1 おひなさまを出す日にち(後)
するとももちゃんと桜ちゃんが、わたしとは逆のことをいいました。
「わたし達の家は、今年は15日に、家に帰ってから出したよ。
毎年バレンタインデーの次の土曜日に出すことにしてるんだ。
そうすれば安心して長く出しておけるでしょ」
バレンタインデーが終わった、本当にすぐ後に出してるんだね。
その日付から指折り数えてみたす。
「15日も入れて数えると、20日間になるね。
だったらクリスマスツリーと同じだよ」
わたしがぱっと笑顔になると、桜ちゃんがいいました。
「ね、いいでしょ。みかんちゃん。
みんなもそうすれば問題ないんじゃない?」
「うん。来年からそうしよう」
そうみんなでうなずきました。
これで問題は解決です。
そんな時、わたしはお呼びがかかりました。
「みかんちゃん、廊下から呼ばれてるよ」
そう港くんの言葉に教室のドアを見ると、前の扉に2人の女の子がいました。
2人とも1年生くらいに見えます。
「きっと『魔法使いへの頼みごと』だね」
そうかっこよくいう麻緒ちゃんの言葉にうなずきます。
「うん、そうだね」
わたしが魔法使いだということはみんなが知っていることなので、時々頼みごとをされます。
わたしが解決できないこともたくさんあるけど、魔法使いは人助けがお仕事なので、できるかぎりがんばろうと思ってるよ。
こういう時、もっとたくさんの魔法が使えたらいいなあって思います。
「はーい」
わたしは前のドアに駆けていきました。
廊下に出ていくと、その2人が自己紹介をしてくれました。
「こんにちは。はじめまして。わたし、1年2組の三条真美です」
「こんにちは。同じ1年2組の沢田千枝です。
今日はぜひみかんちゃんに相談したいことがあってきました。
ね、真美ちゃん」
めがねをかけている千枝ちゃんが、長い髪の真美ちゃんにいいます。
真美ちゃんはうなずきました。
「そうなんだ。はじめまして。みかんです。
相談したいことってなあに?できる限りお手伝いするよ」
わたしがいつものようにそういうと、真美ちゃんが話してくれました。
「もうすぐおひな祭りだから、わたしの家、いつものようにおひなさまを出したの」
今みんなと話したばかりのことなので、余計まじめにわたしは聞きます。
「わたしおひなさまが大好きで、毎日朝起きたらあいさつしてるんです。
他にもよくおひなさまに会いに行くけど、不思議なのはその朝最初に行った時なの。
出してからずっと1週間くらい、なんだかおひなさま達お人形の場所が毎日動いているみたいなんです。
その時にちゃんと元通りに直すんだけど、次の日にはまた少し動いてるの。
わたしの家のおひなさま、もしかして夜に動いているのかな?
それをぜひ魔法使いのみかんちゃんに、教えてもらおうと思ったんです」
「ひな人形って動いたりするんですか?」
真美ちゃんの説明の後、千枝ちゃんにそう聞かれて、わたしはまじめに考えました。
「うーん。普通おひなさまは動いたりしないよねえ」
本当にとっても不思議なお話です。
魔法使いのわたしも、そういう話は聞いたことないなあ。
-普通はないけど、でも毎日動いているなんて何かありそうだよね。
確かめてみなくっちゃ。
わたしはそう考えて聞いてみました。
「じゃあその真美ちゃん家のおひなさま、見に行ってもいい?見たら何かわかるかも」
魔法はそんなに使えなくても、魔法使いとして不思議なものがわかる力はあるからね。
もし不思議な物だったら、お話とかできるかもしれません。
すると真美ちゃんはぱっと笑顔になりました。
「うん。ありがとうございます!じゃあ今日、家に来てください」
「よかったね!真美ちゃん。じゃあ帰りにまた来ます」
そういって2人はうれしそうに、トタトタと走って帰っていきました。
そんな真美ちゃん達を見送りながら、考えます。
うーん、動くおひなさまかあ。やっぱり普通のお人形じゃないのかなあ。
物というのも実は、使われることによって心を持ってきます。
その物の心というのが普通はとても弱いから、300年は生きた魔法使いがやっと、心の強いものからわかるようになっていくそうです。
でもたまに普通の人でもわかるくらい、とても強い心を持った物もいます。
真美ちゃん家のおひなさまはそれなのかな?
…まだ全然わからないけど、悪い理由じゃなさそうだなあって予感がします。
なんだか今回のお仕事はとってもわくわくします。
(私よりも若い世代の人向けへの 時代背景の解説)
冒頭で(第4土曜日だから休み)と書いていますが、
これは第2、第4土曜日が休みの時代ということで書いています。
この物語は異世界の話なので、厳密にその年代の話とはいえないですが。
今は週休2日制ですが、昔の学校は土曜日は午前中授業で(給食はなし)休みは日祝だけでした。
それが92年に第2土曜日は休み、95年から第2、第4土曜日となり半分、2002年からは週休2日になりました。
私は小1の時が91年、02年の時は高3だったので、全パターン体験できました。
土曜日も毎回授業がある小1の時は、その分平日も4校時で終わりだったような記憶があります。(4校時でも、土曜日以外は給食がありました)
半日授業の特別感も好きだったので、土曜日の半分が休みの頃が1番好きでした。
それでこの物語にも採用しているわけです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます