第5話

「ははっ。まぁ良い。それはそれで可愛いものよ」


何故こうも思っていない言葉がスラスラと出てくるのか。しかし、思ってもいない言葉だと分かっていても照れてしまう自分がまた、恥ずかしい…その繰り返しだった。


「は、花札か百人一首なら、できます」


なんとか話を逸らそうと、椿は先程彼からされた質問に答えた。

現代でもこのふたつのカードゲームは、ルールも知っているし、なんなら百人一首に至っては大会にだって出たことある。


「……そうか。ならば花札をやろうか」


そしてあっという間にユウキの空気に飲まれた椿は、遊郭という空間を楽しんでしまっていた。遊郭とは、体の関係ばかりだと思っていたがこうした、遊びもあるのだと分かり偏見がまたひとつなくなった。


花札とユウキとの会話に夢中になっていると、気がつけば辺りに一緒に来ていた友達は全員居なくなっていた。いや、逆か。

椿があの広間から居なくなったのだ。


ユウキの仕事部屋…体を重ねる個室へと連れてこられた椿は初めて危機感を持った。

それを感じ取ったのか、ユウキは少しだけ椿から距離を取り、壁によりかかった。


「緊張しているのか?」

「しますよ…もともと私は食事だけのつもりでしたのに」


現代人だとバレないよう、女将さんから聞いて覚えた言葉を使う。やはり同じ日本と言えど、発音やイントネーション、言葉遣いは少しだけ違う。現代人だとバレれば色々面倒なことになると目に見えていた椿は、様々な場面で気を使っていた。


「友達に誘われたのか?」

「おっしゃる通りです」

「その割には、随分と楽しそうにお話していたのにな」

「…そうですねっ!!」


煽りをまんまと受けて、苛立ってしまう椿。ついつい口調も戻ってしまう。


「ははっ。……まぁ楽しかったのなら良かった。こちらとしても相手をした甲斐が有る」


怪しまれたかと思ったが、そんな素振りを見せず笑うユウキ。彼は笑う時は目が細まり、少しだけシワが寄るのだとその時初めて気がついた。


「また来てくれ。お前となら、楽しめそうだ」


時間の終わりを耳元で知らされ、ゾクゾクとした感覚が耳から腰に伝わる。


「…なっ…」


椿の頭に、大きな手をひとつ置いてまたな、と言う彼。その時感じた胸の痛みは、知らないフリをした。

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