第四話 新たな勇者 -Julius Side-

 俺の名は勇者ユリウス。

 フェアリーのタニスと魂の契約を交わし、新たな勇者として国王アーキノフ様に認められた男だ。


 想定していたものとは少し違うが、アストは偽証罪で追放された。

 全くいい気味だぜ。 俺より先に勇者になるからそうなるんだ。

 本当に勇者に相応しいのは誰なのか身を持って知っただろうよ。

 俺が少し街を離れている間に、あいつは出て行ったらしいが、国民から石なんかぶつけられて、まるで害虫のようにお前は非難を受けてたって聞いたよ。 残念……本当に残念だよアスト。

 お前の落ちぶれた姿を見れなくてよ。

 間に合わなかった事が悔やまれるぜ……くっくっく。

 まあ、あいつとは色々あったが、最後の最後でちょっと俺も可哀想な事をしたと思ってるよ。



「思ってもないくせに」


「なんだよタニス、あいつらがいなくなったおかげで俺達が次の勇者としてアーキノフ様のお眼鏡にかなったんだからな」


「うふふ。 〝いなくした〟の間違いでしょ?

貴方って残酷な人」


「そう言うお前だって、フュリンをぶっ殺したいって言ってたじゃないか。

フェアリーの世界はよく知らんが、勇者を引き出す素質が一番優秀って事でフュリンが大精霊の称号を貰ったんだろ?

女の嫉妬は怖いぜ全く。 魔物を仕掛ける計画を話した時に、ゾクゾクするって言ってた奴がよく言うよ」


「嫉妬ならお互い様でしょ。

それにそのおかげで、あなたは勇者になれたのよ。

背中の聖剣が、勇者の証」


「当たり前だ。 俺に手に入れられないものはないんだよ。

どんな地位も名誉も、俺にかかれば一瞬さ」



 俺は今ラムリース城下町の酒場で待ち合わせをしている。

 勇者パーティーの顔合わせってとこだな。

 それにしても待ち合わせの時間だと言うのに、まだ誰一人として来ないじゃないか。

 欠陥なのは元勇者だけじゃなかったか。



「あ……あいつらじゃない? ゼノスに、クウォンに、ヴァールでしょ、最後の……無口なリミア」



 先頭を切ってこっちの席に向かって来る巨漢が聖騎士ゼノスか。 確かに威圧感はあるな。

 揃いも揃ってノコノコ来やがって、勇者を待たせんなよクズが。



「あんたがユリウスだな!

俺はクウォンだ! 拳聖まで昇り詰めた男だ!

よろしくな! ユリウス!」


「ヴァールです。 素敵な彼女を連れてますねぇ。

今回はまともな勇者のようで良かったですよ」


「リミアよ。 よろしく」


「私がゼノスだ。 早速今回の作戦について話そう」



 おいおいおっさん。 勝手に仕切るんじゃねえよ。

 このパーティーで一番偉いのは誰かを分からせてやるか。



「おい待て。 話をする前に決めておくべき事があるんじゃないのか?」


「決めておく事? 話してみてくれ」


「リーダーだよ。 パーティーを纏める人間で戦いの勝敗が決まる。

ハッキリ言うが、俺がリーダーをやる。

異論あるか?」


「……いや、俺は特にねぇけどよ。

んじゃ頼んだぜ! リーダー!」


「私も、貴方がリーダーで問題ないわ」



 ふふ……当然だ。 あとは、ゼノスとヴァールだな。

 こいつら納得してないって表情を浮かべてやがるが、さっさと従えばいいんだよ。



「ゼノスとヴァール、何かあるんだったら遠慮なく言ってくれ」



 内心はイライラしている俺も、冷静に二人に話しかける。

 あくまでも紳士的に、真の勇者はどんな残念な仲間でもそいつ目線に立って接する。

 このユリウス様がクズどもに合わせてやるって事だよ。

 感謝しろよクズども。



「いや、少々驚いたのだ。

ユリウス、君がリーダーをやる事には異論はない」


「ですね。 私もびっくりしたんですよねぇ。

前の勇者は、超控えめだったので」


「そうか。 だが前の勇者は偽りの勇者だった。

俺がこのパーティーに入ったからには、しっかりと勇者として任務を熟すから安心してくれ」


「おう! 頼りにしてるぜ! ユリウス!」



 さて、真の勇者の作戦会議を始めるとするか。

 俺はパンパンと手を叩くと、食卓に豪華な料理が次々と並べられていく。

 酒場内にいる人間全員が、俺達のテーブルに運ばれてる料理が気になってチラチラと視線が合うな。

 ふふふ。 凄いだろ庶民ども。

 同じ高さのテーブルでも、〝ここ〟と〝そこ〟じゃステージが違うんだよ。



「お、おいおい! なんだよこれ!?

ユリウス、これはあんたが?」


「まあな。 遠慮なく食べてくれ」



 こんな繊細で美しい料理は、城下町の酒場では絶対に食べられないだろう。

 そう、俺が別の料理店から特別に用意させたものだからな。

 この辺の値段はせいぜい三百キャルト前後だろうが、今回用意した料理は貴族の中でも上流階級の者しか利用できない超高級の料理店トラウアヘンナで特に人気のあるものだけを厳選した。

 値段で言うと五千キャルト以上か。

 どうだお前達、こんな勇者は未だかつていなかっただろう。

 くくく……皆無言で食べてやがる。

 流石のクズ仲間どもも、これで如何に俺が偉大な勇者であるか分かっただろうぜ。

 分かったか、クズどもめ。


 食事をしながら俺達は、今回ミッションについて話しているんだが

 内容を聞いてガッカリした。 作戦の内容がその辺のギルドが請け負うようなミッションじゃないか。

 そんなのもっと下の奴らに任せればいいんだよ。

 俺は勇者だぞ? こんなカスみたいなミッションよりも、魔界に攻め込もうぜ。

 それが勇者ってもんだろうがよ。

 お前ら魔王を倒したパーティーなんだろ?

 何で誰ももっとビッグなドリームを見ないんだよ。

 本当にクズだな。

 作戦の内容を進めてるゼノスに流石の俺も待ったをかける。

 


「話を進めてるところ悪いが、このミッションは俺達がやるべき事ではないんじゃないか?」


「……と言うと?」


「俺達はもっと大物を叩くべきだと思ってる。

このミッションは、ギルドに回してやった方がいい。

魔王が死んだとは言っても、魔界は今も存在し、魔族が生きてるんだ。

俺達の目標は世界に平和を取り戻す事。

今回のミッションはギルドに任せて俺達は、魔界に行くべきだ」


「ふむ。 確かにユリウスの意見も一理あるな」



 一理どころじゃなく、そうすべきだろうがクズが。

 勇者が雑魚狩りしてたんじゃ格好つかないだろ。

 魔物狩りなんてその辺の奴らに任せりゃいいんだよ。



「本当に今回の勇者様は、頼もしい限りですねぇ」


「だな! ヴァール!

よし! 俺はいいぜユリウス!

あんたについてくぜ!」


「ありがとうクウォン」



 本来は俺が話すまでもないんだよ馬鹿が。

 まぁ他のメンバーも皆納得してるみたいだし、これで魔界をぶっ潰せば俺は世界から認められる。

 そうすれば俺の国を作るのも夢じゃないな……くっくっく。

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