ぼけたまま周りをきょろきょろ見回しました。
でも聞き慣れていない音なので、今のわたしには何だかわかりません。
すると一緒に起きた真美ちゃんが、眠そうに目をこすりながらいいました。
「もう時間なんだね…」
そして目覚まし時計の上にあるボタンを押しました。
すると音が止まります。
そうか。あれは目覚ましの音だったんだね。
…ということは、今は夜中の12時なんだ。
そうわかると、わたしはバッチリ目が覚めました。
眠たさよりも、おひなさまの謎を知りたい気持ちの方が大きいんです。
今までにたくさん寝たから、もう充分!
「よーし!がんばって原因をみつけようね」
わたしは右手を挙げて、そう気合いを入れました。
でも真美ちゃんのお父さんとお母さんに聞こえないように、小さな声でね。
2人の部屋も同じ2階で、そしてお隣がお母さんの部屋なんだもんね。
気を付けないと、すぐにみつかっちゃうよ。
真美ちゃんはわたしの言葉に、まじめな顔でうなずきます。
そして急いで簡単な準備をすると、わたし達はそっと階段を降りていきました。
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