第8話


椿は、現代の人間といえど遊郭の知識はゲームやテレビなどで多少なりとも知っていた。

遊郭に入れられた人間に自由は無いことも、花魁と呼ばれる人間を檻からだしたいのならばお金を積まなければならない事も知っていた。

それが客から人気の高い人ほど、金が釣上がるのも知っている。

まるで人身売買だが、その人と自由になって愛し合いたいのなら、必要なのは金。金なのだ。


結局、世は全て金で解決出来るのは昔から変わらないらしい。


そんな皮肉を考えながら、椿は遊郭に寄った足である場所へ向かった。


椿は今、女将の旦那から借りた小さな一戸建てに今は住んでおり、茶屋でバイトしながら、時々旦那や女将から少々お金を出してもらったりして日々を過ごしていた。

そのため、夜遅くに帰っても誰も椿の事を心配する人はいない。


つい最近まではそれが寂しくてしょうが無かったはずなのに、今はありがたいとすら思う。


なぜなら、今日から椿は毎日のように涙を流すことになるから。



短期間で金を稼ぐ方法は、たった1つ。

花魁になるでもなく、食堂でバイトするでもなく、勉強を教えるでもなく、体を売ることだった。


椿は、授業で使った古文の教科書に、屋根裏で見つけた死体の髪の毛をあさる婆さんの姿が描かれた物語があったことを思い出した。

時代は違えど、髪の毛ならば売れると踏んだ椿は、高校生になってから伸ばし続けて、今や背中の真ん中まである髪の毛を耳の下まで切った。長さで言えば30cm以上はあるだろう。


「さようなら……私の自慢」


顔にも体格にも目立った所がない椿だが、髪の毛だけは…女の命とも言われる髪だけは丁寧に手入れをしていた。自慢だった。


それも、金になるならばと大きな裁ちバサミでジョキッと切った。


この時代、そうゆう物を買い取ってくれる店は堂々と点在していたため、椿も堂々と入り、自分の髪の毛を売った。


「ほぉ、こりゃまたいい髪質だね〜。これお嬢ちゃんのかい?」

「…そうですね」

「お嬢ちゃん可愛いから値段上げとくね〜」


なんて言って裏に消えたおじさん。

戻ってきたかと思えば、ソロバンを取り出して何かの表を見ながらカチカチと計算していく。


「ま、こんなもんかな」


値段の表記は現代と違うが、この何ヶ月かでだいぶ分かるようにはなった。


「え、こんなに、」


値段は思った遥か上をいき、自分の見間違いかと思ったが、店主のおじさんが音読してくれたため間違いではなかったと悟り、嬉しく思った。

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